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京都便利堂「便利堂のものづくりインタビュー」第4回 後編

第4回 制作担当:上甲敦子 (写真左) 聞き手:社長室 前田(写真右)

便利堂ものづくりインタビュー(4)前編はこちらから

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英国王室秘蔵の日本美術をまとめた初の図録

―――年内には『海を渡った日本と皇室の文化』が発売されます。
「これはイギリスで開催される、英国王室のコレクションとして300年にわたって伝わってきた日本美術の展覧会図録です。日本の美術品を通して、どのように日本の文化が海外、特に英国に受容されていったか、そして両国を結ぶ英国王室と日本皇室の交流の歴史も明らかにされています。」

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漆器や屏風、甲冑も

―――この展覧会では日本の美術作品だけが紹介されているんですね。
「こうした試みは初めてのことだそうです。イギリス王室が買い集めたもの、日本から持ち帰ったものや日本から贈られたものが中心となります。磁器や漆器、金工や武具、刺繍絵の屏風などが数多く紹介されています。日本が鎖国するまえに、短い期間ですが日本とイギリスは直接交流していて、そのころに将軍から贈られた甲冑もロイヤル・コレクションに登録されているそうです。」

―――外交が復旧してからはどうだったんでしょう?
「江戸時代から昭和初期まで、イギリス王室と日本の外交や文化交流は、優れた美術品の贈答が中心だったそうです。天皇から国王、女王や王族へ贈られた品々もたくさん掲載されています。そのため、ロイヤル・コレクションには日本が誇る熟練した職人技で作られた作品がたくさん集まったんですね。」

―――読み物としても楽しめそうです。
「外交秘話なんかがたくさん書かれていて、記載されているエピソードはほとんどが今回初紹介の内容となっています。例えば、女王ヴィクトリアの孫、のちに国王ジョージ5世となるジョージ王子と、その兄アルバート王子は10代の頃に日本を訪れて、明治天皇と明憲皇太后に謁見したそうです。この滞在中に彼らは入れ墨を入れたんですって。アルバート王子は対のコウノトリ、ジョージ王子は西と東を意味する組み合わせである虎と龍だったそうですが、そんな話、普通ではなかなか読めませんよね。」

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初版限定2000部の貴重資料

―――コレクションにそんなエピソードが合わさるとぐっとおもしろみが増します。
「宮殿に置くのにふさわしい豪華な品々は写真がとても美しくて、写真集としても、読み物としてもどちらも抜きん出ています。王室コレクションの日本美術を一冊にまとめた、過去に例がない1冊であると同時に、初公開のエピソードがまとめられており、資料としてもとても貴重です。残念ながら初版2000部だけの限定刊行となっています。ご興味のある方はこの機会にぜひ手に取っていただけると嬉しいです。」

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たくさんのひとの手で作られる「本」

―――発売に向けてラストスパートですね。
「翻訳していただいたものを、「わたしたち素人が読んだときにきちんと意味が通じるもの」になっているかをチェックします。入力ミスひとつで言葉の間違いが出てしまうので名称が正しいかの確認も大切です。どんな仕事でもそうですが、地味な部分がとても大変で、一番手間ひまをかけるところです。」

―――そこもまた「便利堂品質」でしょうか?
「便利堂は写真や印刷で評価をいただいているので、便利堂品質というとそちらが主だったものかもしれません。でもわたしは、決して日本語をないがしろにしてはいけないと思っています。どうしてもミスはありますが、誤字脱字は「言葉を大切にしていない」ということです。後世のため、だれかに伝えたいことがあって記録を残そうとしているのに、その校正が不十分だったり、日本語が正確でないのは情けないことでしょう?」

―――伝える先、読むひとのことを考えたものづくりですね。
「自分も本が好きなので、受け取り手としての発想でもあるかもしれません。本を読むときにはいつも「こんな素晴らしい本をいったい誰が作ってくれたんだろう」そう思いながら読んでいます。仕事をしていると、著者や名前の出るひと以外にも、本はたくさんのひとの手で作られていることがわかりますから。」

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「伝わりやすさ」「コンセプト」「デザイン」を大切に

―――便利堂の本もそうですね。
「わたしたちは大事なことを後世に伝えたい、後のひとに役立ててほしい、そういう気持ちで本を作っています。そうした意味で便利堂の本は「よいものを作っている」という気持ちのよさがあります。なかでも「伝わりやすさ」は大切にしていて、どんなに立派に見える本でも読者の立場に立って、伝わりやすく書けているかどうかを考えます。なぜなら便利堂の本はどれも専門家だけではなく、一般のひとたちに向けて作っているわけでもありますから。」

―――ほかに本づくりで大切にしていることはありますか?
「「伝わりやすさ」のほか、便利堂の本は「コンセプト」や「デザインの面白さ」も大切にしています。わたしは、それこそが便利堂品質なのではないかと思います。」

―――妥協をせず、とことんまで考える姿勢を感じます。
「大切に手に取ってもらって、長いあいだ手元に置いて見てもらえるもの、そういうものづくりをしようという考えが便利堂にはあります。本づくりはひと次第です。予算や時間に限りはありますが、便利堂にしかできないものを、材料選びからこだわりぬいて、手を抜かずていねいにしています。」

最高のものをわかりやすく届けること

―――最後に、上甲さんが考える便利堂のありかたを教えてください。
「そうですね、自分も地方の出身だから思うんですが、遠くに住んでいたり、家族の世話で忙しかったりして、気軽に美術館へ行ったりできるひとばかりではないですよね。そういうひとに、美しくていねいに作られた本で美術を楽しんでもらえたらうれしいですね。便利堂がしているのは、ごく普通のひとへ、最高のものをわかりやすく手軽に楽しんでもらえるよう届けることです。大好きな絵の複製を、たとえ小さな絵はがきひとつでも部屋に飾っておけたら気分のいいコーナーが作れると思うんです。」

便利堂の本作りの編集を担う上甲さんのものづくりに対する思いを2回にわたってお届けしました。次回は、便利堂の「色」にまつわるお話しです。文化財や美術品など、本物の色を印刷物で表現する便利堂の美術印刷を支える「色校正」のエキスパートの声をお届けします。

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『海を渡った日本と皇室の文化』について詳しくは「特設ページ」

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