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小池真理子著「月夜の森の梟」を読んで

これは世界で一番美しいエッセイ本じゃないかしら。。。

最愛の伴侶の死は私にとっても今後最も大きな課題なので、興味深く読みました。くどくどと語らず場面はどんどん変わって行きます。毎週土曜発行の朝日新聞(2020.6.6~2021.6.19)に掲載されたということで、誌面に限りがあることが、枠を作り、十分にエディットされた言葉群はスピード感があり尋常ではない美しさがあります。

読んでいると潔くどんどん進む文章のすきまを追いかけて、こぼれ落ちるものを拾い集めたくなります。テレビやyoutubeの何でも説明して、いちいちテロップを張り付けてしまうスカスカの世界とは真逆です。(あれを見ると「アタシはそんなにバカじゃない!」と腹が立ちます。)

この連載が始まってからすぐに読者の反響がすごかったそうですが、わかる気がします。ここまで一言一言が粒立ち、余白を提示してくれるエッセイを今まで見たことがありません。最も心動かされるのは見えないもの(行間)なのだと再確認をすることが出来ました。

そしてもうひとつ見えないものと言うのなら小池さんは亡き夫藤田さんのことを思いながら書いているので、深く喪に服し半分あの世に行っている気がします。読んでいる自分も脳内がひっぱられそうで怖かったので、朝日の中テラスで読みました。月夜の森の向こうはあの世です。

死は意識する、しないに関わらずある時突然他者によって急に押し寄せてくる世界です。死んだ人はどこに行ってしまうのか、何をしているのか。目の前のものが忽然と消えるという現実について行ける人はほぼいないと思います。そのついて行けないままを、しっかり怖れることなく直視し仰ぎ見ている小池さんの美学たるやただごとではありません。

第6感が冴えている知人が肉親を亡くした時の話しを聞きました。49日までは本当に地上にいるらしく、おぼろげに肉体の形があるらしい。しかし49日を過ぎると急に金の粉になってはじけて、呼べばがんばってその金の粉を集めて生前の姿になろうとするらしいが大変そうだと言っていました。

小池さんは本の中で自分は十万人に一人いるかどうかという極めて珍しいオーラの持ち主で、その色は金色、時に金の粉をまきちらしていると前世占いで言われたと書いてあります。もし魂の正体が金の粉であるとしたら、元々小池さんは生きながら光りの世界とこの世を行ったり来たりしている人なんじゃないかと思います。文章という乗り物に乗って。

何ひとつ悲しみを美化しない透明な小池さんの文章を読むと、ついぞ表すことのできなかった思いが喚起され語りたくなるのだと思いました。読後にメールや手紙を送った主たちは小池さんが丁寧に作ってくれた悲しみの磁場に乗ることができたのだと思います。

Reライフインタビューでは小池さんと読者が繋がったと言う風に言っておられましたが、私はそうではなく読者はこの高貴な作品を通してそれぞれの封じ込めていた悲しみとつながり、やっと死者と対峙することが出来たのだと思います。これが癒しでなくて何だと言うのでしょうか?

本当に美しい作品です。



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