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博士号取得後に新卒でVCに入社してみて

はじめに

初めまして。独立系VCのBeyond Next Ventures株式会社で投資部門に所属している松浦と申します。弊社は特にシード期のDeep Tech領域に注力しており、スタートアップ出資にとどまらず、エコシステム作りを含め幅広く事業を展開しています。様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっていますが、サイエンス・テクノロジー・スタートアップが好きという思いは共通しているなと感じています。
タイトルの通り私は2022年に博士号を取得後に新卒で入社したのですが、ちょうど1年が経とうとしているので良い機会だと思い、自己紹介も兼ねてこれまでを振り返ってみたいと思います。入社エントリならぬ入社1年エントリですね。

自己紹介①~生まれてから修士まで~

私の生まれは歌劇団で有名な兵庫県宝塚市で、小学5年の夏に父親の転勤で東京へ引っ越してきました。その後は地元の公立中学、早大の附属校、そのままエスカレーター式で大学進学、という流れです。元々の興味が文系学問の領域だったため法学部か文学部に進もうと考えていたのですが、山中先生のiPS関連のニュースもあり、生命系の分野に強く惹かれ進学先を決めました。小さい頃から手塚治虫氏(同じ宝塚市出身です)の『火の鳥』を読み耽っていた事も繋がりとしてあるのかもしれません。

幅広い分野で通じる基礎を学ぼうと応用化学科を進学先として選びましたが、関心が臨床寄りに移ったため修士では東大を外部受験し、がんに対するウイルス療法の研究に従事しました。第一三共から販売開始されたデリタクトも話題になり、最近注目を集めている領域です。
修士2年のタイミングで一度「就職か?進学か?」という問いと向き合うことになるのですが、①パイロット試験(ANA/JALなど大手の自社養成コース)という昔からの憧れの1つに挑戦できたこと、②このまま社会に出ても何の武器もなく、ハードな挑戦もしていないという飢餓感があったこと、の2点からD進を(割とあっさり)決めました。

①についてはドラマ「GOOD LUCK!!」のキムタクに憧れての応募という何ともミーハーなものでしたが、選考もそこそこ惜しいところまで進んだこともあり悔いなく諦められました。身体検査は変わらず厳しいのですが、眼鏡でも受けられるようになったので有り難い限りです。職は違えど「I have control.」と言える人生でありたいものです。
②については文字通りではありますが、努力と挑戦の違いによるところが大きいです。烏滸がましくも環境による制約に言及しないのであれば、人が可能な努力の総量自体にはあまり差がなく、挑戦によって努力の質やそこから得られるものが変わってくるという認識です。自分としては恵まれた条件にありながら想定範囲内の努力しか積めていない、という焦りのようなものはどこかで感じていたため、D進の決断に至りました。

総じて両親含め周りの理解・支援がなければ決断は勿論のこと、悩むことすらできなかったと思うので、感謝の念に堪えません。

自己紹介②~博士から就職まで~

博士でもラボを変えたので、西早稲田→白金台(医科学研究所)→本郷と3つのキャンパスを渡り歩くこととなりました。様々な研究スタイルに触れられた半面、研究拠点がころころと変わったため業績を出しにくく、主に金銭面で苦労した事も多かったです。
博士課程では腎臓結石の新規治療法の開発をテーマに研究を進め、無事(と言うにはあまりにも色々なハードルがありましたが)成果を1st authorとして学術誌に発表することが出来ました。学部で学んだ晶析と修士で学んだ免疫学を上手くミックスさせた仕事になったのでは、と自分では感じています。時事通信にも成果の紹介記事が載り、微かでもアカデミアに足跡を残すことができホッとしています。
(記事:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022100701019&g=soc

さて、医学博士課程の標準年限は4年のため、博士3年の就活が始まるタイミングで再度「企業への就職か?アカデミアに残るのか?」という問いと向かい合う事になります。切り取り方にもよりますが、行為としての研究は「開発」が付随するものとはグラデーションをつけて捉えるべきであり、自分の志向は前者寄りであると感じていました。故に、研究という枠の中でアカデミアと企業を比較するのではなく、純粋に研究者というプレイヤーになるのか、ビジネスサイドでの経験を積んでいくのか、という判断軸に落ち着きました。

あとはそれをブレイクダウンしていく作業になります。結果として自分は後者を選ぶこととなりますが、就活を通じて言語化されたのが「テクノロジーによる不平等の解消」という目標でした。金融(主に投資銀行)・メディア・人材と様々な業界を受け、最終的にVCにお世話になることを決めるのですが、いずれもサイエンスとビジネスの結節点を模索してのものでした。ここでも企業のメンターさん含め様々な方にお世話になりましたが、いつか仕事でお返し出来るよう、感謝の気持ちは忘れずにいたいなと思います。

また博士の就職難が叫ばれて久しいですが、きちんとストーリー立てて物事を語ることが出来れば正当に評価してもらえることが多いと感じました。ただ、自分が評価されるところを闇雲に探すというよりは、飾らずに自身が評価されるような見せ方を考えるという表現の方が近いかもしれません。手札は変えられなくてもカードの切り方は何通りもあるので。
(『ストーリーとしての競争戦略』『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』の2冊は私の就活時のバイブルです)

入社してみての所感

まだまだ浅学菲才の身ですが、有難いことにこの1年間で非常に多くの経験をさせていただきました。個人・企業問わず出資候補となる先を探してくるソーシングから、投資委員会での意思決定、出資後のフォローアップまで一通り触れることができ、恵まれた環境であるなと日々実感しています。

一方、外に目を向けるとネットを含め色々な場所で「新卒でVCに入ること」に対するコメントが飛び交っています。我々はハイコンテクストであるからこそ言及対象は限定して議論を進めるべきですが、一旦クライアントvs私個人、という観点で見るならば概ね指摘されているような点は正しいと思います。確かに私自身にビジネス経験はなく、アドバイザーとして何か価値を提供できるのか?と言われると現時点では難しい、というのが実情でしょう。

しかし別の視点として、「個人ではなくチームとしても事にあたることで結果を出せる」「キャピタリストにはアドバイザー以外の側面がある」という気付きもありました。前者は自分の力不足の正当化と言われてしまうと反論出来ないのですが、後者は世の中のイメージと(弊社での限定的な経験に依拠するものですが)一部異なる点があるように思います。

各VCにおいて共通するのは、当たり前ですが「出資機能を持つ」という点であり、出資という行為を除くとそれぞれ提供する事業やスタンスは異なります。またVCの魅力の1つは「社会に必要なものに対して光を当て、0から1を生み続ける」事だと思っており、アドバイザリー業務はあくまでその一部です。Deep Techを対象とする弊社では、特に「光を当てる」という点で求められるパーソナリティも他社・他業界とは変わってくるため、その文脈において自分でもやれることはあるな、と実感するようになりました。

このような話題はどうしてもポジショントークになってしまいますが、これらは入社前の低い解像度のままでは分からなかったのも事実です。自分なりの視点を持ちスタンスを取れるようになったという意味でも、改めて今後を考えていくうえで貴重な経験を積めた1年間でした。

おわりに

色々と分かった風に書いてしまいましたが、まだ自分は社会に出たばかりの雛鳥であり、何かを語る前に行動量を増やしていくべきフェーズにあります。また、確かに自分は出資機能を持つ側にいますが、スポットライトはファーストペンギンに当たるべきで、VCはあくまで黒子の役割であるという認識は忘れず、奢らずに研鑽に励みたいと思います。

少し自分のステータスに触れると、現在はPartner、Managerとチームを組み、医療機器・ヘルステックの領域を中心に案件を担当させていただいております。個人としては、日々の研究というアナログな営みの産物をデジタル技術でどう増幅させられるか?といった点に関心があり、具体的な技術としてはDTx含むSaMDの領域などを追っていきたいと思っています。

上記のような専門領域を深掘る記事は弊社HP内のINSIGHTでも発信していく予定ですので、お時間のある方は是非そちらもご覧いただけますと幸いです。また、研究成果の社会実装に関心のある方とは立場問わずお話できればと思っていますので、お気軽にご連絡下さい。
HP:https://beyondnextventures.com/jp/


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