見出し画像

きょうだい備忘録(本当に怖いもの)

障害児者を理解してほしい。理解したい。
言うのは簡単だが、実際には難しいだろう。
そもそも、他人を理解する事など、人が出来るとは思わない。

私も弟を理解する事は出来ない。
しかし、怖くはない。という事は、はっきりと分かる。

なぜなら、本当に怖いものを知っているから。



私達は、父親という名前がついた、人間の振りをした得たいの知れないものと同居していた。
そのものは、私達から家、物、食べ物、母親など、あらゆるものを暴力、暴言という方法を使い奪った。


お腹が空いた弟は、神社のお賽銭を盗み、お店で万引きをした。


真夏の暑い日、私は喉が乾いて死にそうだった。
たまに行く駄菓子屋の前に、冷たい飲み物が入った冷蔵庫があったので、本気で盗って逃げようかと、ギリギリまで考えた。
でも、駄菓子屋のおばあちゃんから軽蔑されるくらいなら、我慢しようと思いとどまった。

公園に行けば水がある。
あの水は、私達の命の水だった。

気温が今よりも高くないから生き延びれた。


ごく普通の中流家庭であり、父親は公務員だ。
近所の人は気づいていただろうが、学校は気づくはずもない。
虐待は、センセーショナルなものではなく、ごく普通に日常、身近なところにあるのだ。


私達は、死ななかったから気づかれなかった。
でも死ななかったから、今を生きている。



弟は人間の振りをした得たいの知れないものではない。人間である。
全く怖くはない。愛すべき存在だ。
何がなんでも、この男の子と、もう1人の小さな弟、そして母親を、父親から守らなければと固く誓ったのは、小学校高学年の時だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?