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秘技、一本還し

 最近ですね、菌糸瓶飼育の手法をヴァーサタイルに考え直す必要があるとわたしは思っています。
 と言いますのも、今現在飼育中のKYOGOKU血統2023ブリード群なのですが、これらがですね、まあ、これは成り行きではあるんですが、なんと、一本還しになっちゃってるんですよね。孵化初令幼虫をオリジナル200cc菌糸Cupで3令加齢直後まで育てた後、次に投入した瓶がラスト、ということです。これ、事実上、一本還しですよね。
 つまり、去年の夏から、年が明けて2024年の今も未だずっと同じボトルの中ということです。♂は1500ccボトル、♀は800ccボトルです。ただし、その内の♂の2頭だけは新しいボトルに入れ替えているので、この2頭については二本還しになるのですが、他は見事に一本のまま持続。というのも、テスト・サンプルとしてそれら2頭を昨年の11月に先行交換してみたのですが、この2頭共にあまりにも培地の消費量が少なかったからで、これは交換する必要がないと判断したのです。押し並べて、すべての個体のボトルの外観からも殆ど食痕が現れていない状態だったのです。それで、無理に交換して環境を変えてしまうよりも、そのままの方が結果的には良い筈とわたしは判断したわけです。

アヴァンギャルド精神こそは突破の鍵

 しかし、交換した2頭の幼虫はと言いますと、1頭は可もなく不可もなく、これがワイルドなら大きいかな、というサイズ感。もう1頭は極端に育ちが悪く、200cc菌糸Cup時から成長しておらずに小さかった。それで、今回は失敗したかなあ、と、ブリードはまだ中盤戦にも関わらず戦意喪失で半ば諦めていました。

2023年11月 - この個体は3令♂ながらまったく成長していない
2023年11月 - こちらは体重の乗りは悪くはないものの、特に優秀とも言えない数値

 それらの2023年ブリード群の菌糸瓶は、孵化初令幼虫管理では優秀な結果が出ている、オリジナル200cc菌糸Cupで行なっている製造手法(複数回発菌操作して菌の活性とオガ培地の分解深度を上げる)を、そのまま大きいボトルにも応用してみたものなのです。ただし、種菌のメーカーを2社にして、これまでは使用経験の無かったメーカー物を新規試用してみたんですが、その新規導入した方の菌の活性とオガの質がまったくよろしくなかったんですよね。菌床ブロックの袋を開封した途端にこの菌糸はダメだな、と、実は当初から失敗を覚悟していたのです。
 その後、それから年も明けて、暖かくなりだした春先に当然ながら次のボトル交換タイミングが訪れました。がしかし、やはり食痕が出てない……。まあ、食痕が激しく露出しているよりは良い傾向ではあるとわたしは判断するのですが、何分こうなると中の様子が判らないのですよね。ただ、菌糸の活性状態は良いんです。まったく劣化傾向がありませんし、大変優秀(ただし、使用実績のある方の菌糸ボトルのみ)。これは過去に無く逡巡することとなりました。最終瓶に入れ替えるべきかどうか、どうしたものか、と。交換するとすると、それは即ち最終瓶であり、蛹化・羽化用ということになります。劣化した培地よりも新しい菌糸瓶の方が遥かにセイフティな常套策ではありますが、逆に環境が大幅に刷新されてしまうので、幼虫からすれば環境ストレスが大きく掛かる局面になってしまうと思われます。その影響を飼育者的にはどう考えて判断するか、です。
 結局、交換無しで行くことにしました。但し、菌は生き物、このまま管理環境温度が上昇すると、流石に菌の活性が衰えて培地は急速に劣化してしまう懸念がありますので、そうなったときには打つ手がマット投入以外にもう無くなってしまいます。それは本当に最後の最後の手段なので、是非とも避けたい。そこで、発想転換し、常温飼育をポリシーとしてはいるものの、我が家で最も涼しく温度が安定した場所へと安置場所を移動させることとしました。それは、キッチンの床下収納です。ここですと、一気に5℃は下がっていて、しかも、終日温度が安定していました。これなら菌糸の劣化の懸念はありません。
 それと、もう一つ、前蛹から蛹化に掛けては温度が低い方が大型化し易く、また、♂の場合は大顎が発達し易い傾向にあるという研究結果データが報文や論文では多数示されているんですよね。それで、その実験を以前から試してみたかったということもありました。今回については大型化はもう期待できないとこの時点では思っていましたので、試験的な措置に大きく舵を採り直した格好といいましょうか。ウチでは冬場は毎年、他ブリーダーが絶対やらないくらいの底(低)温度帯(10℃以下)管理していますから、そこから春温度に上昇して、がしかし、夏温度には至らずに終了、という変則スケジュール管理ですかね。こうすることで、蛹化・羽化の予定時期は例年よりも大幅に遅れるのかもしれませんが、それがもしも大型化に結びつく妙案なのであれば、結果alrightということですしね。

新機軸創出はやはり失敗が原点?

 そしてつい最近、ボトルの様子を確認してみますと、殆どの個体のボトルに食痕が現れだしたのですよね。幼虫は低温度維持の春温度でも活発に活動していました。一度、気温上昇を感知させたので、そのためか、或いは、積算温度の考え方はクワガタ飼育では現在ほぼ否定的見解をされてはいますが、時期的な感受性によるものなのかはわかりませんが、明らかに活動が活発になっているように窺えます。そして、体躯がそこそこ大きくなっているように見えるのです。しかも、まだ終齢幼虫っぽく黄色く色づいてはいない。「あれ、これは期待してもよいのか?」と。

2023年夏より常温で無交換のオリジナル菌糸瓶1500ccボトルの中の3令♂幼虫
代謝水も確認でき、菌糸も食痕も状態は大変優良に観察される

 今の時点ではっきりと言えるのは、明らかに冬以降の下半期で幼虫は大きく発育しているということです。これは、例年の我が家での発育状態とは大きく違っていますし、通常のオオクワガタ幼虫の成長曲線ともまったく異なっており、これは大変違和感を感じるものです。一般的には、クワガタ幼虫の人工飼育では夏場に初令から3令へと一気に大きく育ち、冬場は越冬態勢で休眠、春から活動し始めるが体重を減らすことはあっても増長する個体は少ない、というのが常態であって、これが飼育者の飼育方針を立てる上での基本セオリーでもあります。それが、明らかに休眠から目覚めた春以降に食べて育っている。しかも、無交換の古い昨年の夏もの菌糸瓶の中で……。
 がしかし、よくよく考えてみるとですね、「……これって、ワイルドの育ち方に似てない?」と。そうなんです。ワイルド幼虫って、初令、2令で越冬することも常態だし、必ずしも夏場に急激に大きくなっているとは限らないのです。さあ、これをどう読み解くべきか。

蛹化は常に最終関門

 ただ、以前から使用していて、わたしの使用に於いては実績のある種菌の方のボトルで良い結果の個体が居そうなのですが、新規購入した方の菌糸の方はやはりダメなように見えます。菌の活性、食痕の色と露出の仕方がよろしくない。この培地、タンパク質の添加量がかなり多いのではないかなあ、と。オガがまったく白枯れしてきませんしね。菌の分解が培地の栄養に追いついてない感じなんですよね。
 あとは、やはり蛹化ですね。オオクワガタ幼虫飼育での最も気を遣わざるを得ない難関フェイズ。まあ、最悪、ボトルの底にさえ蛹室を作らなければ良いのですが、できれば、蛹室の位置はボトルのど真ん中でお願いしたい。そうすれば、健常な体躯で羽化している筈ですから。ウチでは常温の例年では6月中旬から下旬頃が蛹化時期ですので、未だ要注意観察時期にはなっていませんが、見過ごしは危険。
 わたしはボトル内の状態さえ良好であれば、基本的には幼虫の作った蛹室でそのまま羽化してくれるのが最良と考えています。その方が羽化後の管理も格段に楽になりますしね。ただ、暫くは成虫の姿を確認できないという、飼育管理者にとっての最大のお楽しみを自らお預けにするもどかしさのジレンマをどう克服するかだけの問題でしょうか。
 ということで、今回は図らずも一本還しになってしまいそうで、いわゆる「最終体重」計測という、羽化成虫のサイズを予測できる唯一の指標とも言うべき、また、オオクワガタ・ブリーダーにとっての定番のもう一つのお楽しみイベントが
無しになってしまいそうです。
 そして、これが新たな飼育手法と成り得る成功例となるのか、失敗に終わるのか、さて、どうなりましょうか。

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