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#14 月影 / Clair de Lune (Moonlight)




I. 月と水

8月30日,同居人と一緒に出先のホテルにいた.夜中に起きてトイレに行こうとしたのだが,やけに外が明るいのが気になってレースカーテンを少し除けて窓の外を見ると,それはそれは美しい満月がこちらを見ていた.調べてみると,どうやら今日はスーパームーンなる月が地球に一番近い日であるようだった.

そして揺れるレースカーテン越しに差し込む柔らかな月光が,数十秒前まで私が寝ていたベッドの真っ白なシーツの上に,水面のようなゆらめきを投影していた.またベッドに身を委ねようものなら深い深い海の底へ沈んでいくのではないかと思うような光景だった.

この光景を覚えておこうとメモしておいたのが,今回の曲の冒頭のモチーフである.この曲はほぼ即興演奏のようなものである.数日後帰宅してから家のピアノで弾いてみた.このメモのフレーズを弾いてからどんどんと思い付きで展開していく.その結果生まれたブツを,そのままFinaleに食わせて出来上がった.

曲名は月光ではなく敢えて古めかしい言い方の「月影」としたのは,ベッドに水面を映したものがレースによって得られた影だったからである.この曲にうってつけの表現だった.

なんとなくDebussyみを感じたので今回はすべてフランス語で譜面を書いた.フランスかぶれの同居人がいてよかった.タイトルや作曲者表記のみならず,著作権表記,速度・発想標語,演奏指示など,すべてフランス語である.英語での英題は普通にMoonlightとした.


II. 解説

冒頭,Rapidemenet et rêveur(速く,夢のように).DM7のアンニュイな響きを印象づけるド#を頭に置いた.譜面を見ただけでは一見ただの連符に見えるが,実際は拍の頭の音が主旋律になっていて,裏に入っている音は空間を埋めるために入れた飾りに過ぎない.大体イメージとしては開けた窓にかけたレースカーテンを通して差し込んでくる月光が,そのカーテンの揺れでゆらゆら蠢いている状態である.

普段ならDM7の次にA7/C#なりE7を置きそうなところを,ここではBm7とした.次に来るのがE/G#で,最終的にAM7に解決させている.二週目ではE/G#ではなくG(!)に突っ込む.一応嬰ヘ短調とはいえ,直前のDM7~Bm7の区間では嬰ヘ短調を嬰ヘ短調たらしめるソ#の音を使っていないため,調感覚が薄い.そのためソ#を除けば構成音が同じロ短調から,ソを基音とするGを借りてきても問題ないわけだ.そのあとは更にF#mに突っ込み,最後はAM7/B → F#m7/Bという,嬰ヘ短調とロ短調の中間のような変な響きを以ってこのフェーズは終了する.

続いてEncore plus vite.イタリア語にするならPiú mosso,すなわち「ここまでよりも速く弾け」ということ.ここまでの三連符のモチーフはそのままに更に音域を広げて縦横無尽に駆け回る.雲がどんどんはけていって,光量が増していく.DM7 → Bm7の後は例によっていつもの神主進行で,DM7 → Esus4 → F#m7となる.この手の上昇形の進行は基本的にテンション的には上向きになることが多いので,次の左手発狂タイムに備えるのである.

Tempo du debutは要はTempo Primo (Tempo I) のこと.fluideは「流れるように」.連符を除けば,この曲では一番この部分が難しいであろう.この部分は一応ポリリズムになっている.右手は3/4で,左手は9/16だ.一応どちらも3拍子ではあるのだが,前者が4連の16分音符刻みなのに対して,後者は3連符刻みである.実は付点を使えば4連符という中々見かけない表記にはせずに済むのだが,そうするとかえってポリリズムであることに気付きにくく,拍が取りにくかろうと思ってここでは連符表記にした.偶数連符自体は高校時代にやった吹奏楽の何かの曲で見かけたが,まさか自分が使うことになろうとは.

コードは王道進行.後半部分はポリリズムから抜け出してワルツになるが,わざとすべてアルペジオにして煌びやかさを出している.左手の連符は頑張ろうね.

ここにきてやっと[A]である.というのも,私が直接浄書するときも同居人に浄書を押し付けるお願いするときも,「発想標語または速度標語が書いてある小節にはリハーサルマークを書かない」というレギュレーションで浄書しているからである.

それはさておき,ここは半音ずつ下降する形で,DM7 → DmM7 → Asus2/C# → AmM7 → Bm7 → E → F#sus4 → F#m となる.(演奏者側から見て)この曲唯一の癒しパートといっていいだろう.

Tresvite et glace.急速に,そして冷たく.ここで変拍子になる.基本的に私は3+2拍子派.たまに2+3拍子派がいるが,どうしても私には気持ち悪く聞こえる.人によっては3+2も変わらずキモいと思うんだろうか.

[C]からは3連符基調になる.やってることは見かけ以上にシンプルで,ただの分散和音である.のびのびとしたワルツにした.指使いをしっかりと決めておけば案外難しい連符ではない.

[D]は再び拍が戻る.DM9 → Eadd9 → C#7 → Bm9(!)としているのが意表を突くポイントで,通常ここはF#m7かC#7とするのが一般的だが,ここでBm9とすることで単調さを低減させる狙いがある.

[E]はTresvite et glaceの反復で,そのあと[F]は冒頭のモチーフの変奏(?)となる.簡単なように見えて粒を揃えて弾くのが思いの外難しいため要注意.[G]はそこまで特筆することはない.

[H]の左手は形だけポロネーズのリズムである.本来ポロネーズは3拍子であって2拍子でないためここのリズムが形だけポロネーズと同じとは言っても意味はないのだが,何となくである.

Encore plus lentでは終結に向かうため若干テンポを落としてゆるやかな踊り.何が踊ってるのか知らないけど.最後の4小節だけスタッカートが剥がれてペダルを踏むことになるので要注意.


III. あとがき: 画像生成AI&ロゴを作った話

画像生成AI騒ぎも落ち着いてきて最近は支援サイトや同人販売サイトもAI利用作品を受け入れる土壌が徐々に整備されつつある.素材やCG作品についてはAIがはじけるのはありがたいし,その逆で今まで絵師の確保に難儀していたゲーム制作者がAIを利用することでその才が埋もれずに済むというのは非常にいいことであると思う.

私もやってみようかと思って,色々調べた.まず驚いたのがその要求スペックである.Windows限定でRAMがそこそこ求められる(16GB以上)のは想定内だったが,まさかのGPUのVRAMが8GB以上も必要とのことだった.意外にもCPUはほぼ無関係らしい.たまたまうちのPCはこの要件を満たしていたが,思ったよりも参入のハードルが高いようだ.今回導入にあたって参考にしたのは以下のページ.

で今回生成したのが今回の見出し画像になってるこいつである↓

使用したのはCounterfeit-V.3.0というモデル.細部を見るとAIらしい破綻した部分が垣間見えるが,私は大してそこまで多くを求めるわけでもないのでこれで十分だ.

これは没になったもの.下半身がないのは雲の精霊とでも思えば受け入れられるとして,月が3つもあったり水面に雲が鎮座しているのは流石にまずいので没とした.

このAI生成が思いの外便利で,例えば絵師にこういう絵を描いてほしいと依頼するときに,AIで大体イメージ通りの絵を作って,それを絵師に渡すとかなりスムーズにいく.

今回は珍しく(?)あとがきの話題が二つある.(というか1つ1つの話題がそこまで長いものでもないので一緒にした.)ロゴを作った.YouTubeとnote,lit.linkのアイコンは既に変えてある.以下のようなものを作った.

ずっとアイコンメーカーで作ったアイコンでもよかったのだが,作編曲で活動していく以上自前のものを持っておいたほうが良いだろうと思い至ってロゴを作った.ちなみにTwitterのアイコンにしているこの猫を乗せた眼鏡女の画像はPicrewに出ている次のアイコンメーカーを使ったもの.

しかしロゴを作るとはいえ美術的センスは皆無である.図形的な意匠を作るのは無理だと早々に諦め,既存のフォントを使うことにした.今回選んだのはGulay Inceoglu氏作のBAMQというフォント.一応商用利用可能なフォントにしたが恐らく私のこの活動が「商」になることは未来永劫ないだろう.

使用した文字はk, y, oの3文字.

こっから出来たのがこれ↓

基本的な骨格はkとy.oは外枠.kの右下と,yの中心の点(\と/が交わるところ)が接するように配置し,レイヤーをグループ化.このグループをoに内接するように拡大し,yの左上はoの内側の曲線まで延長した.kの曲線部分もyの右側の線に接する形で延長した.k, yに囲まれる部分は黒塗りし,yの左上の線だけ白塗りに.結果として上のようなロゴが出来る.特段ロゴが出来たからといって何をするわけでもないが…….


IV. 楽譜&音源配布

ここに書いてあるルールを守ってくれれば使途は問わない.

《楽譜ファイル (PDF)》

《高音質音源ファイル》
WAV形式のCD音質 (44.1kHz/16bit, 1411.2kbps) / 容量超過につきnoteに直接アップロードできないため,以下の外部アップローダーからダウンロードしてください.以下のリンクに飛んだ後「ダウンロード」を押すか,「ダウンロード」の右にある「v」を押して「標準ダウンロード」を選択すればダウンロードできます.

《並音質音源ファイル》
MP3形式のストリーミング音質 (320kbps)


V. クレジット

作曲・執筆: kyoka (@kyoka20011218)
浄書・動画編集・フランス語翻訳: Noah
見出し画像: Counterfeit-V.3.0により生成

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