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うん、まだ大丈夫。

 最近彼は仕事が忙しいようで、今朝もいつもよりも1時間早く家を出た。本来なら私も一緒に起きて見送りたいけど、あいにく朝は弱く改善の見込みはない。彼の「いってきまーす」に「いってらっしゃーい、気をつけてねぇ!」とベッドから返すので精一杯だ。

 朝は早く、夜は遅い。今日も彼にしては遅かった。よほど疲れたようで「ただいま」の声には覇気がなかった。

「遅かったね、疲れたでしょ?忙しかったの?」

「うん疲れた。めちゃめちゃ忙しかった」

 彼は非常にわかりやすい。誰でも疲れたらそうだろうけど、彼は疲れるとオーラというか放たれる雰囲気がカスカスっとして、しなびた野菜みたいになる。

 へとへとになるも晩酌は欠かさない彼。スーツを脱ぎシャツとパンツ姿でソファにどさっと座り込み、気だるく晩酌を始める。

 普段なら私がスマホをいじろうがテレビを見ようが何をしていようが、ああだこうだと陽気に話しかけてくる彼。それが黙々とオンラインゲームをしながら飲むだけで、繁忙期らしいムードを漂わせている。こういうときは元気づけるよりも優しく静かに見守るのが一番だ。

 声に抑揚もなく、静かに過ごす彼を見て、大変そうだな、かわいそうだなぁと思った次の瞬間。


ブリブリ、ブッ!!!


 リビングのテーブルの上で寝そべっていた愛猫も驚く破裂音。オナラである。

 彼は平気で私の前で屁をこく。帰宅後何回もする。羨ましいくらいにそれはそれはご立派に屁を解き放つ。もう何とも思わないし、ましてや日常に流れるBGMとさえ思っている。だから今さら思うことはないが、こんな威勢よく屁をぶっ放しているうちは心配ないと思った。いくら彼でも、本当に元気がないときや喧嘩して不機嫌なときはさすがに屁をかまさない。

 うん、まだ大丈夫。まだまだ元気な証拠だ。

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