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読書日記 2023年7月

熱暑の日々が続いていますね。
冷房の効いた部屋で一日中本を読んでいられたら最高だろうな……と思いつつ、燃えるようなアスファルトを踏みしめて通勤する毎日でございます。
電車の中は涼しくて、読書がはかどるんですけどね。
そんな7月の読書日記です。

読んだ本の中から、面白かった本・印象に残った本を書いていきます。
夏なので、怪談やホラーが多めです。
(それはいつものことか……)

『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』(三津田信三/角川書店)

亡者とか首無女とか良いですよね

こちら、実は6月に読んでおりました。うっかり抜けていた。
三津田信三先生は大好きなホラー作家さんです。
この『歩く亡者』は、人気のホラーミステリ・刀城言耶(とうじょうシリーズのスピンオフ的な作品。
名探偵でもあり作家でもある刀城言耶が、各地を旅しながら遭遇する奇怪な事件を解決していく、というのが元シリーズ。
こちらでは刀城言耶は登場せず、彼が民俗学の講師を務める大学で、研究室の留守を任されている学生・天弓馬人が、持ち込まれた怪奇譚の謎を解き明かしていく……という安楽探偵椅子ものになります。
面白いのは、この天弓馬人が無類の怖がりであること。
怪奇譚を持ち込むのは瞳星愛という女子学生なのですが、彼が怖がる様子を見るのがだんだん楽しくなってきたようで、これでもかこれでもかと怖い話を持ってくる(笑)
天弓馬人は恐怖から逃れたいから、必死になって論理的な謎解きをする。
その掛け合いが読んでいて楽しかったです。
馬人の推理によってミステリ的には一応の解決がもたらされるのですが、それでもなお、説明のつかない怪異が残る……という結末が、大変好みでした。
短編5編を収録。それぞれ読みやすい長さなので、三津田信三先生の作品を初めて読む方にもオススメです。
(刀城言耶シリーズはすごく面白いのですが、どれも分厚いので、初めての人にはちょっとオススメしづらい)

『七人怪談』(三津田信三編著/角川書店)

三津田先生の本をもう一冊。
こちらは三津田先生が、ホラー作家6人にそれぞれテーマを示して「自分がもっとも怖いと思う怪談を書いてください」と依頼したアンソロジー。
三津田先生ご自身を入れて7人、ということですね。
収録作品はこちら。

澤村伊智「サヤさん」(霊能者怪談)
加門七海「貝田川」(実話系怪談)
名梁和泉「燃頭のいた町」(異界系怪談)
菊地秀行「旅の武士」(時代劇怪談)
霜島ケイ「魔々」(民俗学怪談)
福澤徹三「会社奇譚」(会社系怪談)
三津田信三「何も無い家」(建物系怪談)

作者名とテーマを見るだけで(それぞれの作者によく合ったテーマが選ばれています)、わくわくが止まらないラインナップ。
実際読んでみても、どの作品も期待にたがわぬ怖さ面白さでした。
特に好みだったのは、霜島ケイさんの「魔々」。
妄想癖がある母に辟易した主人公が、母から逃れるように、田舎にある亡き祖母の家で暮らし始める。
そこで起こる怪異が綴られるのですが、狭くて古い家の中、じわじわと迫り来る恐怖がたまりません。
そして怪異の正体と、妄想かと思われていた母の言動の意味などが明らかになるラストも、恐ろしい。
こういうモノ、日本のどこかに今でも存在しているんじゃないかな。
その意味さえ忘れられ、放置されて……と想像すると、よりいっそう恐怖が増しますね。
三津田先生の「何も無い家」は、お得意の建物系怪談。
もはや「はっきりとした怪奇現象は書かれていないのに、家の描写だけで物凄く怖い」という境地に達しておられます。さすが。
また、この中では唯一、名梁和泉さんは初めて読む作家さんだったので、どんな感じかな、と思っていたのですが、こちらもすごく良かった。
子供時代の思い出をたどっているうち、いつしか出口のない異界に迷い込み、やっと抜け出せたと思ってみたら、そこは……。
どうにもならない人生の絶望感、切なさまでも感じさせてくれる恐怖譚でした。

『ひとひら怪談 町』(藍内友紀ほか)

スタイリッシュな表紙!

怪談が続きます(笑)
こちらは「プロ作家が本気で遊んでいる掌編怪談集」と作者さんが謳っておられるシリーズの最新刊。
上記の『七人怪談』にも登場の澤村伊智さんなど、活躍中のプロ作家さんが多数参加しておられます。
私、短くて怖い話が好きなんですよね……
このシリーズのような掌編怪談、自分でもちょっとだけ書いてみたことがあるのですが。
やっぱりなかなか、上手くいかない。
こんな風に書けたらいいな~、とうらやましがっているとキリがないので、あきらめて読者に徹し、楽しく読みました。
冊子のデザインや、作品と作品の間に挟み込まれた写真なども含め、とても素敵な怪談集です。怖いけど。

『沼地のある森を抜けて』(梨木香歩/新潮文庫)

怪談以外の小説も読んでおります。
梨木香歩さん、この読書日記の上半期のまとめにも書いたように、好きな作家さんです。
こちらの『沼地のある森を抜けて』は同じく梨木香歩好きの文学仲間から貸してもらいました。
事前情報として伝えられていたのは「ぬか床から人が出てくる話だよ」……
なんだそれはどんなお話??とはてなマークでいっぱいだったのですが、本当にぬか床から人が出てくる話でした。
台所でぬか床をかき混ぜるという日常生活の中に、ごく自然に異界のものが存在している。
その書き方がとても素晴らしい。
そしてぬか床の源をさかのぼって、主人公が先祖の島へ向かうくだりは冒険譚の趣もあって、とても面白かったです。
こんな世界を、梨木香歩さんはいったいどこから見つけてくるんだろうなあ、といつも思ってしまいます。

『宵山万華鏡』(森見登美彦/集英社文庫)

こちらは再読。
森見登美彦さんはそんなにたくさん読んではないのですが、この『宵山万華鏡』や『きつねのはなし』『夜行』のように、少し怖いお話が好きですね。
今年はコロナも五類になって(実際には感染は増えているようですが……)、各地で自粛されていたお祭りが再開されています。
テレビのニュースなどで祇園祭の話題がたびたび流れ、「あ、そうだ、アレが読みたいな」と本棚から取り出してきました。
連作短編の形式で、前半のほうには宵山にまつわる楽しくにぎやかなお話も収録され、それはそれで森見登美彦さんらしい……のですが、途中からさらりと、怖いお話にシフトしていきます。
あのにぎやかな宵山の裏側に実は……と想像すると、ニュースの映像もなんだか違った風に見えてきてしまいました。

『やさしいダンテ〈神曲〉』(阿刀田高/角川文庫)

カラフルで可愛い表紙

最後に、普段はあまり読まないような本を。
先日、京都市京セラ美術館で開催されていた「ルーヴル美術館展 愛を描く」を見てきました。
数々の美しい絵画を堪能してきたのですが、西欧の古い時代の絵は、ギリシャ神話や聖書の知識があったほうが、より楽しめます。
(もちろんそれぞれの絵の横にキャプションが付されているので、それでも十分理解できますが)
私はそこまで詳しいわけではないけれど、それでもギリシャ神話や聖書などは、子どもの頃に「やさしいギリシャ神話」「子どもも読める聖書物語」みたいな本で親しんできたので、「なんとなくこれ、知ってるな~」「読んだことあるな~」という感じで鑑賞。

「アモルとプシュケ」、「眠る幼子イエス」


最後に、素敵な絵に出会いました。
それがこちら、「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」(アリ・シェフール)。

ポストカードでは良さが伝わらない……!

不倫の罪で地獄に落ちた男女(フランチェスカとパオロ)を、地獄めぐりをしているダンテとその案内役ウェルギリウスが見つめている……という絵なのですが、これがすごく好みでした。
男のほうは苦悩に満ちた表情とポーズに見える。
一方、それにすがりつくフランチェスカは、哀しみに満ちてはいるけれど静けさをも感じさせる表情。
たとえ地獄に落ちても、愛する人とともにいられて幸せ……というようにも見える。
この一枚を見られただけでも、来た甲斐がありました。

しかし。
恥ずかしながら、『神曲』は全く読んだことがない!
ダンテが、なぜか生きたまま地獄に行っちゃってウロウロする話、程度の知識しかない……!
せっかく素晴らしい絵に出会えたので、これを機会に勉強しようかと。
ミュージアムショップで購入したのが、阿刀田高『やさしいダンテ〈神曲〉』です。
(やさしい○○の話、というのに飛びつくのは、子どもの頃から変わっておりません)
題名を裏切らず、やさしく『神曲』の世界を楽しむことができました。

ダンテ、地獄だけじゃなく煉獄や天国もウロウロしてたんですね。
そして初恋の人ベアトリーチェ(実在の人物)と出会う……というのも、なんとなく知ってたんですが、このベアトリーチェの描き方が、想像していたよりすごかった。
現実ではダンテ、ベアトリーチェに会ったのは二回だけなんですよ。
最初は幼い少年少女の頃、宴席でちらっと姿を見た。
二回目は青年になってから、道で出会った。
特に会話を交わすことはなく、軽く会釈のみ。
その後、ベアトリーチェはほかの男性と結婚し、若くして亡くなる。
……え?それだけ?
っていうくらい、現実では関わりがない。
でも、そういう純粋すぎる片思いだったせいでしょうか。
『神曲』の中では、ベアトリーチェは天上世界にいて、聖母マリアにも負けないくらいの神聖で高潔な聖女として描かれています。
そしてダンテのことを厳しく叱ったり、優しく励ましたりして導いてくれる。
すごいな、片思いの相手をここまで美しく昇華させることができるなんて……
かなわぬ恋心を文学に、という点ではゲーテの『若きウェルテルの悩み』を思い出しましたが、昇華のさせ具合が半端ない。
パオロとフランチェスカのことを知りたくて読んだ本でしたが、むしろダンテの片思いのすさまじさに心を持ってかれてしまいました。
(ちなみにパオロとフランチェスカも実在の人物。ダンテと同時代の人で、二人は不倫が発覚してフランチェスカの夫に殺害されてしまった……という事件があったとのことです。)

7月の読書日記、以上になります。
8月はお盆休みもあって、積ん読消化を進めたいところ。
またいろいろ読んでいきたいと思います。
(了)















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