第11回 校長職を楽しむ!
教育委員会の立場から「平成」の校長たちに学び、自身も校長として現場に立ち実践を続けてこられた竹内弘明先生(現・神戸親和女子大学教授)に、「令和」の学校経営を担う校長先生たちへ受け継ぐべきスキルとノウハウを語っていただきます。
※第11回のテーマは「校長職を楽しむ!」。校長職はしんどいことも多いけれど、やりがいも大きい仕事。その校長職を楽しむための実践・心がけについて、ご自身の経験をもとにまとめていただきました。
校長職は大変なこと、辛いこと、誰にもわかってもらえないこと、いろいろあります。やめたくなることも度々です。
でも、子どもたちの明るい笑顔や真摯なまなざしに励まされます。辛いこともありますが、その分、感動も大きくなります。苦労は感動の種です。
校長には上司がいません。校長になるまでに、多くの人は教頭であったり、事務局職員であったり、上司の下で仕事をしてきたはずです。時には自分の思いと上司の思いが異なる場合もあったでしょう。自分は左だと思うけど、上司が右と言う。上司に左を提案したり、説得を試みるが、それでも上司が右と言えば上司の命に逆らうわけにはいかない。しかも部下に対しても右だと、胸を張って言わなければいけない……
しかし、校長には上司はいません。教育委員会の管理下にはあるものの、校長に委任されている部分が多く、教育委員会に相談しないといけないことはそう多くはありません。上司がいないことで、自分の思いで学校づくりができます。今まで、管理職の道を歩む中で、自分の理想の学校像というものを持っていると思いますが、いよいよ自分の理想の学校づくりができるのです。
もちろん、上司がいないということはすなわち、責任は校長が持つことになります。責任の重みは当然ではありますが、そのための準備はしてきたはずです。その重さに不安になるより、校長職のおもしろさ、醍醐味を味わえることに期待してほしいものです。
校長職は感動的な仕事でもあります。しんどい時もある。辛い時もある。でもそれらはすべて感動の種です。しんどければしんどい分、辛ければ辛い分、あとの感動は大きくなります。教員ならばみんな知っていることです。
「管理職受難」の時代とか、校長職は激務であるとか、大変な職と言われます。でもそれ以上にやりがいも大きいものです。校長職を不安に思わず、大いに楽しんでほしいものです。
そのためにも校長間のネットワークを大切にしてほしいです。第2~3回の「人間関係の構築」に関する部分でも述べましたが、ネットワークを広げていくことで情報収集の機会が増えるだけでなく、人から学び、併せて相談できる、支え合える仲間をつくることができます。同期の校長の会、同じ年の校長の会、同じ教科の管理職の会、同じ地域の校長の会、さまざまな会があるかと思いますが、そうした会に積極的に参加することや、そのような会を積極的につくることです。
校長は孤独です。でもそこでは、同じような悩みを持つ者が集まっています。本音で語り合い、相談しあい、助け合い、支え合い、励まし合うこと、そこでまた明日から頑張ろうという鋭気を養うこともできます。そんなネットワークを構築してほしいものです。
校長職を楽しむために、いくつかやってみたいことを考えておくのもよいことだと思います。私自身が行っていた取り組みをいくつか紹介します。
(1)校長だよりの発行
教諭時代に学級通信を発行していたこともあり、校長になったらぜひ発行したいとずっと考えていたものです。着任してすぐに発行を始めました。効果は大きいのですが、三日坊主になって途中で辞めてしまうと、かえって信頼をなくしてしまいます。発行する以上は途中でやめないという強い決意が必要です。
私にとっては趣味でしたから、そう苦もなく続けることができ、教育委員会管理職通信も併せると800号以上発行しました。
校長だよりには次のような意義・効果を感じています。
①情報の共有、プロセスの共有
学校現場は常に仕事に追われ多忙です。また学校によっては教職員数が多く、教職員間の意志の疎通を図ることは容易ではありません。特に自分の関わっていない子どもの情報、また、自分の所属していない部署や学年の出来事、さらには県や国の動き等の情報はなかなか共有できません。
校長だよりでは、学校の動き、子どもの活躍、また教育委員会や文部科学省の動きなども取り上げます。情報の共有が図れていないと「そんな話は聞いていません」といった言葉をよく耳にしますが、校長だよりを発行することで、情報伝達を密にすることができます。時に、「この号に掲載して説明しましたよ」とアリバイにも使えます。「聞いてません」とは言わせないわけです。そして、教職員が同じ情報・プロセスを共有することで一体感も醸成され、志気の高揚にも大きな効果が見られます。
②仲間意識の醸成
学校の話題や教職員のニュースを共有することで連帯感が生まれてきます。
部活動の活躍や教職員の話等、職場のローカルな話題を全教職員が共有するようになれば、校内の小さな取り組みも全員で応援し、部活動の活躍もみんなで祝福できるようになり、仲間意識の醸成につながります。仲間意識の醸成はベクトルの一本化、一枚岩の組織形成に向けて大きな力となります。また、子どもたちの活躍、生活、学習等々、学校がどんどん良くなっていることを紹介することで、教職員も実績を確かめながら、さらなるやりがいを感じるようになります。
③信頼関係の構築
校長だよりの作成は時間がかかります。紙面構成やイラスト等、気を配りながら、読みやすいものを心がけ、大半は自宅での作業です。
こうした地道な発行を重ねることだけでも、教職員からの信頼を培っていけるものです。 また、紙面では常に教職員への感謝と労いを心がけています。校長が教職員を信頼していることもわかってくれ、信頼関係の構築に大きく寄与します。
④学校や教育が見える
いわゆる「ネタ探し」をすることで、学校がよく見えてきます。このことを教職員に伝えよう、あれも記事にしようと、記事にしたいことが次々と出てきます。1年目は年間50号であったものが、3年目は年間130号まで発行した学校もありました。年々伝えたいことが増えてくるからです。
⑤校長の思いを伝える
教職員や子どもたち、教育への思いを紙面で伝えることは、文字として残るため効果も大きいものです。
校長だよりは自分で印刷し、教職員一人ひとりに挨拶など一声かけながら直接配付しています。配る手伝いを申し出てくれたり、教職員用メールボックス、電子ファイルでの一斉送信等、優しく助言をしてくれたりする教職員もいます。でも、直接手渡しでの配付は日頃教職員とあまり話すことのない校長にとっては貴重な機会です。この配付作業のおかげで、ほとんどの教職員と声を交わすことができます。
校長だよりは校長と教職員の距離感を縮めるとともに、教職員のベクトルを同じ方向に向け、組織を一枚岩とし、学校のトータルパワーを高めてくれ、学校運営の一助として大変有効であると自負しています。
(2)生徒面談
私は高校に勤めていたので、毎年高校3年生と個人面談を行っていました。
1人15分程度ですが、1学期から始めて時には3学期までかかりました。基本的には「進路実現に向けて頑張ってね」という面談ですが、生徒の将来の夢を聞いたり、学校に対する要望や思い、本校の良かったところ等も聞きます。そして受験勉強の助言や自分の失敗談も交えて人生訓を話したり、とても楽しい時間です。もともと教師ですから、生徒との時間を持つことはとても楽しく、生徒たちからエネルギーをもらうこともできます。
卒業式ではこの生徒たちに卒業証書を渡します。普通は校長と生徒はあまり言葉も交わすことがありませんから、多くの生徒にしてみれば卒業証書に書かれている校長の名前も印象が薄く実感もわきませんが、面談をすることで校長からの卒業証書に書かれている名前とともに面談で話をしたなあと思ってもらえます。
こちらも、一言も話をしたこともない生徒に卒業証書を渡すのは味気ないものですが、話を交わしていることで心からの祝意をつたえることができます。また、学校に対する思いを聞くことは、例えば募集説明会のような別の場面で学校を紹介する時にも「生徒たちはこんな思いを持っています、学校のこんなところがいいと言っています」と、生徒の声を聞いているだけに確信を持って伝えることができます。
生徒にも好評で、校長室に初めて入る生徒も多く、いい思い出になっているようでした。また生徒の要望も、できないこともあるという断りのうえで聞いてやり、簡単なことであれば実現してあげることができるし、実現できなくても聞いてくれるだけで十分という気持ちもあり、こちらも生徒の思っていることをわかってあげることができます。
生徒面談はなかなかエネルギーを使いますが、効果は大きいと考えています。
(3)生徒会との昼食会
生徒会は生徒の代表組織です。その代表たちと懇談の会を持つのも意義のあることです。生徒たちの思いを聞くとともに、学校としての思いも伝える。学校をよくしていくためにともに意見交換をするのは学校、教職員、生徒、それぞれに効果があります。せっかくの懇談の会なので、昼食を食べながらの意見交換をしています。
生徒たちからは主に学校に対する要望が出てきます。「どこそこが汚い、あれが壊れている」という施設のことから、建設的な意見も出ていきます。それらに対して予算的にこういう状態であるとか、ここは改善できるので検討してみるとか回答をします。また一方で節約のために電気を消す協力依頼なども行います。そうすると生徒会としても協力して呼びかけてくれたりします。また、生徒代表として学校と話し合いをするということで生徒会の意識も高まります。生徒の代表なのだという自覚がより高まることにもつながります。
(4)ミニミニ研修
平素、教職員はみな忙しくしています。会議が多く、まとまった研修会もなかなか時間を確保するのが難しいのが現状です。
でも、教育課題は増加する一方です。ICTやグローバル化への対応や、中教審等の教育の大きな方向性、また、身近な子どもたちのこと、文部科学省や教育委員会の施策……教職員に研修してほしいこと、勉強してほしいことは多々ありますが、いかんせん時間がとれません。
そこで、職員会議のあと、5分、10分の時間をミニミニ研修と題して研修を行ってきました。短時間ですから詳しい話はできませんが、資料を用意し、概要とキーフレーズを話します。そんな話をすると教職員も「忙しくしていてそのことはあまり知らなかった」とか、「気にはなっていたけどよくわかった」と声をかけてくれます。教職員も実は勉強したい、きちんと知りたいと思いながらも日々の仕事に追われなかなか勉強する時間がとれないようです。
ミニミニ研修を積み重ねていくことで大事な課題にも意識を持ってもらうことができます。
(5) 食堂や購買部の利用
学校によっては食堂や購買部があります。そこに時々顔を出し、昼食を食べたり文房具を買うということです。小中学校は給食ですから、食堂はないかと思いますが、高校では多くは生徒用に食堂があります。昼食は弁当を持って行くから食堂には行くことがない、文房具は事務室にあるから購買部に行く必要もない、と思いますが、あえて足を運び、昼食を食べ、文房具などを購入するということです。
ポイントの一つは子どもたちが食べているもの、学校で買えるものを校長も知っておくということです。子どもたちの人気のメニューは何か、よく売れているのは何か、また食堂の味はどうか、生徒に好評なのか、と言ったことは把握しておく必要があります。
美味しくなければ要望も必要です。例えば「ご飯が少し固いのでは?」「少し高いのでは?」といったことを子どもたちや保護者から言われて、「そうですか……」と答えて終わるのではなく、「そのことは私たちも思っていたので要望したところなんですよ」とか、「食材に気を配りこういうものを使ってるので少し高くなってるんですよ……」と言えるようにしておきたいものです。
もう1つは、食堂や購買部の方々も学校関係者です。子どもたちのために汗をかいて下さっています。その方々とも、感謝の気持ちを持ち、関係をつくっておくのは大切なことです。食堂の方はメニューにも工夫を凝らしながら、少しでもリーズナブルにと、頑張って下さっています。購買部の方は子ども達が急な忘れ物にも対応できるよう、早く来て開けて下さっています。入学式や卒業式、ハロウィンやクリスマスなどの節目節目にはディスプレイや装飾をして子どもたちを楽しませて下さいます。学校関係者の方々も子ども達が好きで、時に損得を抜きにして協力して下さいます。時々は足を運び、食事をし、小物を購入し、学校や子どもたちの話をし、感謝の気持ちを伝えていくのは大切なことと思います。
健康管理
校長になったら、自身の健康管理にはくれぐれも留意してほしいと思います。校長の代わりはいますが、家族の中で自分の代わりになる人はいません。家族にとってお父さんやお母さんの代わりはいません。
「くれぐれも自分の体は大事にしてほしい」と言うと、誰もが「そうですね」と納得します。でも、「具体的に何をしているか」というと結局何もしていないという人が多いようです。
例えば、月に一度はジムに行く。テニスやゴルフ、ボーリングといった具体的なスポーツを定期的に行っている。通勤の際に1つ前の駅で降りて、歩いて職場まで行く。毎日1万歩は歩いている。毎年必ず人間ドックに行って健康管理をする。サプリメントを毎日飲んでる。等々、具体的な行動・取り組みを行うことが健康管理につながっていきます。
健康管理は自分のためだけではありません。校長が青い顔をしていると、教職員や子どもたちも元気がでません。いつも明るく元気で胸を張って仕事をするためにも、意識をして具体的な健康管理をしてほしいものです。
第12回(最終回)は3月下旬に公開予定です。
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