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白髪が一本。

響子は朝の散歩を習慣にしている。
今日は雨だったが、傘を持って近所まで出かけた。

iPhoneにイヤホンを挿して無料会員のspotifyでPlaylist8を聞く。
最近のお気に入りはジェニーハイの華奢なリップだ。

散歩をすると、ついネガティブに陥りがちな思考が少しすっきりする。
気分転換のために始めた散歩だが、1年半ほど続けたらじわじわ痩せて結果的に10kg痩せた。
今の体重になって1年は経つが、いまだに「痩せたねー」と言われる。
10kgは大きい。

帰り道。
ある家に老人ホームの迎えの車が止まっていた。
車椅子に乗ったおじいさんがヘルパーさんの手によって車に載せられる。

歳をとることは避けられないんだよな。響子はふと思う。
自分の足で歩く力が弱まって、動作も遅くなり、食事も誰かに食べさせてもらわないといけなくなるかもしれない。

好きな服を着て、自分の行きたいところに行けて、好きな人に好きと言えて、わがままなことを言えるのは今のうちだ。

ふさふさの髪も、シワのない肌も、軽快な足も今しかない。
10年も経てば今の姿とは確実に変わっている。

死ぬ間際のベッドの上で、いろんなことに遠慮しまくってできなかったことを後悔するか、あーわがままに生き切ったなと思うか。どっちがいいだろう。

時間は限られている。
今この瞬間はほんとうに今しかない。

おじいさんの背中を見ながらそう思った。

帰って鏡を見ると白髪が一本生えていた。
抜くには短すぎて、切ろうにも指で捕まえきれなかった。

確実に時間は流れている。
今という時間をどう使うのか。
これは生きている限りずっと自分へ問い続けるんだろう。

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