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読書日記2月・3月 『文藝百物語』など

いつのまにやら4月になってしまいました。
年度の切り替わりで仕事が忙しく、落ち着かない日々を送っていますが、本は相変わらず読んでますよ。
通勤時間は読書時間!
くたびれきって眠る前にも、睡眠薬代わりに活字を読みたい!

さて2月、3月に読んだ中で、印象に残ったものをザザッと振り返っておきます。
いつものようにホラー、ミステリ、怪談多めです。

2月

『黒揚羽の夏』(倉数茂/ポプラ文庫ピュアフル)
『魔術師たちの秋』(同上)

七重町シリーズ3冊

こちらはシリーズ本、2冊続けて。
東北にある七重町という架空の町を舞台にしたオカルトミステリ。
以前に『忘れられたその場所で』(これがシリーズ最新作)を読んでいまして、面白かったのでシリーズを遡ってみました。
(単発で読んでも面白かったけど、やはり続き物的要素もあったので)
町の過去の歴史と絡み合って起きる事件に、少年少女たちが巻き込まれてゆくストーリー。
怪奇幻想風味たっぷりで大変好みでした。
(もしかしてミステリとしてはやや尻切れトンボな部分があるかもしれないですが)
『魔術師たちの秋』では、エピグラフに稲生平太郎『アムネジア』の一節が掲げてあって、うんうん、そうですよね……と深くうなずく。
『アムネジア』『アクアリウムの夜』がお好きな方には、ぜひおすすめしたい。

『やまのめの六人』(原浩/角川ホラー文庫)

『やまのめの六人』初めて読む作家さんでした

山道を行く自動車に乗った、ワケありの男たち。
折からの悪天候で事故、全員脱出できたが、何か違和感が。
いつのまにか一人、増えている……?
ぞわっとする出だしに加え、「やまのめ」という土地に伝わる怪異は出現しますが、ホラーというよりクライムノベル風味。
ヒト怖い系の恐怖が強めのお話でした。
出てくる登場人物たちがほぼ全員どうしようもないというか、同情に値しない感じなので、次々に酷い目に遭っていっても読者の心は痛むことなく楽しめます(笑)
読み終わった後にあらためて読み返してみると、冒頭の一章になるほど!と納得するところが多々あり、伏線の張り方が上手いな~と感心しました。

『文藝百物語』(東雅夫編/角川ホラー文庫)

『文藝百物語』

こちらは再読。結構昔に出た本です。
私が実話怪談にはまるきっかけになったとも言える一冊で、これまで何度も読み返しています。
しかしいつのまにやら手元から消えてしまっていました(別に怪現象が起きたわけではなく、実家に置いていたため親が断捨離してしまった模様……)
もう一度読んでみたくなり、再度入手。
久々に読みましたが、やっぱり怖ろしくて面白いです。
井上雅彦、 菊地秀行、 田中文雄、加門七海、篠田節子、 霜島ケイ、 森真沙子という豪華な作家陣が、百物語形式で怪談を語っていく。
前に出た話に触発される形で「そういえば……」と語られる話もあり、百物語という場ならではの魅力を感じられる怪談集です。
そういえばこの本で初めて、かの有名な「三角屋敷の怪」のお話を読んだのでした。
ほかのところでも様々な形で読んだお話ですが、ここで語られているバージョン、短いけれど、だからこそ素朴に怖い……。
そのほか、記憶に残っていてまた読みたいと思っていた怪談もあらためて味わうことができ、やっぱりもう一度買って良かった、となりました。

『犯罪乱歩幻想』(三津田信三/角川ホラー文庫)

『犯罪乱歩幻想』

乱歩の作品をもとにオリジナル小説を書く、という大胆な乱歩トリビュート短編集。
乱歩も三津田信三さんも両方大好きなので、大変楽しく読みました。
乱歩作品のおどろおどろしさは残しつつ、舞台は現代に置き換え、いかにも三津田ミステリらしいトリックも。
 『屋根裏の同居者』『赤過ぎる部屋』『夢遊病者の手』が特に好みでした。
(乱歩ファンなら、タイトルだけでそれぞれどの作品へのオマージュかわかりますよね)
思わぬあの人が登場する『G坂の殺人事件』にもニヤリ、というか、嬉しくてキャーッとなってしまいました。

3月

『闇に香る嘘』(下村敦史/講談社文庫)

『闇に香る嘘』

いわゆる社会派ミステリ?に分類されるのかな、という小説で、普段はあまり読まないタイプの小説です。
(ミステリでも現実離れした設定のお話が好きでして)
けれど主人公に迫ってくる謎と、それを追いかけていく過程に引き込まれ、あっという間に読了。
思いがけないラストにも深い納得感が。
中国残留孤児や満州引き揚げの話がストーリーの骨格を作っており、日本という国家が過去にやってきたことを考えさせられるお話でもありました。
日本がかつて中国や韓国、アジアの諸外国に対してした行為(侵略、植民地化)は、今、イスラエルがパレスチナに対してやっていることと同じなんですよね。
また、ロシアがウクライナに対してやっていることも……。
あらためてそう気付くと、いたたまれない気持ちになりました。
「過ちを繰り返してはいけない」、そう思います。
それは単に、日本が再び同じ間違いを犯してはいけない、というだけではなく、世界で同じ事が起きている時には率先して止めなければならない、ということではないのだろうか……と。
現実にはなかなか難しいかもしれませんが、そんなことを考えてしまいました。

『kylooe』(リトルサンダー/リイド社)

『kylooe』表紙もお洒落

海外漫画(バンドデシネ)専門の「書肆喫茶mori」さんで購入。
香港の漫画家・リトルサンダーさんのフルカラー漫画です。
海外漫画の世界では著名な漫画家さんだそうですが、私はまだまだ初心者なので今回初めて読みました。
とにかく絵が綺麗!魅力的!
もちろんストーリーも読みごたえがあります。
第1章「憂鬱なトンボ・虹との別れ」、第2章「緑のトンネル」、第3章「微笑みよ、さようなら」という3話構成。
「kylooe」という謎の生き物(?)が共通して登場する以外、それぞれお話のつながりはありませんが、3話を通して感じたのは、抑圧されている登場人物たちの鬱屈と、「今、ここ」とは異なる世界への憧れでしょうか。
特に「微笑みよ、さようなら」は強烈なディストピア社会が舞台となっており、現実の香港の状況とも重ね合わせて、色々考えてしまう物語でした。
リトルサンダーさん、ほかの漫画もこれから読んでいきたいと思います。

『異界を旅する能 ワキという存在』(安田登/ちくま文庫)

『異界を旅する能』

現役の能楽師の方による一冊。
能の中でも、特に「ワキ」について焦点を当てて書かれています。
生者である「ワキ」(僧であることが多い)が旅を続ける中で、この世ならぬ存在「シテ」(亡霊であったり精霊であったり)と出会い、異界へ迷い込む。
「シテ」の語る妄執を、「ワキ」はただ聞いているだけのようでいて、しかしそこになくてはならない存在。
「シテ」は「ワキ」に聞いてもらうことにより思いを晴らし、成仏していく……そして「ワキ」もまた、異界に触れたことにより、それまでとは異なる自分へ変わっていく。
能について少し勉強できたら(あとは、あわよくば小説を書く上で参考になれば)という気持ちで読み始めたのですが、予想外に深くて広い内容でした。
芭蕉、三島由紀夫、漱石にまで言及され、現代人の生き方についても論じられている。旅に出たくなる本でもありました。
そして引用されている能の詞章、美しい文章であることよ。

『まほり』(高田大介/角川文庫)

『まほり』

ホラーかなと思っていたら、どちらかというと民俗学調査&史料分析ミステリーという感じでした。
なので期待とは少し違っていたけれど、興味深く読了。
都市伝説めいた、友人の友人から聞いた不思議な話から始まり、山中の祠や閉鎖的な集落にある神社の調査に赴き、また、古文書を集めて読解して……という地道な探索により、じわじわと「まほり」という言葉の意味に迫っていきます。
その過程が大変読みごたえあり。
信じられないような真実に辿りついた後の、ラストの幕切れまで鮮やかでした。

『幻想と怪奇15 霊魂の不滅』(新紀元社)

『幻想と怪奇15 霊魂の不滅』

定期購読している『幻想と怪奇』の最新号。
クラシカルな降霊会の話、生まれ変わりの話などがたくさん掲載されていました。
降霊会、一度くらい参加してみたい気がするなあ……降霊会盛んなりし時代に生まれておれば、きっと足繁く通っていたことでしょう。
特に好きだったのは、相川英輔「昨日の友人」と、ヘンリー・ジェイムズ(植草昌美・訳)「モード・イヴリン」(これらは降霊会のお話ではないですが)。
どちらもおどろおどろしさはないのに、どこか不穏な空気が漂う、奇妙な味わいの物語でした。
『幻想と怪奇』、次号はショートショート特集号なのでさらに楽しみ。
いろいろな作家さんの怪奇幻想掌編が読めるぞ~、とわくわくしています。


そのほか、積読になっていた昔の『異形コレクション』も読みました。

『異形コレクション アジアン怪綺(ゴシック)』(井上雅彦監修/光文社文庫)
『異形コレクション アート偏愛(フィリア)』(同上)
『異形コレクション 妖女』(同上)

上記の3冊。
私は異形コレクションはわりと最近になってからの愛読者なので、昔の本はまだまだ未読状態で。
古本で少しずつ揃えていっています。
(本当は古本じゃなく新刊で揃えたいんですけどね……絶版つらい)
特に、異形コレクション常連作家さんの中で、速瀬れいさんという方の作品がすごく好みでして。
速瀬れいさんが載っている巻を優先して読んでいます。
『アジアン怪綺』には「金蓮靴」、『アート偏愛』には「約翰(ヨハネ)の切首」、『妖女』には「時の通い路」が掲載。
どれもとても良かったです。
この方の単著が出ていたら絶対購入するのですが、見当たらなくて残念。
(確かな情報ではないですが、すでにご本人はお亡くなりになっているのではとおぼしき情報もネットで見かけてしまい……)
これからも昔の『異形コレクション』を探索しては、速瀬さんの作品を集めていきたいと思います。

また、3月の終わり頃はちょっと色々くたびれていて、新しい本を読む気力がわかず。
過去に読んだ本の中でお気に入りを再読していたりもしました。
『少将滋幹の母』(谷崎潤一郎/新潮文庫)、『小島』(小山田浩子/新潮文庫)など。
自分が好きで、内容もすぐれているものをあらためて味わうのは、心の平穏に効果があるんだな……と感じ入った次第です。

以上、2月・3月の読書の振り返りでした。
(了)

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