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ポーランドの思い出

5年に一度ポーランドのワルシャワで開催されるショパンコンクールが来週から始まるのですね!本来は去年行われる予定だったのが、コロナで一年延期となりました。今年は無事に開催されそうで、いよいよ注目が高まってきましたね。個人的に知っているピアニストが一人も参加していないので、特に誰を応援するというのはありませんが、フラットな気持ちで配信を楽しみたいと思っています。どなたかオススメのピアニストがいましたら、ぜひ教えてくださいませ!

ポーランドには一度だけ行ったことがあるんです。2001年だったかな?当時仲が良かったお友達と、「卒業旅行」と称して。パリからワルシャワに着いて街中を少し歩き、旅程の都合ですぐにクラクフに移動、中世の面影が残る美しい街並みを観光しました。そしてそのまま、アウシュヴィッツの収容所に行ったんです。クラクフから収容所に向かってまだずいぶんと離れた道を車で走っている時から、空気が淀んで、時空が歪んだような一帯が視界に入ってきました。「あそこなんだな」と、一目でわかる異様さでした。収容所までの道のりには日本で例えるところのお地蔵様のように、マリア像だったか十字架がポツリポツリと定間隔に立っていたのが印象に残っていて、あれは鎮魂の為だったのでしょうか。ようやく到着して門の前に立つと、ここを見学する心の準備ができていないのに来てしまった自分の浅はかさを悟り、速攻で帰りたくなりました。

とは言ってもね、、、。お友達とせっかく来たのだし、タクシーの運転手は数時間後に迎えに来ると言って去ってしまったし、門の前でずっと立ち尽くしているわけにもいかない。感性のアンテナを全てオフにして半眼になり、棟から棟へと順番にひと通り見ていくことにしました。その時に閉鎖になっていた「人体実験の棟」以外は、全ての建物を見たと思います。ガス室、共同トイレ、髪の毛の絨毯や没収した所持品の山積み。それはもう、生きているのが嫌になるくらいに悲惨で、直視するのが辛いほどの人間の残忍さを突きつけられ、打ちのめされました。最後の建物で実際の収容所生活を撮影したビデオを見終わる頃には恐怖で半泣き、ほとんどヒステリー状態で建物を後にし、一目散に駐車場へと走りました。帰りのタクシーではお友達も私もずっと無言、ワルシャワのホテルに戻ってもしばらく立ち直れず。結局その旅行では聖十字架教会、フィルハーモニーホール、ワルシャワ音楽院…など、ピアノをやっている人なら一度は見てみたい憧れの場所にはどこにも行かずワルシャワ観光はほどほどに、どんよりした気持ちでパリに戻ってきました。

生きていること事態が罪深いと感じ、キリスト教で言われる「原罪」を意識したのは人生でこの一度限りです。余談ですが、かつて作家の遠藤周作さんがやはりアウシュヴィッツを訪れた際、その土を踏んで歩いた靴を履いて帰る気になれず、ホテルにひっそりと置いて帰った、とご著書で読みました。気持ちわかり過ぎます。私も、当時は旅行に便利だった使い捨てカメラを持参してあちこち写真に収めたはずですが、パリに戻ってから現像に出す勇気がなくて、そっとマンションのゴミ収集所へ捨てました。そんなわけでポーランド旅行の思い出は、形としては何も残りませんでした。しかし記憶にはしっかりと刻まれてしまい、その後、数年に渡って悪夢を繰り返し見ることとなるのです。

あの衝撃的な旅行から時を経て、いつかまたポーランド旅行を、そしてワルシャワ観光をリベンジしたい、できればコンクールも1日ぐらい鑑賞したいと密かに願っています。今年はコロナの影響で、海外旅行なんてできる状況ではないですけれど、ショパンの生家にも行ってみたいし、ワルシャワの旧市街を歩いたり、現地の美味しいものも食べてみたい。夢と憧れは尽きませんが、今回はおとなしく日本で配信を観賞します。ネルソン・フレイレとマルタ・アルゲリッチの審査辞退が発表になり波乱の幕開けとなりましたが、1ヶ月後にはマーケットが待ち望んでいる大スターが決まるはずです。

コンクールの様子をこちらのアプリから視聴できるようです。

https://apps.apple.com/pl/app/chopin-competition-2020/id1499789385?l=pl



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