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サイコロのナッジ

「今日の夕食は何がいい?」
「何でもいい。美味しいものがいい」

この一見何気ない対話が、実は現代社会が抱える問題を象徴しています。
というのは、

  • 毎日の食事メニューを決める作業は、メッチャ疲れる

  • 家族のために食事を作る方のほぼすべてが、これで疲れている

からです。
「何でもいい。美味しいものがいい」と言われ、疲労が悪化します。

インターネットの普及により、私たちは膨大な情報に囲まれて生活しています。
レシピサイトを開けば、数え切れないほどの料理が並び、SNSには魅力的な食事の写真が溢れています。
なのに献立は決められないし、この豊かさが逆に私たちを苦しめている。

心理学者バリー・シュワルツは著書「選択の paradox」で、
「選択肢が多すぎるとかえって人々を不幸にする」
と指摘しています。
これは「食」の分野でも例外ではありません。

脳科学の研究によると、選択や決定を行う際、前頭前野が活発に働きます。
しかし、この脳の部位は疲労しやすく、度重なる選択に晒されると機能が低下します。
つまり、毎日のメニュー決めは、知らず知らずのうちに私たちの脳に大きな負担をかけているのです。

最近では、テクノロジーを活用したメニュー提案アプリも登場していますが、あまり利用者に感謝されているようには見えません。
なんでもかんでもITで解決、とはいかないのでしょう。

ところが興味深いことに、最新技術ではなく、古典的な「サイコロ」に、感謝が集まっています。
献立を決めてくれるサイコロです。
「フーディダイス」と呼ばれるこの製品は、9個のダイスを振ることでメニューを決定します。

ようするに、ゼロから考えずに済みます。
サイコロの目という「運」「神の意志」に任せて献立を決めれば、毎日の献立を考えるのに疲れ果てずに済む。
フーディダイスは、クラウドファンディングで15万ドル以上の資金を集め、注目を浴びました。

選択の自由は私たちの人生を豊かにする一方で、時として大きな負担となります。
「自分は決めたくない。だれか決めて」
が、どんどん生まれてきます。

現代人は、サイコロを求めている!

上に述べたことは、ナッジ(行動経済学)の文脈では
「選択のパラドックス」
といいます。
「選択肢が多すぎると疲れる」ということです。

その日の献立をノーヒントでゼロから考えるなんて、
「無限の選択肢から1つ選ぶ」
に等しい。
いかに疲れるかが想像できますよね。





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