ぼくの心を満たすものは?⑥
今では飲んでいないが、白血病を患う前は結構お酒が好きだった。ただ、自分でもお酒が「好き」という表現が最近特に違和感を感じる。そうだなあ、お酒に「逃げる」という表現まで行くと少し違う気もするが、この言葉もお酒を飲んでいた頃を振り返ると含まれているように思う。
ほんと、お酒って不思議だなあ、ていつも思いながら飲んでいた事もよくあった。作り方、作る場所、作る人でこんなにたくさんの種類のお酒がこの世に存在する。それにその場を楽しい雰囲気にしてくれる。たまには女性に振られてやけ酒だ!とかもあったりなかったり。それに年齢と共に飲むお酒の種類も増えていった。学生時代は基本ビールとサワーだった。そこにノリで日本酒が加わる事があったが、日本酒はなんか大人の飲み物のような気がしていた。飲む時はなんか背伸びをしていたような気もする。
社会人になり、ちょうどブームもあったがハイボールが加わり、焼酎、ワイン、ウヰスキー、それにグラッパなんかも飲んだな。
ただ年齢と共に、その時の状況もあるが、楽しいお酒だけではなくなっていった。眠れないから飲む、やる事無いから飲む、自分の存在を消すために飲むなんてことも増えていった。
精神的に病み始めた頃だった。
布団に入っても寝付けない。それで寝る前にお酒を飲むようになった。ただ僕はこれでも強い方なのか、ビールの350ml缶1本では酔えない。だから初めの頃は500ml缶2本飲んでいた。でも効率悪く感じて、トライアングルとかの焼酎を生地で飲むようになった。その頃からだったかな、たまにお酒の匂いが残っていると言われ出したのは。それにスラッグスも急に緩くなり始め、近しい人に「もしかして俺、痩せた?」とか聞いていた。そして体重を久しぶりに測ったら5㎏減っていた。別に運動とかしていないのに。でもそこからだった。なんとなく、精神的に不調をきたして痩せたと思われたくなくて筋トレしたり走ったり、更には食事制限したりした。痩せ始めた頃の体重が75㎏だったかな、そこからなんか取りつかれたように運動したり食べ物に気を付けたりしていたら56㎏まで体重が落ちた。ただ急に怖くなった。自分はどこまで痩せようとしているんだろうと。それに周りは痩せていく僕を見て、運動したりしているのは分かるけどストイック過ぎていたらしく、心配していたようだ。
話がそれてしまったが、他にも本当は良くない事だけど精神科に通っていた頃、近くの公園でお酒を飲んでいた事もあった。もう全てが嫌になって。思うように動かない身体と精神、自分の事でイライラするのに、それに加えて周りから、家族や職場、それに昔から付き合いのある人達みんなが一斉に誹謗中傷。心配で言ってくれている人もいただろう、でも僕には逃げ道がどんどん無くなっていく感じしかしなかった。妻が仕事に行っている間、ずっと飲んでいた事もあった。そんな僕を妻だけはいつも許してくれた。公園で飲んでいた時もあった。その姿を楽しそうに遊ぶ家族に見られた時に言われたのは「ああなったらダメだな」という言葉。きっと僕もそっちの立場なら同じことを言ったと思う。
だから何かにつけてお酒を飲んでいた。飲んで、今の自分の意識から別の意識になる、酔って身体の感覚がおかしくなる、自分の身体の感じがしなくなる、身体がついてるかどうかなんて分からなくなる、もう自分の存在が嫌になり消えていく感じが良かった。今思うと、お酒や人生の時間をなんてもったいない事をしていたんだろう、と思うが。
でも今はお酒を飲む気がしない。
抗がん剤の治療の時に感じた臭気がなんかお酒に酔った時の感じに似ていたので、それが原因かと思う。
なんか、精神が病んでいた時の事を思い出そうとしても、断片的にしか思い出せないな。苦しかった事は覚えているが、思い出そうとすると、記憶の扉を開こうとするとその扉に跳ね返される感じかな、なかなかその扉を開くことが出来ない。開けてみたら何もなかったのなら嬉しいが、そんな事は無い。
SNS上では精神疾患を患う人はまじめな人という記述をよく見る。きっとそういう人もいるんだろうな、て思う。でも自分がそこに当てはまるかというと、きっとそれは無い。僕は今でも、自分が弱かったからそんな病気になったんだと思っている。それ以上でもそれ以下でもない。こんな事を書くと自己肯定感が低い人と思われてしまうかな。でも僕は病気なんて生きていく上で邪魔以外に何物でもないと思っている。病気をした事が良かったことだとは思えないし、それで世の中の真実が見えたとも思えない。人の表と裏を見る事が出来たが、その両面を持ち合わせているからこそ人間なんだと思う。表だけとか裏だけとかいう人なんていない。その全てが絡み合って出来ているのがこの世の中。精神病んだ時に見えている世界は真実の世界ではなく、自分にとって厳しい側面だけしか見えていない世界。視野が狭くなっているんだと思う。自分の今の立場を逆の立場ならどう見るかだと思う。まあそれは症状が酷い時には考える事も出来ないが。
なんか辛くなってきちゃったな。
美味しいアイスコーヒーを飲みながら軽い気分でお酒の事を書こうと思ったのに、結局はこの話。さっきまで青空が広がっていたのに、今窓の外を見たら薄暗い雲が空を覆い始めている。まるで今の僕の心と空はリンクしているのか、と思う。
せっかくの休日、そんな気持ちは嫌だから今日はこの辺で辞めておこう。
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