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黒占
2022年8月25日 17:24
それはきっと、執着なのだ。 私───葵鈴は、そう考えた。 愛とか恋とか、そういうものとは違う。 それらはあくまで執着の一種に過ぎない。 私はただ、胸中に宿った呼称を知らぬ別種の執着を、恋愛感情と見誤ったに過ぎなかったのだろう。 狭いながらも不自由の無かった、四畳半の自室に私は居る。 文机に両肘をつき、上半身の重みを預ける。天板と胸の間に、湿気を濃く帯びた不快な空気がべたりと滞留する
2022年8月26日 18:10
初めに、空虚があった。 鑑みるに執着とは、空虚から生じるのだろう。 私が学生生活そのものに魅力を感じられなくなったのは、高校入学から間も無い頃の事である。以来現在に至るまで、私はずっと帰宅部のままだ。 何故そのような事になったのか。自分自身の心の動きには、今も合点が行っていない。 入学前。 私は、これから始まる高校生活の放課後をどんな風に送ろうかと夢想しては、浮き立つような悩みに耽っ
2022年8月27日 22:28
私の中の空虚は、程なくして埋まった。 ある土曜日のことである。 平日はいつもすぐに学校を出る私だが、土曜だけは夕方まで帰宅しない。 土曜は午前で放課となるので、昼食を食べに帰宅する者がほとんどだ。 外には人が多いから、あまり帰りたいという気持ちが湧かない。逆に校内は人が少なくなるので、気に入っている。私にとって休日とはもはや外界の者達と顔を合わせずに済む時間───という意味の言葉になっ