サーカスナイト

小説とも詩とも

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最近の記事

白金光

白金の刃は直線的に鈍い光をなめらかに反射していた。刃側は、一瞬にして一刀両断の緊張の糸。波状に磨がれたものや、ひたすらに鋼の直線的な強さ。鼠色に妖しく、鈍く、光を放っているかのようだ。 空、空、空はオレンジ。初冬の趣。鱗雲。空。 庭、庭、庭は暗い緑。空が柿色に染まる頃、光を遮断した冷たい空気の森林。苔。池。薄暗い石の小径を行く。明かるい光。斜め向かいに家族が団欒をしている、ガラス窓の懐石料理屋。眺めつつ、僕はひとり歩く。 池には錦鯉。錦の色。黒。紅。光沢のあるパールのよ

    • [小説]此岸彼岸表裏現存

      雄介は稀代の小心者であった。まず、注射が嫌いである。会社ではいつも上司の小言に神経を苛まれている。 幼いころからそうであった。 同級生にボロ雑巾を投げられても、言い返すことも反撃もできず、いつも腹の中に悔しさを投げ込んだ。そうする内に屈折し、他人に媚び顔色伺っておべんちゃらばかり言うピエロになり下っていた。 死んだ後どうなるんだろう…? そんな事をよく寝る前に考えていた。果てしない宇宙を彷徨い、ひとり惑星のように何光年もの時を過ごす。永遠に解脱できない。存在が永遠に宇

      • 汚泥の底から

        大宅と僕は同期入社だ。入社して12年になり、同じ地方支社に同時に転勤してきた。かなりの高身長の彼と低身長の僕は全く対比的だが、入社して二年目までの営業実践では互いに一二を争う優秀な成績を収め、将来を嘱望された。自他ともにエリート街道を歩み始めたという訳だ。 途中までは。 大宅も僕も、同じような失敗をしている。互いに家庭がありながら、不倫に走った。その内容やハマりようも、とことんであるところが似ていた。 徹底的で、やるだけやらなければ気の済まない性分である。自分はできる、

        • 夜へ急ぐ人

          かんかん照りの昼は怖い。 正体あらわす夜も怖い。 燃える恋ほど脆い恋。 あたしの心の深い闇の中から、 おいで、おいで、おいでよ するひと あんた誰 友川カズキ、夜へ急ぐ人 より とんでもない歌詞を書く人だ。 この曲が紅白で歌われたというのが 驚きだ。 昼は淑女 夜は娼婦 という言葉が思い浮かぶ 今日もひとり、バーで自惚れる夜 この孤独の空気を洒落た空間に溶け込ませる だがしかし、 僕の色欲は今日も粉砕される。 独裁的なバーテンダー。 マナーがどうとか、煩い。 若

          月と監獄

          マスクの中、アイラウイスキーの豊潤な薬気とタバコの匂いが入り混じった呼気を鼻腔に感じながら、橋の上を歩く。夜は深く、水面はゆらゆらと外灯を照らし、ぐにゃりとした光の棒を溶かしている。その螺旋に意識を奪われている。 膨張した自己を抑えられず、ただ、一軒、二軒と梯子酒を重ねて、最終的には何もなかったという後悔と、弛んだ腹を抱えて、ますます自己嫌悪に陥る。 出かける時は、甘い異性との出会いを期待していた。人肌にケダモノのように飢えているのだ。寂しさが溢れ出してしまっているのだ。

          月夜、墨汁を垂らした。

          夜は墨汁を垂らしたように濃く、光を浮き彫りにする。 じっとりとまとわりつく熱気がぼくの体をつつみ、じんわりと汗を含んだ。 シャツがまとわりつく。 月明かりを移した川面は、いつもより鮮明に見え、なまずのような ぬめりとした怪しい光で黒を織り重ねている。チラチラとなまずの体は うごめいて、月夜の別世界へと誘う。夏の夜の風が吹く。 堤防にはかすかに人影が見える。 手を上げて、火の光をぐるぐるとまわし、 火の粉はパラパラと流れ落ちる。何人かの陰が、動いたりして、 爽

          月夜、墨汁を垂らした。

          哀しい時には、いつも

          ビールが好きだったあなた。 僕はあなたが大好きだった。 あなたはビールが大好きで、お気に入りは「スーパードライ」 だったね。 僕はあなたが美味しそうにビールを飲む姿が、 大好きだったよ。 とびっきりの笑顔をこちらに向けて、 「美味しい」 って。 綺麗だった。その笑顔も、身体に似合わないような、 重たいジョッキをにぎりしめ、傾けた姿も。 子供のような無邪気さで、あなたは思い切りジョッキを 空にしながら、乾いた笑い声は店内に響き渡るほどに。 でも僕は、隣

          哀しい時には、いつも

          私、死、詩

          水のなか、手をかき、とろけた空気 口を出す、魚のよう、呼吸する 1時間、体なじむ、線路の上、 消えた記憶たどる 消えかけた色、あの恋 鮮明になる、騙されている不安 この瞬間。 光の輪、青の世界のなか、虹色の夢を見た。 鳴る音。記憶。あなたの白い肌。なぞる舌。 安いポルノの重ね合わせる。紅色の芋虫。 さわる。言葉巧みな表情をする。あの輪。 記憶の渦。そこには居た。河童。 分裂する時間。この時間軸は現実世界と並行線上ではない。 刹那、刹那、刹那の連続。連

          Trouble

          いよいよ副業へと本格的に漕ぎ出した。 アフィリエイト用のブログを開設した。 本を読み、サーバーのレンタルをし、 ドメインを製作した。 タイトルは、「ほけんのきほん」にした。 アフィリエイトの商材を見つけ、 ブログに貼りつけて更新するまでをやった。 だが、ブログのテンプレートの背景とコンテンツを 整理するとこの編集が思うようにいかず、 やきもきしながら堂々めぐりをする間に 何時間も費やしてしまった。 なかなか思い通りにはならない。 毛糸の糸をごちゃごちゃ

          海、うみ

          スカイブルー、といいたいとこだが、 曇り空だった。 伊豆の海にあそびにいった。 美容師さんが、誘ってくれた。 「SAPやるからこない?」 単身赴任で、思いっきり企業戦士をやってきた自分にとって、 社外のひとと付き合うだけでも難しいが、 気軽にさそってくれて、よかった。 こんな社外のひととの交流は、はじめてかもしれない。 思えば仕事ばかりし、大企業ゆえの、井の中の蛙だった。 そのことは、自分でもわかっていたのだが。 朱に交われば、朱とはよく言ったもんだ。

          ikari

          週に一度、いま会社がこだわっていることの週報がでる。 保険販売というわけではないが、このコロナ禍のなかで、 数を問われる仕事となる。 営業員が、お客さんに導入してもらった数が、各拠点の週報となって出るのだ。 実績は、芳しくなかった。 「どうしますか?」と私は部長に問うた。 すると、「仕事をなめちゃいけない」と言い、 「名指しで理由を問え」という。 私は部下の営業員を詰めることも仕事だと思っているので、というか、 週間で1も進展しない人は怠慢だと言える。 が

          8days a week

          今日は会社でやってる社会貢献活動について、ラジオ生放送だった。 出演したのは私ではないが、部長をプロデュースした形になる。 「いいことは、たらい」 と部長が以前示達していた。本当はなんでも自分のほうに、水をすくいよせたい。 が、自分にすくいよせると水流によって水が逆に遠いほうに逃げていってしまう。 水を自分にひきよせるには、押し込むようにする。 と、たらいの水は水流によって自分のところに流れこんでくる。 つまり、誰かにしたいいことは、めぐりめぐって自分に返って

          この週末に東京にいった。 感染拡大はしているところだったが、同じ支社内の同期と行った。 私の目的は、「お中元」を買いにいくことだった。 銀座は、「空也」のもなかをしこたま買った。 同期は家族が待つ町屋に。彼も私も単身赴任をしている。 彼と車中で話をしていると、自分を客観的に見ているようで、 まぁ、彼も彼で非道い。 家族というのは、いろいろなカタチがあるなぁ、と、 絵に書いたような家庭とはお互いの家庭で程遠い。 自由でロクでもない親だ。互いに。彼は、ちゃんと家

          因果応報

          「日頃の行いが悪いからですよ」 といっていた部長に、今日、事件は起きた。 オフィスの上に、県内のオフィスを束ねる支社という組織がある。 常々部長は支社のエリート層を敵対視し、(エリートと言っても、上には上がいるので中途半端なものだが)威張って文句を言っている。 部長と言えど、営業現場の出身で、私たちは踊る大捜査線の織田ユージみたいなポジションだ。どこまでいったって。 社内は数年前からコンプライアンスにうるさい。 が、コンプライアンスに違反する事象が起きた時の対処如

          Something New

          大学時代のゼミの教授がいっていたことで、いちばん印象に残っている言葉だ。 「Something New」 新たなことを日々みつけること。 学びつづけるということ。 これはつくづく最近、素敵な言葉だと思うし、こういった姿勢を忘れていたように思える。このコロナ禍がもたらしたのは、日々の新しさへの挑戦でもある。 近頃、社内で「ニューノーマル」という言葉を耳にする。 山口周さんの著書の受け売りだろうが、(私は読みはしていないが、なんだか予言めいた著書のタイトルだけ取れば)

          宗教談義

          私のいま働いているオフィスには、部長がいる。以前は私が長という肩書だったのだが、人に仕えるというのはつくづく大変だと思う。 その部長は、なにか悪いことや不運があるとその人の「日頃の行い」に責任を帰す。徳を積むという考え方を大事にしているらしい。 徳島県にいた時に、四国88箇所巡りをしたらしく(車で)空海さんのことを崇拝しているようだ。中国から何か仏具を投げて、最初に刺さった所の松の枝先が本当は2つ葉なのが、3つ葉だったと自慢げに講釈を垂れていた。 だから、行に対しての執