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【受け継いでしまえ】ていねいに書く雑文⑪20220608

【受け継いでしまえ】

1979年4月8日。この日はうちの両親の結婚記念日だ。結婚記念日を特別祝う家じゃなかったので、親の結婚記念日なんかつい最近まで知らなかった。母は覚えているようだがぶっちゃけ父は覚えていない。よく母は「父さんは覚えとりゃせんのよ」と笑いながら言っていた。

正直なところわたしも似たようなもの。自分の結婚記念日は覚えているが、西暦何年に結婚したか、今何年目なのかは正直よく分からない。

親の結婚記念日を知ったのは、親の結婚指輪の内側に刻印があったから。ついこないだ帰省したときに譲ってもらった。

自分は結婚指輪にこだわりがなかったので、安物の真鍮製のものをつけていた。妻には別でプラチナ製だかのを買った。自分がしていた指輪は完全な輪っかになっておらず、視力検査の輪っかのように少しすき間があるものだった。
グリグリっと指でやることでサイズ調整ができる。年を取ると指が太くなるらしいからちょうどええわと思っていた。

しかし、家族に言われて気づいたが、輪っかが途切れていることは縁起が悪い。そう言われればたしかにそう。真鍮製の指輪は黄色く変色してしまったこともあり、そのうち新調しようと思っていた矢先、ナイスなタイミングで良いものを手に入れたというわけだ。プラチナ製なので変色もしない。

ここで「そしたら親御さんは指輪できなくなるじゃん」と思ったかもしれないがその心配はいらない。父親は元々指輪なんかしないし、母親は指が太くなったようで結婚指輪はつけられない。母はずっと父のをつけていたぐらいだ。

大事なものではあるけれど、子どもが使うのならベストではないだろうか。外国なんかでは機械式の腕時計を代々受け継いだりするらしいし。この指輪は、今のところわたしが持っているものの中では一番の宝物になった。

お年寄りには「100歳まで生きてね」なんて言うが、誕生日や父の日母の日に、わたしは両親に「あと50年よろしくお願いします」と言うようにしている。なんならわたしの寿命を10年ぐらい分けたいぐらいなのに、ゴールを決めるとカウントダウンされていく感じになってしまってイヤなのだ。

ついでに言うと母には「産んでいただいてありがとうございます」と、ことあるごとに伝えているが、なぜかいつもノーリアクションだ。でもそれはまぁいい。

自分は家族に恵まれていると、心の底から思っている。尊敬する人物は両親だ。親の期待通りに育ったとは言えないだろうけど、我ながら優しい大人にはなったと思うのでよしとする。

今この瞬間にもわたしの左の薬指にある指輪は、子どものときからずっと見てきた母の薬指にあったものだ。なんだかよく分からない模様にも見覚えがある。

意外と普段身に着けるものを親からもらうってあんまりない気がする。形見分けとかそんなしんみりとしたシーンになる前に「ええのもろたわ」としょっちゅう親に見せに行こうと思う。

両親が1979年に結婚したと分かったことで、意外な事実に気づく。わたしが1986年生まれで、兄は1983年生まれだから、3年ぐらい両親は2人きりで暮らしてたんだなと。今度そのへんのことも聞いてみよう。

多分「覚えとりゃあせん」じゃろうけど。

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