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逆心理のナッジ

前回に引き続き、ナッジについて。

(前回)

「ナッジ」とは、おおざっぱにいうと、
「人間の心理を利用して行動を促すさりげない仕掛け・優しいテクニック」
を指す。
強制ではない、さりげなさや優しさがポイントとなる。

イソップ物語の「北風と太陽」でいうと、太陽がポカポカと温めたことにより旅人がみずから上着を脱いだ。
あれがナッジだ。

「ナッジ」にはこういう例もある。
環境問題に取り組むあるNPOが、ロンドンの街からタバコのポイ捨てをなくす工夫として、「吸い殻を入れて投票する投票箱」を設置した。

現在、世界最高のサッカー選手はだれ?
A:ロナウド B:メッシ

という質問が書かれた投票箱を置き、吸い殻を入れて投票するもの。
するとロンドンの喫煙者たちは吸い殻を使って投票するようになり、タバコのポイ捨てが大幅に減った。

タバコの逆心理

正論を言われてムッとした経験はどなたでもあるのではないだろうか。
実のところ人間は正論を言われるのを好まない。
説教する側は正論を語りがちだが…。

「タバコをやめなさい」もその1つ。
世の中で市販されている商品のなかで、「健康を害する商品である」という主旨の警告が箱に書いてあるのはタバコだけだ。
ほかの商品にこんなことは書いてない(飲みすぎに注意くらいは書いてあるかもしれないが)。
たとえば電気マットに「説明書通りに使うと火傷します」などとは書いてないし、説明書通りに使えば安全に温かい。

つまりほかの商品は、説明書どおりに(つまり、本来の使い方どおりに)使えば、良いことがある。
ところがタバコだけは、本来の使い方どおりに使うと、健康を害する。

喫煙者の6割は喫煙ないし減煙をしたいと考えているそうだ。
ところがその「やめたい」「減らしたい」と思っている本人が高いタバコ税を払い、箱の警告を知ってて命を削ろうとする。
タバコの心理というのは奥が深い。

そんな喫煙者にむかって、自治体の保健師のAさんは「喫煙は百害あって一利なしですよ」この1点張りで指導する。
保健師Bさんは「20年後に肺ガンになるよ」とこればかり脅す。
で、喫煙者は変わるだろうか。

この保健師、ヤバいの図

AさんやBさんはたしかに正論を語っているのだが、前述のように人間は頭ごなしの正論を聞きたくない。
「喫煙は百害あって一利なし」そんなことはよくわかっているし箱にも書いてある。
「20年後に肺ガンになるよ」たぶんそうだろうと思うが、そんな先のことを言われても響かない。

もし禁煙したとすれば、正論に感じ入ったからではなく、きっと別の理由による。

研究によれば人は不快感を覚えたときに自分を虐める(不健康な行動をとる)傾向があるそうだ。
「正論を言われたから禁煙する」にはならず、「ムカついたからもっと吸ってやる」となる確率のほうがはるかに高い。
へそ曲がりの天邪鬼だ。

これを「リアクタンス理論」といい、個人が自由を制限されたり脅かされたりすると、その自由を取り戻そうとする動機が生じることを指す。
「しなさい」とか「するな」と言われると、その逆をしたくなる。

押すなと言われると、押す。

逆心理の使い方

リアクタンス理論は、人が自由を制限されたり圧力を感じたりすると反発心を持ち、逆の行動をとりたくなるという心理現象。
この理論を協会の運営に応用する場合、だが、大きく分けて2つの方向性がある。

  • 1つは、相手が反発するのを避けるため、わざと正論を言わずに事を進めるという方向性。

  • もう1つは、正論に対して相手が反発する現象をわざと利用するという方向性。

後者は、相手の力を利用して投げるという柔道の精神に近いのかもしれない。

相手が反発するのを避けるため、わざと正論を言わずに事を進める

  • 「会費は期日までに納めるべき」という正論を避け、「早期納入者には特典があります」というポジティブな案内をする。

  • 協会のルールやガイドラインを紹介する際、「これは必ず守らなければなりません」ではなく、「この方法を試してみると、より良い結果が得られるかもしれません」と提案形式で伝える。

  • 「環境保護活動に参加すべき」という正論を避け、「自然と触れ合う楽しいイベントを企画しました」と案内する。

  • 特定の行動を促したい場合、直接指示するのではなく、「どうしたらこの課題を解決できると思いますか?」と質問して、参加者自身が解決策を見つけるように促す。こちらは答を持っているが、あえて言わない。

  • 「会員規則を守るべき」という正論を避け、「みんなが快適に過ごせる工夫をしています」と伝える。

  • 特定の行動を取るよう促す際に、「あなたもこうするべきです」と言う代わりに、「この方法を使った他のメンバーが成功しました」と他者の成功事例を紹介する。

  • 会員に特定の行動を強制するのではなく、複数の選択肢を提示し、自由に選択させる。例えば、イベント参加を促す際に、「必ず参加してください」ではなく、「イベントAとBがありますが、どちらに参加したいですか?」のように、選択の自由を与える。

正論に対して相手が反発する現象をわざと利用する

  • 「〇〇なんてしなくても大丈夫」と言い、相手が反発心から「いや、〇〇は大切だ」と言うのを期待する。

  • あえて挑発的な質問を投げかけ、「本当にこのやり方が最善だと思いますか?」と疑問を提起することで、メンバー間で活発な議論を促し、最終的に同意を得る。

  • 「多分うまくいかないと思うけど、もし試したいならやってみれば」とあえて弱い言葉を使い、試してみたくなる気持ちを引き出す。

  • 会員に特定の行動を促す際に、あえてその行動を控えめに推奨する、あるいは反対意見を述べることで、会員の反発心を刺激し、行動を促す。「〇〇はあまりおすすめできませんが…」のように、あえて否定的な意見を述べることで、会員の好奇心や挑戦心を刺激する。

おまけ

ところで、実生活では、正論をいう側にも一定の心理的傾向がある。
人は正論を言うことに快感を覚えることがあり、その快感のために、言わなくていい正論を言ってしまう。

たとえば、人は自分の価値観や信念が正しいと 感じることで自己肯定感を強化できる。
正論を主張することで、自分の考えや立場が妥当であると感じ、 自尊心を高めることができる。
自分の意見や考えが他人のそれと比べて優れている、または「正しい」と感じることで、優越感や満足感を得られる。

じつのところ、「正論を相手にぶつけても人は動かない」という感覚や経験は、だいたいほとんどの人が持っているのではないか。
にもかかわらず正論が出てしまうのは、こうした快感に負けた結果かもしれない。





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