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「伝わる発表」をしたい

2023年8月10日公開 2023年8月10日最終更新
京都ひかり天文台メンバー 騎西健太/きさいけんた


1 本稿の目的

 京都ひかり天文台は、宇宙科学関連の知見を一般の人々へ伝える役割を担うとともに、知見の発信を通して人々の暮らしに貢献することを目的に活動しています。科学の伝え手としてこの目的を達成するためには「伝わる発表」が必要です。では「伝わる発表」をするには何が必要でしょう?本稿では著者の考える要素として、①自身の発表内容に関心をもっていること、②物語を語ることの2点を解説することを目的とします(図1)。

図1 著者の考える「伝わる発表」に必要な要素

2 自身の発表内容に関心をもっていること

 発表するくらいですから、発表者は当然自身の発表内容に関心をもっていると考えがちです。しかし発表者の中には、様々な事情から発表するのを余儀なくされている人もいるようです。この場合発表が聴衆に伝わるとは考えにくいです。たとえ発表が下手でも、発表対象に関心をもって取り組んだ成果は聴衆に伝わりやすくなるはずです。
 著者は、7月23日から27日にかけてフランス・リヨンで開催された国際計算生物学会(iSCB)主催のISMB/ECCB 2023に参加してきました(図2)。著者にとってはじめての国際学会ということもあり緊張もあったのですが、ポスター発表時にお酒が振舞われるなど、くだけた雰囲気であったため、楽しんで参加することができました。ポスター発表では、フィンランドとアメリカの博士課程の学生及びドイツの博士研究員と話す機会がありました。彼ら彼女らは大変研究に熱心で、研究を心から楽しんでいる様子でした。そしてその分野の第一人者として、同分野の世界中の研究者と切磋琢磨して、生物の理解及び医療の発展に貢献していきたいとのことでした。近い分野の研究を行っている著者にとっては、彼ら彼女らの発表は大変魅力的に映りました。
 著者の場合は興味のある発表のみ聴くことが可能でしたが、自身の興味のある発表がわからない場合や興味の対象外の発表も聴いてみたいと思うこともあると思います。この場合には、聴衆は自身を魅了する発表を待っていることになります。次に「伝わる発表」に大切なもう1つの要素を解説します。

図2 ISMB/ECCB 2023の様子

3 物語を語ること

 「伝わる発表」にとって著者が最も大切にするのは物語を語ることです。ここでは研究を例に「物語を語る」とはどういうことかを解説します。著者の言う「物語を語る」とは、【起】どうしてその研究をする必要があったのかを明らかにし【引き込む】、【承】どのように研究を行ったのか手順を記載し【センスを披露する】、【転】どんな結果が得られたのかを示し【魅せる】、【結】論じて結ぶ【締めくくる】の順番で発表を行うことです。人気を博す小説やドラマの構成は、起承転結がしっかりしていると思います。それと同じで、研究発表も物語を感じられる発表ほど、つまり起承転結がしっかりしている発表ほど魅力的に映るような気がします。
 小説やドラマと同じように、発表でも起承転結の起、すなわちどんな物語がはじまるのかを明らかにする部分がとくに重要な部分であるように思います。昔話『桃太郎』でいうと、桃太郎が鬼退治に向かうことを決めた部分、これが発表でいう目的に相当する部分です。桃太郎が鬼退治という目的に向かって物語が進んでいくように、発表も目的の達成に向かって進んでいくべきです。そして起承転結の結では、目的がどこまで達成できたのかを示すべきです。こう書くのは簡単ですが実際には難しく、著者自身も発表を行う際に物語を語ることができていないことがあるので、偉そうなことはいえません。しかし以上を意識するだけで「伝わる発表」に近づくと考えています。

4 本稿とあわせて聴きたい1曲

 本稿で紹介するのは、けやき坂46「ひらがなで恋したい」(2018)(作詞:秋元康、作曲:ふるっぺ(ケラケラ))です。発表もそうですが、どんな場面でも「伝わる」ためには伝え手の工夫が必要だと思います。歌詞にあるように、単純で明快な言葉で伝えることも、ときに有効なのかもしれません。

文献

けやき坂46 (2018) ひらがなで恋したい. https://www.keyakizaka46.com/s/k46o/page/hiragana_album, 2023年8月10日最終確認

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