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扇風機

我が家には、扇風機が3台ある。

1台目は、天井に備え付けのシーリングファン、と呼ばれるもの。

南国では、よく見かけるレトロなやつで、一見良さげに見えるものの、うちのは、最初から、カタカタとノイズがして、無視して使っていたものの、ある時、電源パネルから煙が出て、あっけなく終了した。

当時は、別の扇風機があったので、余裕で構えていたものの、夏も深まり、部屋の中が、サウナ状態を越えようとしたある日、やっぱり1台じゃ無理だと気付いて、慌てて修理屋を呼んだ。

まぁ、呼んだとは言いつつも、実際なかなかこないのが、ラテン国の慣しだから、複数に連絡を取って、やっと現れた、生徒の知り合いと称する男は、俺は何でも直せると、豪語していた割には、間違ったサイズのネジを持って来て、結局何もできずに、帰っていった。おまけに、部屋に、工具を2つも置き忘れ、後ほど、バツの悪そうな顔をして取りにきたことは、本人の名誉に甘んじて、秘密にしておこう。

さて、次なる2台目は、自腹を切って買った扇風機。色は、高級感あふれるブラック!

私は年中貧困なので、大きな買い物をすることは、滅多にない。

だが、どう転んでも、扇風機は、生活にはなくてはならないものだから、その時ばかりは覚悟を決め、片手にペソ札を握り締め、一番安いのから3番目の、それでも、ま新しくて立派な一物を、どーんと購入した。

その後、担いで帰ってすぐに組み立てし、以来、彼と私は完璧に一心同体化。私の行くところには、常に寄り添い、休んでいる間も、せっせと働き、そんな爽やかさを運んでくれる美しい僕(しもべ)に、すっかり浸り、安心しきっていた、それなのに・・・

きっかけは忘れたが、買って「数ヶ月」も経たないうち、なんと突然、首の一部が破損してしまったのだ。

マキナ(機械物)には、滅法強いハポン(Japan)に、生まれ育った者として、そんなに、簡単にモノが壊れるなんて、最初は、自分の目を疑った。

が、破損部分をよく観察するに、それはとても繊細な(ぼろっちい)プラスチックでできており、よくもまぁ、こんな素材でこんな物が作れたものだと、別の意味で驚き、それでも、起こってしまったことは仕方がないので、とにかく、破損部分をガムテープでぐるぐる巻きにし、貴族感漂う高級品から、一転してフランケンシュタインよろしく成ってしまったそれを、愛用し続けた。

が、現実は、時に、厳しく私たちに迫り来る。

破損は、時を追うごとに、どんどんと酷くなり、ある時それは、首をまっすぐ立てることすらできなくなったのだ。

意地になった私は、公園で、該当サイズの枝を拾ってきて、芯の代わりにすべく、格闘してみるも、だらりと頭(こうべ)を垂れたその一物は、二度と、再び立ち上がることはなかった。

画して、オブジェと化したそれは、今やアパートのテラス部分に君臨し、いつの日か、再び訪れるであろう復活の日まで、私たちの目を和ませてくれることだろう。

さて、次なる3台目は、その話を聞いた、フランス人の友人夫妻が持ってきてくれた、ありがたい贈り物。

もう帰国するからと、真っ白で素敵なそれを、わざわざ車で運んでくれたのだ。

首が折れていない扇風機が、自分の人生にあることが、どれだけ生活を明るくすることか!

その日以来、どんなに暑い日も、雨で湿気の多い日も、ハリケーンのあとも、8ヶ月間に渡り、彼は優しい風を送り続けてくれた。

が、所用を済ますために、電源をオフにし、秋晴れの空の下歩き回って、帰宅してみれば、なんと、オンにしたのに、動かないではないか!

焦りまくった私は、電源タップを変えたり、延長コードを取り換えたり、あれこれ試行錯誤した。が、それは止まったまま、うんともすんとも言おうとしない。

Noーーーーーー!!!この年末の物入りな時に!お願いします!壊れたなんて、お願いだから言わないでちょうだいー!!!

私は風量ボタンをガチャガチャと押しながら、念を送ってみた。

お願い!お願いします!!

更には、親に押してもらって、初めて補助なし自転車に乗った、あの幼き日を思い出し、私は菜箸(さいばし)を突っ込み、羽の部分を無理やり回してみた。

と・・・・少しずつ、本当に少しずつ・・・・動き出したそれは、10数秒後、再び命を吹き返した。

ばんざーい!!あーりーがーとーーーー!


***

今から10数年前、私は、とあるマレーシアの田舎の村で、原チャリに跨り、ひとりドライブを楽しんでいた。そのバイクは現地ローカルに、無理を言って借りたもので、ひとしきり遊んで、日が暮れてきたので、心配する前に、そろそろ帰ろうかと思った矢先、急に、エンジンが止まって動かなくなった。

電燈すら、まともにない、山あいの小さな村だったので、焦って何度もキックスターターを踏んだが駄目。ちょうど、その時通り掛かったローカルが助けてくれて、試行錯誤の上、やっとエンジンは復活したものの、アクセルを止めると、なぜかエンジンも止まる、と言う恐ろしい事態で、その時の選択は、止まったバイクを押しながら、一山を超えるか、あるいは、永遠にアクセルを止めないまま、全てを無視して直進し続けるか、二つに一つであった・・・・

***

その後の経緯は、ご想像にお任せするけれど、永遠にスイッチを切れない扇風機といい、あの時のお化けバイクといい、世の中には、色々とおかしなことが、あったものだ。

すべてが完璧に機能して、安心して過ごせる豊かな生活と、すべてが眉唾で、ハプニングの途絶えないドタバタ生活。

ものが有る幸せと、ないが「有る」幸せ。

どちらがいいかはわからないけれど、たまに取り替えっこ出来たなら、皆に感謝が、増えるだろうにな。

Happy Belated thanks giving, everyone!


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