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京子先生の教室 1 「トイレの裏でタバコを吸ってた?!」

「京子先生!先生のクラスの健太君と武君が運動場のトイレの裏でタバコ吸ってたってよ。」

「朝、出勤して職員室に入るや否や、血相を変えた先輩先生が京子先生に食いつきました。

「え−−−!」

「見たのは、うちのクラスの舞子ちゃんたち。2年生だけどしっかりしている子たちだからまちがいない!タバコには火もついてたって。」    

「・・・・・。ありがとうございます。すぐに確かめてみます。」

 京子先生は、一気に崖から突き落とされた気分になりました。

 

 健太君と武君は6年生。確かに、クラスでツートップのわんぱく坊主です。先生から怒られるようなことをよくやります。

『タバコ・・・吸うかなあ。確かにやんちゃな2人だけど・・・、でも、タバコ・・吸うかなあ。』

 京子先生の中で、2つの思いが渦を巻き始めました。

『でも、そこまでちゃん目撃者がいたのなら間違いないのかもしれない。でも・・・タバコ・・吸うかなあ。』

 2人の顔が頭に浮かびます。今まで先生を困らせるようなことはたくさんありました。でも、京子先生にとって2人はどんなに怒ることがあっても、心の一番奥ではその人柄を信じられる、頼りがいのある存在だったのです。なのに、この話です。

『いくらなんでも2人は学校でタバコを吸ったりしない!』

『でも、目撃者がいて間違いなさそう・・・。』

『いや、私の知っている2人はわんぱくだけどタバコは吸ったりしない!』

『でも、目撃されている。』

 先生の心の中で2つの思いがぶつかり合って止まりません。先生は怖くて、すぐに教室へはいけませんでした。職朝が始まり、連絡事項が次々に伝えられましたが、先生の耳には何も入ってきませんでした。

 さあ、始業時間です。重い足を引きずりながら教室へ向かいました。いつもの教室までの距離がとっても長く感じました。一歩一歩ふみ進めながら、さっきの思いはまだまだ続き、お互いを激しく打ち消し合います。

 やっと、教室の前まできました。『2人に問いたださなければ。』京子先生は気持ちを引きしめて顔がかたくなりました。深呼吸をして、思い切って教室のドアをガラッとあけました。

「せ~んせっ!!」

 1番に健太君と武君の2人の姿が目に飛び込んできました。何と、入ってすぐの席に移動し、2人並んで私を見ながらニヤニヤ笑って座っているのです。しかも!それぞれの手には、タバコ?!・・タバコが!!さらに、クラスの子ども達も全員座って私の方を見て笑っています。

「えっ?!  えっ?!」

 京子先生はその状況が理解できませんでした。

 健太君がスパスパとタバコを吸いながら「先生、ほ~ら」と言わんばかりにタバコを差し出しました。
 よくよく見るとそれは、先が1センチほど真っ赤に塗られた手作りの紙のタバコでした。2人は先生を前にしてもまだカッコつけて、煙を吐き出す真似をしながら手作りタバコを吸い続けました。

京子先生は腰が抜けそうになり、その場にしゃがみ込みました。

『あ~~、よかった!タバコは吸っていない!!』

 心の中の不安定に積み上げられた積み木が、ガラガラと崩れ落ちるのを感じました。パンパンに張られたハープの弦が、プツン!プツン!と音を立てて次々に切れていくのを感じました。

 そして、先生は、大きな大きな安堵感に包まれました。

『あ~~~、よかった。やっぱり違った!!』

教室に数秒間の沈黙があった・・次の瞬間!

「こらーーーーーっつ!!」

 すっくと仁王立ちし、目を大きく見開いた京子先生がどれほど大きな声で2人を怒鳴ったか。そして、どれくらい長い長い説教が続いたか、それは想像してください。

 2年生の目撃証言は事実でした。運動場のトイレの裏でタバコを吸っていたことも、真っ赤に火がついたタバコだったことも。


 さて、このクラスの10年後、20年後、30年後の同窓会では、その度にみんなでこの話になり盛り上がりました。そして、その度に生徒を信じきれない教師だったと、笑いの中で責められる京子先生でした。

                           おしまい


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