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幸せの致死量

私は幸せがとても怖かった

当たり前のように父親がにこやかに帰宅をして食卓を囲み、
穏やかに流れる時間を経て微睡に落ちる。

そんな絵に描いたような幸せが、怖かった。
何か一つが欠けて仕舞えば簡単に崩れてしまいそうで、
その幸せの足元にポッカリと不幸の入り口が口を開けているようで。

夢の余韻だけ残していつかなくなってしまうのではないか、自分には不似合いではないのか。

逆に不幸せの中ではがむしゃらで生きていることができた。
歩みを止めて仕舞えば簡単にどん底まで滑り落ちてしまうから。

自分が不幸せな半生を生きたとは決して思わない。
それでも、できすぎた環境は甘い毒のように私の心を鈍らせて、
些細な不幸でさえも大きく動揺させる要素となってしまう。

きっとそれが怖かったのだと気づいた夕暮れの部屋では、今日も子供達が賑やかに夕飯が出来上がるのを待っている。

そんな幸せに死に物狂いでしがみついている私はきっと、今までの人生の中で一番幸せだ。

今、死んでもいいと思えるくらいに。

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