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Spotify交換日記 その7

アンテナ編集部の中でも典型的洋楽リスナーの阿部とJ-POPをよく聴く丹。一見すると全く趣味が合わないようにも見えるが、そこにはタッチポイントがあるはず。かつて相手の趣味を探りながら「これめっちゃいいよ!」「おお、いいじゃんこれ!」なんてCDの貸し借りをしたようなあれをやりたい。興味さえあればクラスタの枠なんて関係ないはず、そんな気持ちで自分にとって新しい音楽にワクワクしていきたいじゃないですか。コロナも落ち着かず世間は依然として不穏な空気が流れていますが、異なる2人の関わりを通して融和のかたちを示せたらいいなとか。話大き過ぎ?いやいや、そんなことないはず。

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阿部 仁知(あべ ひとし)
アンテナの他にfujirockers.orgでも活動中。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。
好きなアーティスト:Elliott Smith、Radiohead、My Bloody Valentine、中村一義、The 1975、Cornelius、Four Tet、曽我部恵一、Big Thief、ROTH BART BARON、etc...
Twitter:https://twitter.com/Nature42
丹 七海(たん ななみ)
97年生、大阪の田舎ですくすく育った行動力の化身。座右の銘は思い立ったが吉日。愛猫を愛でながら、文字と音楽に生かされる人生です。着物にハマりました。
好きなアーティスト:サカナクション、King Gnu、back number、椎名林檎、ポルノグラフィティ、[Alexandros]、Creepy Nuts、エレファントカシマシ、etc…
Twitter:https://twitter.com/antenna_nanami

さてさてどうも。はろーべいべーあべです(この挨拶定着させたい)。この企画も早くも7回目。激動の上半期を終えてこれからどうなっていくか、そんなことも考えますね。そんなわけで今回はちょっと趣向を変えて、前回の丹さんの5曲を受けての5曲を選曲しました。「これ好きならあれも気に入るんじゃね?」ってめっちゃ健全なやりとりだと思うんですよね。選んでみて「ちょっとハードルの高い選曲じゃないか?」ともうっすら思いましたが、それも「あれが好きなら気に入ってもらえるはず…!」という信頼ゆえと受け取ってもらえたらなと。どんな風に伝わるかなー、ちょっとドキドキしてますが、今月はこの5曲です!

Uh Uh / Thundercat

去な 宇宙 / ENDRECHERIからの連想は、Eテレで中村佳穂と共演したことも話題となった雷猫ことThundercatから。彼は様々なコラボレーションをしているのでオススメしたい曲は色々あるのですが、根幹にあるのは超絶ファンキーなベースプレイとジャジーなエレガンス。それが存分に堪能できるこの曲を聴いてもらいましょう。僕は正直上手いのはプロなら当然でそれがどう活かされているのかを気にする性質なのですが、語らずとも雄弁なプレイングが何も言ってない“Uh Uh”の情感をこの上なく引き出してるのがカッコいいなーって思うわけですよ。丹さんもぜひ。(阿部仁)

ENDRECHERIが好きな理由の一つに、形容し難いメロディラインの存在があります。どこか荘厳で近寄り難く、神秘的だからこそ惹かれる人間の心理。神様を恐れながらも崇めてきた日本人のDNAが、私には音楽という形で引き継がれているのかな、と最近考えています。さて、この曲のメロディもその感覚に近しいものを感じました。阿部さんのレコメンドする通りエレガントを包含しながらも、深い紫色をした触り難い荘厳さ。体を左右に揺らしたり足でリズムを取るよりも、目を瞑ってじっと聞き入りたい魅力を感じます。ベースだけが奏でる音色がこんなにも艶やかだとは、この曲に出会うまで知りませんでした。普段ロックサウンドやボーカルがメインの曲を聴くことが多いからでしょうが、今後はベースやドラム、ストリングスといったバックを彩る楽器たちにも注目して聴いていきたいものです。(丹)

This Is America / Childish Gambino

結構迷いました。生業 / Creepy Nutsから連想するならヒップホップだろうというのはすんなり決まったものの、聴きやすいやつ選んでていいのかと葛藤して決めたのがこの“This Is America”です。2010年代最重要曲のひとつで、今なお、むしろ今だからこそ影響力が高まっている曲とも言えるでしょう。This Is America評はめちゃくちゃ沢山あるのでぜひ探して欲しいんですが、一見朗らかにも聞こえるコーラス部分で“Get your money”と“Black Man”が交錯するところ(Get your Black Man)はいつ聴いてもゾワっとしてしまいます。でもこの曲はクラブシーンのアンセムでもあって、大音量で踊りながら何か感じとったりとらなかったりする夜を過ごす、誰が言ったか「ポップカルチャーは社会の写し鏡」そのものなんですよね。衝撃のMVと、リリックビデオもあったと思うのでそちらもぜひ。(阿部仁)

Youtubeの 動画再生回数が7億回ってところにまず目を見張りましたが、それだけ多くの人々がMVに、ひいてはこの曲に何らかの興味関心を抱いているという証拠なんですよね。音楽というカルチャーを通して、問題提起を社会へ投げかける土壌がある。彼らの歴史を振り返って、それが良い土壌とはおこがましくて言い切ることはできませんが、日本ではあまり見られないアプローチであることも事実。日本の音楽はどうもその辺りを線引きをしているというか、腫れ物扱いをしてタブー視している傾向がある様に思います。こちらも良い悪いはさておきですが。音楽を楽しむ以上の価値を汲み取る感度が身に付けば、世界はもっと鮮やかになるに違いないですね。(丹)

Rank & File / Moses Sumney

I beg you / Aimerは僕のレパートリーと全然違うようなところなのでこちらも迷いに迷いましたが、肉感的な歌声の妖艶さとおぞましさすら感じる不穏な空気から連想したこちらの曲で。“This Is America”同様、こちらも今だからこそ響く(響いてしまう)曲だと思います。2年前の夏に岡村詩野さんのライター講座で僕が初めてレビューらしきものを書いた思い出の曲でもあって(思えばANTENNAと出会ったのもそこでしたね)、そのレビューは実はしれっと公開してるのでぜひそちらも読んで欲しいんですが、最終局面で微妙に表現を変えながら“-mblin' into Rank & File”と畳み掛ける様は圧巻です。その場で作り上げていくライブビデオもぜひ(阿部仁)

音楽を聴いていると、曲に抱いた感情が色や香りのイメージとリンクする場面に遭遇することがあります。例えばそれが“Uh Uh"で述べた紫色だったりするんですよね。数字に色をなぞらえたり、文章に味を感じるといった現象とよく似た奴なのかなぁ。耳で聴く以上に生々しい世界が広がるから、私はこの性質をとても気に入っています。“Rank & File"を繰り返し聴くうちに、朝方の薄暗い森に漂う霧の香りが漂ってきました。仄暗いメロディと隣り合わせにいる軽快なリズムが、そう感じさせるのかも。朝日が昇りきらな時刻の霧って、少し怖いけどすごく心地よいじゃないですか。洋楽は歌詞による先入観が少ない分五感を敏感にして捉えることができるので、毎度新しい世界に出会えてとても楽しいです。(丹)

Stockholm Syndrome / MUSE

こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、僕がポルノグラフィティ、とりわけ“Zombies are standing out”に感じてるのは厨二感なんですよ。そんなわけで僕が挙げるのは、何度叫んだか“I wish I could”、UKから世界を掴む過剰の王様MUSEです。どっかのメディアの人気投票で各パートの上手い人を募集したら全員MUSEのメンバーだったなんて笑い話もあったんですが、彼らはとにかくスーパーマッシヴにこれでもかと主張してきて、その交錯の中で甘美な歌メロに陶酔するんです。貶し言葉みたいに「厨二感」とか言いましたが僕にとっては褒め言葉でしかなくて、ただただ「たまらねえええええ」ってことなんですよ。ライブ映像もスケール大き過ぎて笑えてくる。こればっか聴いてると胃もたれするので近頃はあまり聴いてないですが、久々に聴くと痛々しかった高校時代を思い出しますね。この文章も痛いですか、はい。(阿部仁)

えっちょっと待って、この曲めっちゃ格好良い……。理屈もへったくれもなくテンション打ち上がる感覚を全身に浴びております。なるほどこれが阿部さんの思う厨二。人間誰しも中に心を持ってんですから、それに関する物事に惹かれるのは世の常。私の場合は「歌詞」に厨二を感じる人間で、更に歌詞とメロディ、リズムが絡み合ってとんでもない世界が構築された瞬間、堪らなくなるんです。厨二に関する議論を始めたらオタクの鱗片が見えてしまうので程々に。いやしかしミューズって、音楽の女神の名を冠するバンドとして最高じゃないですか。めっちゃかっっっこよ……。8月のマンスリーリピート決定。(丹)

Hyper-ballad / Björk

Radioheadと迷ったんですが(好き過ぎると逆に紹介しにくいんですよ)、アイスランドが誇る表現の化身Björkです。難解だ難解だと言われがちな両者ですが、宇多田ヒカルや椎名林檎のリファレンスのひとつなことは確かなので、多分そう遠くはないんですよ。さて、世界が終わるならエンドロールに流したいこの“Hyper-ballad”。フジロック2017の大トリでは後半のキック連打のところで花火が打ち上がったんですが、その思い出もあってこの上ないクライマックス感に圧倒されてしまうんですよね。どこか神経質なエレクトロニカと荘厳なオーケストラの中で一心不乱に歌い上げる彼女の姿、ぜひ観てみてください。(阿部仁)

正直申し上げまして、この曲にどんなお返しをしようかものすごく迷いました。丹史上最高難易度。自分の感情と、ライターとしての役目が相反する部分にもみくちゃにされてしまいました。というのも、私が宇多田ヒカルや椎名林檎に対して抱く感情に、少なからず「崇拝」の念を抱いていまして。過ぎた信仰心は目を曇らせてしまうと知っていても、崇めてしまうほどの気高さと美しさ。なぜそう思うのか? を、いつも考えるのですが、「女性としての格好よさ」に惹かれているんですよね。芯のある真っ直ぐな瞳、彼女にしか描けない音楽たち、確かな自己をもった出で立ち。その姿のどこに「格好よさ」を感じるのか? も考えに考えたのですが、どれだけ考えてもこれ以上分解することができませんでした。感情を言語化するライターとしてどうなんだと思い散々迷った末の結論。何が言いたいのかというと、Björkの凛とした歌声と佇まいに惚れてしまったということです。(丹)

あとがき

前回の5曲を踏まえた選曲ということで、レコメンドを読んでいるとなるほど私の曲と阿部さんの曲はこんな場面でリンクするのか、と頷く場面が多くありました。点と点の音楽をカラフルな線で繋いでいくのは、あやとりみたいでラインナップを眺めているだけでも面白かったです。来月の選曲はどんなアプローチにしようかな。ちょっと今からSpotifyをディグりにいってきます。それでは来月もお楽しみに!

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