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第2回 教職員との信頼関係をつくるための9つのキーワード①

教育委員会の立場から「平成」の校長たちに学び、自身も校長として現場に立ち実践を続けてこられた竹内弘明先生(現・神戸親和女子大学教授)に、「令和」の学校経営を担う校長先生たちへ受け継ぐべきスキルとノウハウを語っていただきます。
※第2回~第4回にかけては、管理職として教職員との信頼関係をつくっていくための基礎・基本となる9つのキーワードを紹介します。

 学校は縦社会ではありません。校長の権限でもって上意下達的に職員に仕事をさせることは難しい職場です。
 また、校長は教職員に対してあまり大きな権限はもっていません。校長の一存で教職員を昇級・昇格させることもできませんし、処分する権限もありません。教職員の昇級は定例的に行われますし、特別昇給や勤勉手当の加算などを推薦することはできても、その金額のために校長の方を向く教職員はいません。懲罰についても、処分は教育委員会が行います。校長の権限で懲罰を与えることはできませんから、校長の顔色を伺って言うことを聞くなどということもありません。あとは人事異動の際の内申くらいですが、これも慎重にしないと、根拠もなく不当な内申をしたとなると後々の災いになります。つまりは「アメ」も「ムチ」も持っていません
 そのようななかで、校長として教職員を率いて行かねばなりません。職人気質の教職員たちをいかにその気にさせ、意気に感じさせるか、人を動かす術が必要です。
 そこで大きな力となるのが「信頼関係」です。職員が校長を信頼していてこそ、校長の思いも職員の心に伝わっていきます。そのためには、校長自らが職員を信頼することです。組織運営の根幹は信頼関係です。まずは教職員との信頼関係の構築を図ってほしいと思います

①教職員と話をする「コミュニケーションスキル」
 

 職員との信頼関係を構築する――その第一歩として多くの校長が異口同音におっしゃるのは「教職員と話をする」ということです。教職員と話をすることでこちらの思いを伝えること、そして教職員の考えを知ることができるということです。
 かつて経団連の会長であったキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は、ビジネスリーダーにとって最も必要なスキルはコミュニケーション能力であると述べています。彼は日々の対話を通して社員の意識改革をうながし、当事者意識を植え付け、キヤノンを今の会社にしてきました。
 校長が学校運営を行うと言っても、実際一人では何もできません。教職員に動いてもらわないと何もできません。教職員に校長の思いを伝え、「こうしてほしい」と言ってそれでみんなが動いてくれたら何も苦労はありません。「国がこう言ってます、県から通知が来ています」と言ってすべてが動いてくれたら楽なことです。でも現実はそう簡単ではありません。
 不満を持っている教職員に対して、どのように説得して、理解・協力を得ながら校長の思う学校運営を進めていくか。そこが難しいところであり、校長の校長たるところでもあるわけです。

「嫌いな人」とも話をする練習
 これから管理職を目指す人にぜひ行ってみてほしいのは、人間関係を構築するトレーニングとして「嫌いな人と話をする練習」をすることです。
 正直に言って、嫌いな人との関係の構築は嫌なものです。できるなら避けていきたいところです。しかし、嫌いな人といっても相手も大人の人間ですから、話しかければ応じてくれるはずです。何か話題を見つけて会話をするところから関係はつくっていけます。そのうち、学校の課題についても話ができるようになるでしょう。
 教職員同士の関係なら、「あの人は嫌いだから」と口も聞きたくない人とは話をしなくても事は足ります。でも、管理職になれば、どんな教職員でも自分の管理下にあります。嫌いだからといって避けていては、いつまでたっても関係は良くなりません。

「苦手な人」を人材として活かす
 管理職として、教職員全員の監督をし、その人材を活かしていくためには、嫌いな人や敵対する人といえども傘下に抱えて人間関係を構築する必要があります。
 お互い嫌っていれば敵対もしますし、学校運営の邪魔もされます。それでは組織としての力は弱くなっていきます。逆にそういった人と関係ができれば、大きなプラスになっていきます。
 例えば職員団体の役員。立場上、校長の学校運営に反対することが多いかも知れませんが、校長という立場で強引に物事を進めても、彼らは横を向いて協力してくれません。動いたとしても渋々ですから、十分な仕事をしてくれません。ひどいときは邪魔をしてきます。
 でも、彼らを味方につければ、物事は進めやすくなります。立場の異なる者や敵対する者と関係をつくる。つきあいにくい人だからこそ、こちらから話しかけて、人間関係を構築することが大切です。すぐに協力してくれるとは限りませんが、一方でその人の思いも分かるようになります。その思いを分かってあげれば相手も悪い気はしません。そんなところから少しずつ関係をつくっていくことが大切です。その人の思いにも配慮し、こちらの思いを伝えていくことで、大きな反対をすることもなくなっていくかもしれません。反対はしてもこちらの立場を理解してくれていれば、その後の取り組みようがまた変わってきます。
 また、話ができるようになると、学校の取り組みへの思いや校長への真摯な意見もぶつけてきます。校長もそうした批判を謙虚に受け止めることで、裸の王様になることはなくなります。

まずは「挨拶」から
 もちろん、それでも端からそのような気がない人もいるかもしれません。でも、そのような人とも関係を作っていくためにも、まず挨拶は欠かさないことです。
 「挨拶は心の扉を開く鍵」と言いますが、嫌いな人にでも、こちらから挨拶をしていくことです。無視をしていたら相手も無視してきますし、関係の構築は難しくなります。
 こちらから挨拶しても、返してくれない人もいます。何様?と思いますけど、腹を立てても仕方ありません。「こんな人なのだな」と思いながらも、挨拶をしておくことで話もできるようになると思います。
 「接遇」と同じで、相手を気持ちよくしてあげることがポイントです。ニコっと微笑んで「おはようございます」と言えたら良いと思います。そうすれば相手も悪い気はしないのではないでしょうか。コミュニケーションスキルを身につけるためには、嫌いな人に対しても挨拶は欠かさないことです。

課題のある教職員との関係をつくる
 課題のある教職員に対しても同じです。何かあったら相談にのれる良好な関係をつくることができれば、トラブルが起きた場合も相談してくれます。相談してくれれば、対応もできます。
 関係が悪ければ、何かトラブルを起こしても隠そうとします。発覚してしまったときにはもう手遅れになっていることもあります。
 課題のある人が学校にとってマイナスになるというのであれば、そのマイナスを0にする、0でなくても、少しでも0に近づけるよう、関係をつくることも管理職になれば必要なことでしょう。

②「よく話を聞く」

 信頼関係構築の基本は「話をすること」ですが、さまざまなことを決定していく際にも「教職員の話をよく聞くこと」が大切です。賛同する者だけでなく、反対する者の意見、少数意見、影響を受ける立場の者や異なる立場の者などの意見もしっかり聞くことです。事前に関係職員の話を聞き、理解や協力を求め、調整や配慮をすることは大切なことです。
「よく聞くこと」とは「傾聴」です。間違っていると思っても、それは違うとすぐに否定するのではなく、まずはひととおり話を聞くことです。途中で遮って、話を否定すると、話している方は、話をする気がなくなっていきます。
 聞くときは親身になって聞くことです。いわゆる「聞き上手」であることが求められます。話した人が、話をきちんと聞いてくれたと実感するような聞き方をしないと、効果はありません。途中はあいづちを打ちながら、否定をせず、ひととおり聞いてあげることが大切です。そのうえで、助言という形で話をしてあげるといいでしょう。カウンセリングのような感じで聞くことです。

教職員一人ひとりの話を聞く
 校務分掌決定の際にはよく希望調査を行い、それに基づいて決めていくことが多いと思います。その調査用紙の紙面には現れませんが、希望の軽重があったり、他の教員との相性があったり、いろいろと事情があります。「一任」と回答していても本当はこれがやりたいとか、これだけは避けてほしいという希望もあります。そんな思いを1人ひとりと個別に話をし、思いを聞きながら調整をしていくと良いと思います。
 もちろん大人ですからどのような分掌であれ仕事はするのですが、やらされ感で仕事をするのではなく、意欲的に取り組むことができるよう、職員の思いを聞き、希望に添わない場合でも理解と協力を求め、何かしらの配慮をする等、職員との対話に労を惜しまないことです。

学外の関係者の話を聞く
 また、学校の取り組みに関することなら、何かを行う前に、同窓会やPTA、地域の意見なども聞いておくと、後々苦言を言われることもないでしょうし、校内で取り組みを始めるときにも「同窓会もPTAも了解してくれています」と言って話を進めていくこともできます。

校長室の扉を開けておく
 それと、いつでも話をすることができるような環境づくり、雰囲気づくりも大切です。
 いつも校長室のドアを開けておくというのも、多くの校長が行っている手法の1つです。校長室のドアが閉まっていると、重々しい雰囲気になります。相談したい、話をしたいと思っても、校長がいるかいないかも分からないし、仕事の邪魔をしてはいけないと思うとノックをしにくい雰囲気になります。
 ドアを開けておくことで在室のサインになりますし、「開いているときは来てもらって結構です」という意味になりますから、ノックしやすくなります。閉まっているときは、留守にしているか、来客や会議中ということで、職員からも分かりやすいです。そうしていると、子どもたちもドアが開いているときはのぞきに来たりして、話をすることもできます。開かれた校長室はとても好評です。

③「感謝と労い」

 教職員と話をすることと併せて、教職員への感謝と労いの声をかけることも忘れてはなりません。授業はもちろん、学校行事や部活動の大会等の前後に声をかけ、謝意を伝え、労を労うことです。子どもたちの教育は校長1人では何もできません。子どもたちと向き合うのは教職員であり、教職員が汗をかいてこそ充実した教育を行うことができます
 その教職員に対して常に感謝の気持ちを持つこととともに、それを言葉にして労いの言葉がけを行うことは大切なことです。これは事あるごとに言うことです。
 行事当日の朝には「何かと大変で気を遣いますが、よろしくお願い致します」。その日の終わりには「お疲れ様でした。お陰で無事に終了しました。ありがとうございました」。
 翌日も「昨日はお疲れ様でした。お陰様で他の方々からも良かったと仰っていただきました。ありがとうございました」と、事あるごとにお礼と労いの言葉をかけることです。教員だけでなく、事務職員にも同様です。「庭の花がきれいに咲いていたね、ありがとう」。「旅費の請求ややこしくて大変ですね、遅くまでご苦労様。ありがとう」。
 教職員も認めてもらうことでまた意欲を持って仕事に取り組んでくれます。自分の仕事を認めてほしい、頑張ったことを褒めてほしい、と思う教職員は少なくありません。特に若い人に対しては小さいこと、当たり前のことでも、1つ1つのことを褒めてあげたり、労をねぎらってあげるととてもうれしいものです。若い人にとっては担任の仕事1つをとっても大変です。ベテランの教職員なら難なくこなす普通のことでも、若い教員は不安の中、一生懸命取り組みます。そんな思いを察してあげて、よく頑張ったね、どうだった、といった声かけをしてあげることが大きな励みにもなります。
 若い人だけでなく、ベテラン教員でも同じです。お礼や労いの言葉をかけられて悪い気になる人はいません。どんどん声をかけてあげると良いと思います

第3回 教職員との信頼関係をつくるための9つのキーワード②は、11月初旬公開予定です。

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