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私という存在を教えてくれる感覚

私は、10代半ばからずっと自分のことを心地よく感じられていませんでした。中学3年生頃、顔にニキビが出始め、そのことでとっても自分に自信がありませんでした。顔だから、鏡を覗き込むたびに、あるいは洗顔するたびにざらざらの肌に触れては、「ああ、またニキビがある」と自分にガッカリしていました。
今から考えると、私は毎日自分に向かって「ダメな私」「恥ずかしい私」「価値のない私」と罵声を浴びせているかのようでした。
そんな毎日ですから、当然ますます自分に自信がなくなり、ニキビなどできたことないという友人、化粧すらしたことがない(綺麗だからファンデーション塗る必要もない)友人がとても羨ましくて仕方がありませんでした。

私はニキビ面の顔を見て、「汚い」と思っていました。これは母に「ニキビだらけで汚い」と言われたからなのか、自分がそう思ったのかわかりません。ただ、私は「自分は汚い顔なんだ」と思っていました。今こんなふうに文章にすると、本当に当時の自分になんて申し訳ないことをしたのだろうと悲しくなります。私のニキビは中程度であり、決して重度ではなかったのですが、どうしてだかこの思い込みが強く、友人から「きょうちゃんの顔、汚くなんてないよ」と言われてもその言葉を受け入れることができませんでした。

「皮膚の悩みは、目に見える、人目につく分、大したことない病気に思われるものであっても、その人の悩みは深いのです」という当時皮膚科の助教授の言葉が心に響き、さらに自分の経験もあって同じように皮膚で悩んでいる人の助けになりたいと思って皮膚科医になる道を選びました。

皮膚科医になって、半年くらい過ぎた頃でしょうか、不思議なことに、ニキビがスーッと消えていったのです。忙し過ぎて、自分のニキビなど気にしている暇がなく、正直のところ特に治療をしたわけではありませんでした。それなので自分でもびっくりしました。そして、今度は「さすが皮膚科のお医者さんね。先生、とても肌がきれいですね。」と今まで言われたことがないようなことを言われるようになりました。大学時代の友人も、本当にきれいな肌と言ってくれるくらいきれいになったのです。「皮膚科医になったら、自然に治っちゃった」なんて友人に冗談で答えていました。

その後何年も経ってから、アントロポゾフィー医学というホリスティック医学に出会い、皮膚という臓器、そこにある「触覚」という感覚が「自分を知るための感覚」ということを知りました。「触覚」は、愛情や安心感、信頼感を育む大切な感覚ということはみなさんご存知だと思いますが、それに加えて、私と私でないものの境界となっている皮膚にある「触覚」こそが、「私という存在」を教えてくれる感覚だと考えます。

ニキビがある頃の私は、自分の顔を触るたびにザラザラした触覚に「自分にガッカリ」していました。つまり、「私という存在に心地よさを感じていなかった」のです。それが医師になり、患者さんから信頼され、感謝されるという体験を通じて、「私は人の役に立てる存在なんだ」と初めて感じられ、そのことがすごく嬉しく、自分に自信というものが生まれました。もしかしたら、それまでの私は「自分に価値がない」と思い込んでいたから、こんな私でも人の役に立てるということがわかって嬉しかったのだと思います。そして、このとき、ようやく自分という存在に心地よさを感じられたのではないかと思います。だから、ニキビが自然と消えていったのかもしれません。

「病は気から」とは言いますが、アントロポゾフィー医学でも感情や意識から病気が始まると考えます。私はニキビがあるために、自分に自信が持てないと思っていました。でも、もしかしたら、「自分にという存在に心地よさを感じていない」という思いが先にあって、それゆえにニキビという症状が出たのかもしれません。

私はこんなふうに、10代の半ば頃から、「自分という存在」がなんなのかわからず、「自分らしさってなんだろう?私は何者なの?」という問いがずっとありました。

自分を知りたければ、世界に目を向けなさい。
世界を知りたければ、自分の内に目を向けなさい。

by ルドルフ・シュタイナー

これはシュタイナーの言葉を出典が見つからなかったので、記憶のままに書きました。かつての私はこの言葉を知りませんでしたが、私は自分という存在が知りたくて、19歳で初めて海外旅行に行ってから、まさに「自分を見つめるため」に海外へ度々自分探しの旅に出ていました。
今後、旅の話も少しずつ書いていきたいと思います。

今の私はだいぶ、自分というものが心地よく感じられるようになってきました。かつての私のように自分をいじめるような言葉をかけるのではなく、自分に労りの優しい言葉をかけるようになりました。時には、また無価値感とかに襲われて絶望的になることもあるけど、そんな自分でも受け止めることができるようになりました。

世界にたった一人しかいない自分。そんなかけがえのない自分。もっと自分らしさに心地よさを感じられるようになりたいと思っています。

自己探求の旅はまだまだ続きます。




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