『GIGAにとどまる学校、学校DXに進化する学校――ネクストGIGAの新しい学びを求めて』
学校DXの今、そして未来とは
GIGAスクール構想(以後GIGA)から3年が経過し、全国の自治体、学校におけるICT機器整備は確実に進み、1人1台の端末という環境がおおむね実現しました。これまで一部の学校、先進的な先生に限定されてきたICT機器活用は、確実に全国で拡がりを見せており、全国各地から優れた実践が報告されています。
しかし、その反面、全国学力・学習状況調査質問紙調査の結果からは自治体間格差、学校間格差の存在が明らかになっています。たしかに、どの学校でもICT機器を活用した授業が日常的に展開されていますが、その活用を学びの内容でみていくと、学習者同士のやりとりにおけるICT機器活用で大きく差が生じています。
つまり、一見するとICT機器による授業改革は進んでいるように見えますが、その実は、従来型の授業の中でのICT機器活用にとどまり、本来目指してきた「主体的・対話的で深い学び」における活用にはつながっていないというのが現状ということになります。さらに、全国の学校をまわるなかで、担当する先生の一人ひとりの個人差による学級間格差が生じているのを実感します。
このような格差の原因を考えると、これは先生や学校がICT機器に慣れていないからという単純なものではなく、学校という組織のシステム自体が社会の変化に柔軟に対応できないことに起因するのではないかと考えています。その理由として、各地でGIGA以降確実に進化している自治体、学校の存在があげられます。これらの進化する自治体、学校では、ICT活用を目的化するのではなく、学校全体の教育改革を目指し、そのツールとしてICTを活用しているように感じます。つまり、進化する自治体、学校では優れたリーダーが、従来の学校教育の枠組みにとらわれず、明確なビジョンをもって学校教育そのものを見直し、多面的に改革に取り組んでいるのです。
そこで本書では、学校そのものがデジタル・トランスフォーメーション(以下DX)を切り口に、運営システムという根底から見直しをかけ、この社会の変化に対応し、変化の荒波を切り拓いていく存在に進化していくことを目指しています。そして、そのことにより、学校における学びが変わり、学校そのものが変わります。その結果、そこで学ぶ子どもたちの未来が変わっていくことを期待しています。
では、どうすれば学校は変わるのであろうかと考えた時、まずは「立ち位置を知る」ことが重要です。よくも悪くも、現状を正しく把握することからスタートし、そのうえでどこを目指すのかを考え、そのための施策を立案するということになります。ここでは、どこを目指すかというビジョンが大切になります。学習指導要領がその根本となりますが、国の施策として出される「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太2023)」も見逃せないものです。ここでは「第4章 5.経済社会の活力を支える教育・研究活動の推進」で「質の高い公教育の再生等」が示されています。骨太2023では1年単位での予算に基づく施策が示されており、学校DXを推進する教育長、校長は国の方向性を見定める意味で、これらの内容を捉えたうえで、自治体、学校の方針を策定する必要があるでしょう
さて、学校DXは学校の運営システムそのものの改革を目指すと述べましたが、その根本は「学びの改革」となります。これは、学校における教育活動の主体が児童・生徒となることを意味します。つまり「教師主体の一斉教授型の授業」から「学習者主体の探究型の学び」への転換となるのです。
これについてOECDは、OECD Future of Education and Skills 2030プロジェクトにおいて、2030年に向けた生徒エージェンシーを提言し、そのなかで、学習者の学びへの参画を共同エージェンシーの段階として0〜8までのレベルで示しています(表)。つまり、OECDは教師主導の学びからの脱却を世界的な課題として捉え、そこから学習者の参画を増やす、すなわち学習者主体の学びへの転換に世界中で取り組んでいこうとしているといえるでしょう。
「学びの改革」では、まずは教師自身が、日常の授業がこの0~8の共同エージェンシーの段階のどこに当てはまるかを意識することが重要です。これが「立ち位置を知る」ということになります。教師による一方的な知識伝達の授業の場合、おそらくは「0 沈黙」となるし、ICT機器活用によって学習者が活動しているような授業でも、「1 操り」になっていないか、ということです。
あたかも、学習者が自分で選択したり、主体的に活動しているように見えますが、実は先生が誘導しているという授業を実際によく見ることがあります。そのようなときに先生自身が自分の授業における、学習者の参画のレベルを客観的に捉え、改善の視点を得ることが重要なのです。これが「立ち位置を知る」ことにより、「改革の方向性を認識する」ということです。つまりGIGAによる教育改革は、「学びを変える」ことがそもそもの目的であり、そのためには、まず共同エージェンシーというアセスメントで学習者の学びへの参画度を把握し、その結果というエビデンスに基づいて施策を立案するということになります。
次に、ICT機器活用の「立ち位置」から、「学び」を考えてみます。ここで注目すべきは、全国学力・学習状況調査質問紙調査における「学習者同士がやりとりする場面」での活用です。つまり、それまでの検索や発表、表現に関する質問は、従来型(教師主導型)の授業におけるICT機器活用ですが、「やりとりする場面」は、従来型の先生と学習者による「縦の学び」から、学習者同士の「横の学び」に進化しているからです。ICT機器活用による「やりとり」はクラウドを活用した授業となり、結果的に学びのデザイン、テクノロジー活用の両面で、学びが進化した状態といえます。さらに「やりとり」の場面が多い授業は、結果的に前述の共同エージェンシーにおける学習者の参画度も必然的に増していくことが期待されることから、「やりとり」は今後の授業改善のポイントになるわけです。
さて、ここまで「学び」に視点を当ててきましたが、ICT機器整備も改めて考えていく必要があります。GIGAスクール当初の機器整備と、数年後の機器更新を同様に考えてはいけないからです。つまり、当初は「まず使う、とにかく使う」状態であり、国の整備補助対象となる最低限の整備、つまり「基本パッケージ」にとどまっている自治体がほとんどでした。しかしその後の社会変化は、部品不足や為替変動で機器の単価が上昇しています。
また、端末や通信環境も、活用のレベルが上がったことで、求められる性能がグレードアップしています。たとえば動画によるアウトプットが一般化すれば、端末の処理速度や通信環境もより高性能なものが必要となるというわけです。それゆえ、次の機器更新の際は、整備の主体が国・地方自治体であれ、保護者負担であれ、目指す学びの姿に応じて、機器に求めるスペックを検討する必要が出てくるでしょう。さらに、これはハード面だけでなくソフト面も含めて検討する必要があります。
以上のように本書は、学校DXを目指す取り組みをさまざまな視点から取り上げていますが、これらはすべて「学び」を変えるという一点に収斂されます。本書が、すべての学校が未来に向けた学びを目指す学校DXに進化していくことの一助となれば幸いです。
編者 平井聡一郎(本書『はじめに』より)
定価:2530 円(税込)/四六判/208頁
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登壇者:平井聡一郎先生/稲垣忠先生/多勢弘子先生
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