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『お葉というモデルがいた』金森敦子

竹久夢二、責め絵の伊藤晴雨、日本の洋画界で長く指導的役割を果たしてきた藤島武二という異なる3人の画家のモデルを勤めてきた女性、佐々木カ子ヨ(かねよ)。彼女はどんな人物だったのか。

大正時代にヌードモデルをし、さらに緊縛され乱れ髪の姿も描かれ公開されてしまう女性。タイトルの「お葉」は竹久夢二のつけた愛称で、彼との関係が最も多く書かれる。男と女、描く者と描かれる者、視る者と視られる者。内面も発露させたい者と、理想だけを見ていたい者。浮気性と、気を惹くための浮気、くっついたり離れたりと愛憎の振れ幅がものすごい。

心穏やかとはかけ離れた状態で、私だったらしんどくて、狂うか死んでしまいたいと思うのではないだろうか。HSPな私はきつい映画や本に同調してしまうと気分がだだ下がりになるので途中で止めるのだが、この本を最後まで読めたのは、竹久夢二があまりにもひどい男で、まったく感情移入する気になれなかったから。竹久夢二といえば、少女たちを夢中にした絵を描く画家として有名である。素敵な男性なのかしらと思いきや、この男は妊婦のお腹に火箸をつけたり、板を乗せて乗ったりと最悪である。おまけに男を知らない女がいいだの、女にだらしない自分のことは棚にあげて、女性の過去をねちねち言ってくるだの、本当にいやだ。これだけだと夢二と一緒にいるお葉の気持ちがわからない。一世を風靡する画家のミューズになる気分、官能のあたりが補って余りあるのかもしれないが。

色々な女が出てくるわ、駆け引きがあるわ、とドラマチックで読み手としてはとても面白い。令和の今、芸能人の不倫などがゴシップとして挙がるけれど、大正時代の文化人たちのそれはもっと激しいし創作に紐づいており、人生を存分に味わっているように感じる。

「本を読むと別の人生を味わうことができる」という読書の利点を聞くことがある。私にとってそういう体験ができたのがまさにこの本。私は薄味の、小さな刺激に一喜一憂する人生を恐る恐る生きている。彼女は刃傷沙汰さえ含む愛憎にまみれた派手な人生を生きている。どちらがいいか悪いかではなくて、多分、私も彼女もそうすることしかできないのだ。

本では、登場人物の写真や絵が紹介されている。最初に見た印象と、読み終えてからの印象が変わるのも味わい深い。最初「竹久夢二の絵から抜け出てきたよう」と表現されるお葉さんの写真にピンとこなかったけれど、読み終えて見返すと、私にもそのことがわかるようになった。

173.『お葉というモデルがいた』金森敦子

●画家の生き様

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#お葉というモデルがいた #金森敦子 #竹久夢二 #読書   #読書感想文

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