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小説「仇討ちのブラッドフラワーズ➄」~ジョジョの奇妙な冒険より

                Ⅴ
 
 五人の目が届かないであろう、車両の継ぎ目まで来て、ディマイヤは荒い息をついた。口の中が苦く、カラカラでイヤな感触だ。こらえきれずにその場にへたり込む。アニキの家にあった、アブドゥルの写真には、「炎」というメモが書かれていた。ジョセフには「念写」、承太郎には「強大な力」。さっきまで居た車内が暑く感じたのは、アブドゥルのもつ「炎」の力なんだろう。あとの二人のアレはなんなんだ。と、いうことは。眠ってしまった承太郎が「強大な力」を持つ、ということなのだろう。

 かなうわけがない。一人ずつやれば、三人なら、なんとかなる。そのくらいの自信はあったのに。ディマイヤは、自分が雨にうたれた猫のように、震えているのを自覚していた。仇討ちなど自分には無理なことだったのだ。こんな、チンケな力で。アニキにさんざんバカにされていた、僕の「見えないペン」なんかでは。ディマイヤは、からからに乾いたのどで、ごくりと唾を飲み込んだ。

 そうだ、待てよ。
 
 アニキが、自分の能力について語ったことがあったっけ。アニキが押し付けてきた「特訓」にディマイヤが音をあげた時だった。
「いいか、ディマイヤ。オレのイエロー・テンパランスだって、最初からこんなに無敵だったんじゃあねえんだ。何度も何度も使って、確かめて、強くなっていったんだ。オメーのそのペンだって、そうなるんじゃあねえか?と思うんだ。いいか、強くなりてーんならよ、乗り越えなきゃいけないことだってあるんだ」
 あの時珍しく、アニキにしては、ベテランの機械技師みたいな、神妙な口調だった。ディマイヤも不平を鳴らすのをやめ、アニキの顔をまじまじと見返したのだった。もっとも、真面目になった自分に腹が立ったのか、アニキからすぐに蹴りが飛んできたのだったが。
 
 強くなるなら、乗り越えなきゃいけない。 

 僕は、アニキにバカにされたり脅かされたりしながらも、自分の見えないペンを使いこなせるようになっていったはずだ。でも、今回のアニキのように完膚なきまでにボコボコにされたことはなかった。危ないことは、やらなかったからだ。ブラッドフラワーズも、偶然見つけられたにすぎない。
 もしも、もしも。アイツらのうち、一人や二人でも、倒せたら。そこで、見えないペンはもっと強くなるのかもしれない。チンケな、せこいペン。そう、せこさがバレる前なら!

「やってやるよ、アニキ」
 
 足はまだ震えていたが、ディマイヤは太ももを自分で何度も殴りつけた。頬にも平手打ちをくらわせ、ビクつきを殺す。やっぱり、計画通り、一人ずつカタをつけよう。まずはアブドゥル。そして怪しまれないうちに、他の奴をやるのだ。もう迷わない。
「頼むぞ、ブラッドフラワーズ」
 ディマイヤは、自分の手のひらを、ナイフで傷つけた。血がにじむと同時に、見えないペンを出しペン先を血に浸した。ブラッドフラワーズを見てしまうと強烈な自己嫌悪感に襲われる。
目を閉じて、ディマイヤは、持ち出した紙に手のひらを押し付けた、手のひらは痛んだ。深く切りすぎたのか。だけど、アイツらをやるのなら、これぐらいの痛みを気にしてはいけない。
 
 紙を握りしめ、ディマイヤは立ち上がった。まずアブドゥルを、理由をつけて呼び出す。 一つ深呼吸をし、ディマイヤは歩を進めた。承太郎たちがいる、一つ後ろの車両の扉をあける。

 背の低い女の乗客が、網棚から何かを下ろそうとしているのが見えたが、気に留めてる暇はない。ディマイヤは通り抜けようと足を進めた。その瞬間、大きな音とともに、頭に重い衝撃が走った。

 ディマイヤの視界が、真っ暗になった。

 ……ディマイヤの運命やいかに。すぐに続きます。

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