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【宮城県議選2023】選挙結果講評① 仙台市


総評

 任期満了に伴う宮城県議会議員一般選挙は、2023年10月22日に投開票された。自民系の村井嘉浩県政と岸田政権の今後を占う選挙となったが、自民党は党籍のある無所属を含めて現有32議席から30議席へと転落、暗雲が立ち込める結果となった。

 一方、野党第一党の立憲民主党は公認候補10名が全員当選し、党籍のある現職1名も再選を果たすなど好調。女性候補を中心に擁立し、6選挙区でトップ当選を飾った。両党は明暗の分かれる結果となった。4名を擁立した日本維新の会は2議席に留まったものの、境恒春(現在は立憲民主党)以来の議席を獲得し、躍進した。

 共産党は前回失った太白区の議席を回復し、多賀城市・七ヶ浜町で自民党から議席を奪ったものの、宮城野区、若林区で現職が惜敗。5議席を堅持したが2019年選挙前の8議席には届かなかった。公明党は堅調で、庄子賢一の衆院転出により減少していた宮城野区で議席を回復した。

 なお本記事では、数回の連載に分けて2023年宮城県議選の内容を選挙区ごとに縦覧していく。

(1)仙台市青葉区

混戦の青葉区 自民一人負け 維新は辛勝で執念の議席獲得、立・公・共は手堅く議席守る

 杜の都である仙台市中心部の多くが含まれる青葉区は市の約3割にあたる30万人超が暮らしている。広瀬川沿いには市の象徴である伊達政宗の築いた名城・青葉城が聳え立つ。宮城の中心ともいえる青葉区の選挙は、他県の中心部同様、しばしば激戦となってきた。衆議院選挙では自民党の土井亨と立憲民主党の岡本章子がしのぎを削る。県議会の定数も7名と県内最多である。

伊達政宗公(出典:仙台観光情報サイト せんだい旅びよりhttps://www.sentabi.jp/guidebook/attractions/78/

 今回の県議選でも青葉区は7議席を10候補が争う激戦区となった。下に添付した画像は著者が作成した前回2019年と今回2023年県議選の開票結果である。

仙台市青葉区 開票結果(2019、23年)

 立憲民主党の遊佐美由紀は県北の鳴子町(現・大崎市、鳴子温泉で有名だろう)出身でNHK仙台放送局でキャスターやリポーターを務めた著名人だ。2019年県議選では遊佐がトップを飾る中、新人の立憲候補が最下位で落選した。今回遊佐は票を増やし今回もトップ当選。しかし候補を一人に絞った影響か、立憲候補全体の得票数は約2,800票減少した。

 共産は堅調で、前回より371票増で現職の金田基が再選。公明の遠藤伸幸は420票減らしたものの、手堅く10,000票をまとめて議席を守った。維新は地元で長年飲食店を経営する新人の石森悠士が、わずか42票差で最下位当選に滑り込み。深夜まで当確が出ず、最後に当確が出た議席となった。

 自民は夏の仙台市議選で落選した村岡貴子が県議として返り咲いたものの、維新当選の裏で現職・福井崇正が惜敗し、1議席にとどまった。落選の憂き目にあった福井は1区の土井亨衆院議員の元秘書で、次期衆院選の趨勢にも影響がありそうだ。

 無所属の吉川寛康は電力総連組織内で、遊佐と共に連合推薦を受け、再選を飾った。国政野党は村井嘉浩知事に異を唱える県政野党が主流だが、吉川は自民・公明と共に知事に対するエアコン設置の要望を行う等、県政与党の立場を取り、一人会派「21世紀クラブ」に所属する。

 もう一方の無所属である佐藤道昭は郡和子、桜井充の元秘書で、勇退する菅間進から後継指名を受け、菅間の票からさらに伸ばしての当選となった。脱原発派として知られていた菅間は新進党出身の野党系無所属で、前回知事選では野党系の長純一を支援。同じく野党系の渡辺忠悦と会派「無所属の会」を結成していたため、後継として当選した佐藤の会派選びが注目される。

 参政党は昨年の参院選でも宮城選挙区から出馬したローレンス綾子を擁立。初の議席獲得を目指したが、当選ラインが見えないまま選挙を終えた。映像作家の大平伸一は独自の戦いを展開したが届かなかった。

(2)仙台市宮城野区

自民薄氷の2議席 立憲トップ当選で躍進 共産は惜敗で議席喪失

仙台市宮城野区 開票結果(2019、23年)

 前回の当選者のうち、立憲系無所属の坂下康子が2020年5月に死去し、同年9月に公明党の庄子賢一が衆議院選挙出馬のために県議を辞職。2021年7月に補欠選挙が実施され、立憲・佐々木奈津江と自民・松本由男が無投票当選した。

 補選で当選した立憲・佐々木奈津江は桜井充元秘書で、元は立憲民主党宮城県連の事務局長を歴任した事務方トップ。初の選挙となった今回は、前回の坂下から4,000票弱増やしてトップ当選を飾り、立憲公認の強さを印象付けた。公明党は補選で候補を擁立しなかったが、今回は元職員の大池康一が出馬。前回比で1,300票ほど減らしたものの、2位当選と堅調さを見せつけた。

 自民党はこれまで1名のみの立候補に留めてきたが、今回は石川光次郎松本由男が立候補した。自民は2候補擁立の影響もあり、3,554票増やしたうえで、2候補の票割に成功。共産候補との激戦を制して2003年以来となる2議席を獲得した。前回トップ当選の石川は、元々中野正志元参院議員の秘書を務め県議会議長を歴任、出世頭と目される。昨年参院選の自民党候補者選定では、野党から自民に寝返った桜井充参院議員と公認を争ったが敗れ、2025年参院選候補に内定した。補選で無投票当選した松本は元陸自隊員で、仙台市議2期。共産現職に薄氷の勝利となった。

 一方、共産現職で元厚労省職員の大内真理は惜敗に涙を飲んだ。全国的にやや党勢が低下する中、前回比-360票の微減で抑えたが、自民党の票割の前に及ばなかった。

(3)仙台市若林区

票割り成功の自民が2議席確保 得票増の共産惜敗

仙台市若林区 開票結果(2019,23年)

 自民党は前回票割に失敗し、3人区での国政野党2議席獲得を許した。今回は現職の渡辺勝幸と共に、前回敗れた新人・高橋克也が捲土重来を目指し立候補。高橋は中野正志元参院議員の直系。2017年衆院選では中野が所属していた日本のこころから比例東北ブロックで出馬し落選した。今回は前回比で票を伸ばした共産現職と接戦を演じたが、315票の僅差で退け念願の初当選を果たした。自民全体では前回比-238票の微減であり、票割成功が2議席確保に結びついた。

 前回初当選した立憲民主党現職の三浦奈名美は、スリランカで青年海外協力隊の活動に従事していた異色の経歴の持ち主。今回は前回比+1311票とさらに支持を広げ、自民渡辺とトップ当選を争った。

 共産党の現職・福島一恵は1991年から2011年まで5期20年仙台市議に当選し続けたベテラン。2011年県議選、2012年衆院選に挑戦し落選した後、三度目の正直となる2015年県議選で初当選した。今回は前回2019年から160票の微増と伸長したものの、自民の票割強化に抗しきれなかった。

(4)仙台市太白区

共産躍進で雪辱 立憲太白でもトップも推薦候補が議席喪失 自民は薄氷の2議席

仙台市太白区 開票結果(2019,2023年)

 前回当選した社民党の岸田清美は、立憲民主党への合流に参加し、今回選挙で勇退。岸田から後継候補指名を受けた立憲新人の甲地恵は、岸田と同じく自治労組織内候補。仙台市内の市立病院で看護師として勤務していた。今回の選挙では2位候補を引き離して初当選。岸田の票をまとめるだけでなく、新たに4,500票以上の支持を獲得し、台風の目となった。

 一方、立憲推薦の現職・石田一也は甲地躍進の煽りを受けた。石田は立憲民主党の党籍を持たないが、宮城5区の安住淳衆院議員、郡和子・現仙台市長の下で秘書を務めた。前回は旧立憲民主党・旧国民民主党の推薦を受け初当選し、UAゼンセン組織内議員として活動していたが、今回は864票を減らして敗れた。立憲系は前回比(社民岸田の票を含む)で約3700票増やしたものの、現職が議席を失う悔しい結果となった。

 20年以上守り続けてきた議席を2019年に失った共産党は、仙台市議時代に根強い支持を獲得し、幾度も国政に挑戦し続けてきた舩山由美が、今回満を持して立候補。前回から3割以上票を伸ばして10,000票の大台を突破し、堂々の2位で初当選。共産は前回敗北の雪辱を果たす形となった。

 自民は中野正志元参院議員秘書を務めた佐々木幸士と、元防衛省職員の渡辺拓が引き続き出馬。前回は1位、3位と危なげなく当選したが、今回は両候補合計で-1,792票と支持を落とし、票割が前回ほどの成功を収めず、あわや落選となる恐れもあった。しかし立憲推薦の石田が立憲公認の甲地躍進のあおりを受けたことで2議席を維持し、九死に一生を得た。公明党の横山昇は312票の微増で3位と安定した得票数で議席を維持した。

(5)仙台市泉区

自民、痛恨の議席減 維新唯一の上位当選 立・公は堅調

仙台市泉区 開票結果(2019,23年)

 自民現職の遠藤隼人は愛知治郎元参院議員の元秘書。泉区の自民候補では最も選挙に強く、過去3回のうち初当選時以外は危なげなく当選している。今回も自民党の他の2候補が苦戦する中、874票減に抑え2位で悠々と当選を飾った。自民・外崎浩子は国際協力銀行に勤めたベテランだが、2015年には落選を経験した。今回も維新新人が伸長する中で1,390票減らすなど苦戦し、約300票の僅差で共産元職との争いを制した。自民・庄田圭佑は統一教会問題で復興大臣を辞任し、今年も公選法違反疑惑で話題となった秋葉賢也衆院議員の元秘書。自民候補の中で最大の得票減となる1,516票減で最下位落選に終わり、2年以内に行われる衆院選にも影響しそうだ。

 立憲元職の小畑仁子は看護師出身。昨年の参院選で立憲民主党から出馬した際には8児の母として話題になった。前回は新人候補だったが立憲宮城躍進の風に乗ってトップ当選。今回は761票を減らすも、立候補者で唯一1万票の大台に乗せ、二回連続の1位当選を果たした。

 維新新人の小野寺健は元仙台市議。仙台市議時代は民主党→民進党で活動を続けてきたが2017年に他3名と共に離党。1名を加えて会派「市民ファースト仙台」を結成した。その後、市議選で落選者を出し「蒼雲の会」と名称変更したものの、最終的には立憲系会派の「市民フォーラム仙台」に帰参した。UAゼンセン準組織内議員として活動し、今年7月の市議選では国民民主党推薦(党籍無)を受けて出馬したものの落選していた。ところが突如9月に維新からの県議選立候補を表明。驚きの身の振りを見せたが、難なく当選した。

 公明現職の伊藤和博は得票数をやや減らすも引き続き4位当選。共産元職の中嶋廉も自民・外崎と接戦を繰り広げたが2連続の惜敗に涙を飲んだ。

※仙台市内の党派別獲得議席数

自民 9
立憲 5
公明 4
共産 2
維新 2
無所属(電力総連) 1
無所属(野党系) 1

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