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ぼくの心を満たすものは?①

 休日のショッピングセンター。
 色とりどりの店舗が並ぶショーケースを横目に、通路にあるソファに腰かける。腰かけるというより何とかたどり着いた、て感じかな。
昨年退院した頃に比べればだいぶ歩けるようになったけど、まだ足の筋肉が戻らない。少し歩くと辛くなる。足がもつれそうになる。もう骨髄移植から10か月経つのに。

 骨髄移植の説明を受けた時に、免疫反応や移植日の前に行われる移植前処置の影響で身体が動かなくなる事の説明は聞いた。また僕も個人的に国立がん研究センターが以前行っていた「急性白血病治療後の生活の質に関する横断的研究集計結果」を見て、普通に生活できるような体力に戻るまでに移植後1年から2年はかかるとは思っていた。

 でも正直休日のショッピングセンターで自分の前を通り過ぎる人達、職場でも白血病になる前は僕よりも体力のない人が今では僕よりも軽々動いている姿、普通に動いている人の姿を見るだけで羨ましく思うし悔しく思う時もある。
 白血病を患った事で、僕の人生において必要のない物が身体から離れていったのだと思うようにしたこともある。ただやっぱり退院してから外の世界を過ごしていて、普通に歩いている人や運動をしている人などを見ると辛くなる。毎日走ったり筋トレしたりストレッチしたりして、これを何年もかけて続けて身につけたモノ。それがあの治療、そして寝たきりになった事でその何年か分の苦労がなくなってしまった。

 失ったものをいつまでも嘆くのは良くない事だと思う。そこに全てが引っ張られてしまい、次になかなか踏み出せなくなってしまうから。

 でも何もしないでいる事は出来ない。何もしないでいると思い出してしまう、意識を失った日の事を、そして寝たきりで動けなかった日々の事を。

 退院後しばらくして腰から両足の指先にかけて痺れが起きるようになった。一時的な物かと思ったがなかなか治まらなくて、通院している大学病院の神経内科の診察を受けた。
 神経の状態を見るために検査をして、一通り検査が終わった後その検査をした医師から、
「原因は分からないけど、一生このままかもしれない。」
と言われ答えを求められた。これだけの治療をしたんだ、何もなく終わるわけがないとは思っていたが正直ショックだった。でもあの治療をしなければ今の僕は確実にここには存在していない。だから、
「生きてこの治療を乗り越えたから、別にいいですよ。」
と答えた。
 今の世の中だったら、大騒ぎしてしまう人もいるだろう。医師の治療でこうなったんだから、損害賠償を求める事位する人だって。でも、僕の命を救うために懸命を尽くしてくれた、その結果命は助かった。医師もその事を一番に考えて治療してくれたのだ。それに全く何も傷というか、後遺症が残らずにこの治療が終わるとは思ってもいなかったので、やっぱりという感じしかしなかった。

 だから生きて今ここにいるという事だけで満足していた。

 今日はここまで。

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