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『針と糸』 小川糸

人の言葉が恋しいのかもしれない。緊急事態宣言が終わった今も、在宅勤務で一人暮らしの私はたいして人と話さない。図書館で借りてきた本を手にとったものの、みっしり字の詰まった漂流者の小説も、分厚くてクレバーな読書記録も手がのびなくなってしまった。そんな中、するすると読めたのはこの本だった。『食堂かたつむり』や『ツバキ文具店』を書いた小説家 小川糸さんの毎日新聞での連載エッセイ。

このエッセイを書いていた2016~2018年、小川さんは主にベルリンに住んでいる。ドイツに暮らす人たちの「物欲が消える」「日曜を大切にする」暮らし、外国で暮らすことによって浮かびあがってくる日本の特徴、娘同然の犬ゆりねちゃんと夫のことなどが綴られている。

温かく丁寧な小川さんの文章の中に、ヒリっとしたテーマが紛れている。それは不仲だった母とのこと。彼女と距離をとったこと、介護のこと、見送った後のこと。デリケートなこの件について新聞に書くのは、思い切りが必要だったと思うけれど、このエッセイに心を寄せた人が少なくないのでは、と感じた。

ストーリーや複線の巧みさ、ドキドキハラハラ、感動を求めたりするのではなくて、目的もなく読むエッセイは、オチを求めないで散歩でもしながら、食べ終わった料理の皿を視界に入れながら、友達とだらだら話すのに近い気がする。それなりに関係が近くて、でも近すぎず遠いわけでもない絶妙な距離感。とりとめのないことの中に、あとから思い出すようなことが混じっていることがある。私にとってこのエッセイはそんな本。

176.『針と糸』 小川糸

https://amzn.to/3hb8eRQ

●小川糸さんの本

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#針と糸 #小川糸 #読書   #読書感想文

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