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一級建築士試験「法規」初心者が勉強する前に知っておくと良いこと

 前回、一級建築士試験に合格した話の記事を掲載し、学科試験の勉強法についても解説しました。今回は学科試験で出題される「法規」の科目について、勉強する前に知っておくと良いことを伝えたいと思います。あくまで自分の経験をもとにした話なので、最適解ではないかもしれませんが、参考のひとつにしていただければと思います。

「法規」科目の勉強法の特殊さ

 さて、試験に臨む上で、まずは学科試験を突破しなければなりません。科目は「計画」「環境・設備」「構造」「法規」の4科目。「法規」以外は、大学の定期試験等の勉強法(テキストを読んで過去問を解く)と大差ないと思います。(僕が使ったテキストについては前回の記事を確認ください。)
 一方、「法規」については、他と比較して特殊な試験だと思います。前提として試験会場に法令集の持ち込みができます。したがって、法令を的確に引くスキルが重要になってきます。勉強では、他の科目とは違い、必ずしも解説用のテキストを使う必要はありません。勉強を始めたばかりの段階で、図を見てイメージで理解するために、テキストを使用するのはアリだと思います(斜線制限などは図を見て理解した方が早い)。ただし、解説テキストの使用はイメージ把握のために留め、法令集をテキスト代わりにして、必要な知識を習得した方が効率がいいと思います。法令集のどのへんにどんなことが載っているかを覚え、必要に応じて法令を引けるようにしましょう。

過去問中心の勉強をしよう

 法令集の内容は膨大なため、1ページ目から順番に読んでいくのは心の折れる作業で、効率が悪いと思います。したがって、勉強は、過去問をメインにして行います。まずは時間を測らず、分からなければすぐ答えを見て理解してください。その際、選択肢の正誤に関わる法令根拠を法令集で探し、アンダーラインを引いてください。(アンダーラインの引き方については、後ほど解説します。)
 法規はかなり取っ付きづらい科目であり、法規を一度も読んだことがない人は苦労するかもしれません。なので、初心者向けに勉強する前に知っておくと良い知識を解説したいと思います。

法令の基礎知識

 まず、前提知識として、法令には「法律」「政令」「省令」などがあることを覚えておきましょう。「法律」は、国会の議決を経て成立する法令です。例えば「建築基準法」はこれに当たります。次に、「政令」「省令」は、法律から委任された具体的な内容や補足事項について、政令については内閣が、省令については各省大臣(建築関連法規は国土交通省がほとんど)が、制定する法令です。例えば、建築基準法の政令は「建築基準法施行令」、省令は「建築基準法施行規則」となります。

 具体的に条文を示して解説しましょう。建築基準法第34条第2項を例に挙げます。

高さ三十一メートルをこえる建築物(政令で定めるものを除く。)には、非常用の昇降機を設けなければならない。

 非常用の昇降機を設けなければならない建築物について法律で定めているわけですが、「政令で定めるものを除く」と書かれていますね。政令の方を読むと、31mを超えていたとしても非常用の昇降機を設けなくても良い建築物が分かるわけです。

 このように法律の条文中に「政令で定める」「国土交通省令で定める」といった文章が出てきますので、そういう時は、政令、省令を引くと内容が分かります。市販の法令集には政令・省令の根拠条文及びそのページの見出しがすでに印字されているものが多いです。ちなみに試験の傾向として「政令」を引かないと解けない問題は、頻出ですが、「省令」まで引かないと解けない問題はあまり出題されていません。

 「章」「条」「項」「号」の違いも理解しておきましよう。「章」の細分が「条」、「条」の細分が「項」、「項」の細分が「号」です。法令集上の記載を見ると、第1条から順番に並んでいることが分かります。
「項」については、アラビア数字で表記されますが、第1項の1の文字は省略されます。例を示します。

第N条 ○○○
2 △△△

この場合、○○○が第N項第1項、△△△が第N項第2項となります。

 「号」については、漢数字で表記されます。また、「号」の細分が「イ、ロ、ハ...」と表記される場合もあります。

 また、注意したいのは、「第N条のM」という表記の条文です。これは「条」を示しており、第N条第M項ではありません。このような「条」は法律の改正の際に後から付け足したものです。具体例を示すと、建築基準法では、第41条、第41条の2、第42条と並んでいるところがあります。ちなみに第41条と第41条の2は関係が深い条文なのかというとそういうわけではありません。ややこしいです。

試験で出題される法規

 試験で出題されるのは建築基準法とその関連法規で、全30問です。これまでの傾向として、3分の2の割合が建築基準法から出題されます。また関連法規については、建築士法からの出題が比較的多めで、都市計画法と消防法は毎年一問ずつ出題されているようです。(総合資格学院が出版している過去問に各年の出題分類表が載っていましたので、持っている人は確認してみてください。)

 では、個別の法規について解説して行きます。

建築基準法について

 法律の目的ですが、「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資すること」だそうです。法第1条に書かれています。

 法律の構成として「総則」「単体規定」「集団規定」「その他」の順で条文が並んでいます。法律上「単体規定」「集団規定」という言葉は出てきませんが、よく扱う分類の仕方なので、覚えておきましょう。政令(建築基準法施行令)についても同じ構成、順番です。試験でもこの順番で出題されてきました。それぞれについて解説します。

1. 総則
 まず、「総則」ですが、法の第1章(第1条から第18条の3まで)がこれに当たります。用語の定義や確認申請等の手続きについて書いてあります。用語の定義は、後で説明する単体規定や集団規定を読む上で前提となる言葉の定義を定めたところです(法第2条)。建築物を建築する場合は、例外を除き、事前に建築主事の確認を受けなければなりません(法第6条)。また、工事が完了した時は、建築主事に検査を申請しなければなりません(法第7条)。そして、建築物の用途を変更する場合や、建築物でなくても工作物は、確認申請を受ける必要がある場合があります。どういったときに手続きがいるのかいらないのかを理解する必要があります。

2. 単体規定
 次に「単体規定」ですが、法の第2章(第19条から第41条まで)が該当します。構造、防火、避難、採光、設備等の観点から建築物の最低基準を設けた条文です。地震や火事などがあった際に、国民の生命を守るために最低限必要な構造上の強度や安全に避難できる計画を守るための規定だと考えてください。また、国民の健康を守るために採光や換気の規定があると考えられます。(これらについては僕なりの解釈です。)

 単体規定については、政令に委任されているところが多いです。例えば、法第36条は短い条文ですが、単体規定の多くの内容を政令に委任するための根拠条文です。したがって勉強の中心は政令の内容を理解することとなります。

 単体規定の中で理解するのが特に難しいのは、防火・避難に関する部分です。基礎知識を少し紹介します。建築基準法では、耐火建築物準耐火建築物という防火の観点で高性能な建築物が定義されており、高性能な材料で作られています。耐火建築物や準耐火建築物等にしなければならないのは、火事で大災害になるリスクが高い用途の建築物(法第27条)であったり、燃え広がるリスクが高い地域に建てる建築物(法第61条など)であったりします。このように、リスクの度合いによって、求められる性能がいろいろあるというのが防火、避難の基本です。

3. 集団規定
 次に「集団規定」ですが、法の第3章(第41条の2から第68条の9)が該当します。単体規定を比較すると理解しやすい内容かと思います。「用途地域」等で、都市がエリア分けされており、エリアごとに建築物の用途の制限(法第48条)や容積率(法第52条)、建ぺい率(法第53条)、高さ制限(法第55条、第56条)などの規制がされるといった内容です。イメージが湧かない人は「都市計画図」で画像検索してください。色分けされた市町村の地図が表示されると思います。この色ごとに異なる規制がされるというわけです。これらは、都市の視点からの制限であり、異なる用途の建築物を離すことで、居住環境を保全したり、建築物のボリュームを制限して、場所ごとに土地利用を明確にしたりする意図があると考えられます。

4. その他
 「総則」「単体規定」「集団規定」以降の「その他」の条文ですが、法の第3章の2、第4章、第4章の2、第5章、第6章(第68条の10から第107条まで)が該当します。試験で出題されるのは限られた範囲です。建築協定(法第69条〜)は頻出で、その他に、仮設建築物の規制緩和(法第85条)、用途の変更(法第87条)、建築設備や工作物の確認申請等(法第87条の2、第88条)は、出題されることがありました。

関連法規について

 建築基準法以外の法規について紹介します。

 建築士法は毎年数問出題されています。建築士法の目的は、「建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させること」(法第1条)で、一級建築士等の資格の免許、試験、業務のほか、建築士事務所の登録などについて定めています。建築基準法より条文が少ないですが、どこに何が書かれているか、意外と分からなくなりやすいと思うので、注意してください。

 都市計画法は毎年1問は出題されています。都市計画法は奥の深い法律ですが、試験で出題されるのは、建築士に関係ある部分に限定されており、勉強範囲も狭いです。開発許可(法第29条)の適用除外や、都市計画施設の区域内での建築の許可(法第53条)の適用除外などが出題されたことがあります。開発許可も都市計画施設もちゃんと理解しようとすると大変ですが、試験に対応できるだけの知識でもいいと思います。

 消防法も毎年1問は出題されています。消防法は、建築基準法と同様、火災から国民の生命を守ることを目的としている点で共通していますが、建築物だけでなく船や車も対象になるようです。しかし、試験で出題されるのは、建築士に関係ある部分に限定されており、勉強範囲も狭いです。毎年、消防用設備等(法第7条〜)を設置する必要があるかどうかといった内容で出題されています。
 関連法規は他にも出題されますが、出題範囲は限定的ですので、過去問と解きながら、適宜覚えてください。

法令集のアンダーラインの引き方

 ここまで法規の概要について説明しました。続いては、法令集のアンダーラインの引き方について解説します。僕が実際に行った線引きの手法であり、最適解かどうかは分かりませんが、一つの参考としてください。建築基準法は条文が長く、最初から読んでも理解しにくいものが多いです。何が書かれているのか見た瞬間に分かるように線を引いていきます。具体例として、下記のとおり建築基準法施行令第126条の4を挙げます。

前

 線を引く前に、用語を確認しましょう。建築基準法施行令第126条の4は文中に「ただし」の文字が書かれています。このような書き方は建築基準法ではよく使われており、「ただし」の文字より前の部分のことを「本文」、「ただし」から始まる文章のことを「ただし書き」と呼びます。

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 それでは、線を引いていきましょう。赤と青の2色を使います。「規制」に関わる部分は「赤」「緩和・適用除外」に関わる部分は「青」としています。

 まず、「本文」中の主語述語目的語赤線を引いていきます。「非常用の照明装置を設けなければならない」が目的語と述語です。主語は複数ありますので、それぞれの切れ目がわかるように線を引きます。また、必要に応じて修飾語を省いて線を引きます。次に「ただし書き」に線を引いていきます。「ただし、〜この限りでない。」と書かれており、本文で規制した事項を、用途によっては適用除外としていることが分かります。適用除外の条文は青線で引きます。即座に意味が理解できる最低限の文字「ただし」「次の各号」「この限りでない」に線を引きました。また、列挙されている第一号から第四号の漢数字も線を引いておきます。すると次のような線引きが完成しました。

後

 どうでしょうか?前半で非常用の照明装置の設置義務を示し、後半でその適用除外を列挙している条文であることが素早く読み取れると思います。

法律の検索方法

 ちょっとしたテクニックになりますが、法令を勉強していて、「この用語は第何条に書かれているんだっけ?」となることがあります。そういったときはインターネットで検索しましょう。e-Govという政府のサイトにアクセスしましょう。ここで検索したい法令を検索し、表示させます。次にCtrl+F(マックはcommand+F)を使って、知りたい用語をページ内検索してください。

最後に

 今回は、一級建築士試験で、法規を読んだことがない人が、勉強する前に知っておくと良いことを解説しました。勉強を始めたばかりの頃は、法文を読むのに苦労するかもしれません。しかし、出題される内容は毎年大きくは変わっていません。過去問で出題されてきたところを押さえておけば十分対応できます。地道に頑張りましょう。

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