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淡くて柔らかいのに忘れられない。夢のような作品に触れてきた【展覧会「Les 5 Portes」レポ】

 少し前になるが念願の展覧会に行ってきた。目的は渕上優子先生の作品だ。

▼渕上先生のプロフィール▼

 先生の絵画教室には昨年から通っている。入会当初は「やるからには上手くなりたい」と負けん気がうずき、写実的で完成度の高い絵を描きたかった。しかし今ではそんな気持ちはない。自分の頭の中や内面を思いきり表現したい、自由に楽しく描きたいと思っている。

 こう思うようになったのは、先生が私に合うやり方を提案してくださったから。何回も失敗する私に「失敗は成功の母」「失敗したほうが味が出て良い絵になりますよ」など激励の言葉をかけ、自由に描くよう勧めてくださった。不器用で堅苦しいことが嫌いな性格を見抜き、私が楽しんで描けるように導いてくださる。そのおかげで心のままに描くこと、絵で自由に表現することの楽しさを実感できた。先生はその人らしさやペースを大切に指導してくださる。

 おかげさまで楽しく絵画ライフを送れているものの、なかなか叶わないことがあった。それが先生の作品を観ること。先生が作品を出展していてもなかなかタイミングが合わず行けずにいたが、この度ようやく行けた。


 向かったのは都立大学駅にある「自由通りギャラリー」。閑静な住宅街にひっそり佇む画廊だ。

「自由通りギャラリー」
都立大学駅から徒歩15分
渕上先生含む5人の展覧会「Les 5 Portes」

 画廊に訪れたのはこれが初めて。美術館と比べればこじんまりしているが、作品を間近で観られるのがいい。独特の格調高い雰囲気に背筋がすっと伸びた。

 先生の作品はとにかく色使いが美しい。私なら物足りないと感じる色でも、先生の手にかかればどんな色もちゃんとした色になる。それぞれの色がもつ美しさ、温かみ、優しさ、時に妖しさを引き出していた。


 噴水をこれほど優しく幻想的に描いた絵を観たことがない。勢いよく飛び散る水は綿あめみたいに柔らく、水しぶきは恵みの雨のよう。儚い水のきらめきには生き物のような躍動感がある。どんなものにも存在意義があると訴えかけるような優しい世界が描かれていた。

 眠っているのか考え事をしているのか分からないが、どちらにせよ気持ち良さそうな女性。観ているこちらも心地良くなる。同系色でまとめていてもところどころニュアンスが違い、これがプロのなせる技かと見入ってしまった。それと同時にほんわかしたデザインのテーブルクロスが目に入る。巧みとかわいいが共存していた。

 私には絶対に描けないと思った作品。黒、グレー、茶が大半の画中で目を引く青いリボンと髪の毛。特に髪の毛は発光しているオーラのようで神秘的だった。黒から青や緑、はたまた黄色に変化しているのに違和感がない。なんでこんな描き方ができるのか今の私には到底分からない。曖昧な表情の少女も良い。叱られて拗ねているのか、悲しんでいるのか、つまらないのか。どれともとれる表情は観ているうちにくせになる。

 見惚れるという言葉を体感できた作品。グラデーションとかそんな単純な言葉だけでは収まらない色の変化、重なり。淡いのに薄くない。自然なのに幻想的。やっぱり先生は色の魔法使いだ。無表情な少女と多様な色使いはギャップがあって、その深みにはまってしまった。ずっと観ていたくなる作品だった。


 先生の作品を観ていると感覚が冴えてくる。なのに心がふわふわする。多分、瞑想と似ている気がする。観ているだけでリラックスして作品にだけ集中できる。どんなに忙しくても、観れば一瞬で自分に戻れる感じ。静かだけど柔らかくてほっとする、そんな包容力があった。

 体全体で作品を感じ、雑念が飛んだ経験はこれが初めてだ。展覧会からしばらく経つのに今も観た時の感覚を思い出せる。先生の作品を表すなら、淡いのに印象深くて忘れられない“夢”そのもの。次の展示会もぜひとも観に行きたい。

▼渕上先生の絵画教室▼




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