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「ひと」を書く記事について

こんにちは、こんばんは。大阪社会部の山本大樹やまもとだいきです。

この note ではこれまで、共同通信の記者が書いた記事について、筆者自身に解説してもらう「私が書いた理由」などを公開してきましたが、今回は少し形式を変えて、運営担当の私が(独断で)選ぶ「おすすめ記事3選」をやってみたいと思います。

共同通信の記事といっても、政治・社会・経済に関する固いニュースから、スポーツ、文化、エンタメ関係、ローカルな街の話題までジャンルはさまざま。

どんな記事をご紹介しようかと小一時間ほど迷った末、今回は「ひと」にフォーカスした記事を取り上げることにしました。

マスコミ業界で「人モノ」と言われるこのジャンル。決まったスタイルは特になく、その分、筆者の個性が出やすい分野でもあります。

取材対象となった人たちのストーリーを通じて、記者の人柄も感じていただければ。そんな視点で、3つの記事を選んでみました。

願わくば、読者の皆さんに「おもしろい」と思ってもらえる記事がありますように。

■ 共同通信の長い記事、それは「47リポーターズ」です

前置きが長くなってしまいますが、私たちが書いている記事について、少しだけご説明します。

そもそも共同通信の記事ってどこで読めるのか。実は結構、いろいろなところに流れているのですが、まとまって掲載されているのは「47NEWS」というサイトです。「全国新聞ネット」という、共同通信とその加盟社が出資する会社が運営しています。

このサイトでは、日々の短いストレートニュースもたくさん掲載されているのですが、共同通信の記者が特に力を入れて取材した「深掘り」の企画記事は「47リポーターズ」という特集枠で配信しています。3000字以上あるような長めの記事はだいたいこの47リポーターズです。

この記事は、共同通信に加盟する新聞社のウェブサイトのほか、Yahoo!ニュースにも配信されています。さまざまなキュレーターにもピックアップされているので、 LINE NEWS や SmartNews 、 NewsPicks などのアプリで目にしていただくこともあると思います。「47NEWS」や「共同通信社」というクレジットを見たら、あーこれか、と思っていただければ幸いです。

ここでは、この47リポーターズの枠で過去1年くらいの間に配信された「人モノ」記事を3つ、ご紹介します。

■  ①「こんぼう」に魅せられた人、に惹きつけられた記者

1本目の記事は、大阪社会部のデスクだった松竹維まつたけゆい記者(現在は本社社会部デスク)が「全日本棍棒こんぼう協会」会長の東樫あずまかしさんに取材して書いた記事です。

「試し殴り」「棍棒飛ばし全国大会」「木の外見と中身を一本で鑑賞できる棍棒の特性を力強く証明する」

パワーワードの数々に、東さんの棍棒への情熱と、そこに惹かれた松竹記者の思い入れがにじみ出ています。

記事は冒頭、今年2月に大阪市内のホテルで開かれた「大棍棒展」の場面から始まるのですが、棍棒の魅力や、自然や生き物に対する考え方、農耕、里山文化に対する考察へと、東さんの思考を辿たどりながらどんどん展開していきます。

最後に登場するのが「棍棒飛ばし」という新競技。新しい競技をつくって、全国大会を計画する。その情熱に圧倒されます。

いったい、どんな競技なのかとググってみたのですが、全日本棍棒協会のサイトにルールブックがありました!めちゃくちゃ詳しい内容です。ご興味ある方はぜひご一読下さい。

ちなみに。松竹記者は私よりも年上のベテラン記者ですが、長らく検察・司法担当をしていたので、この記事を初めて詠んだときは「松竹さんってこんな取材もしてるのか」といささか驚いた記憶があります。

マスコミの記者は、ともすると「担当」とか「持ち場」にしばられがちですが(個人の考えです)、自分の関心に従って取材すること、特に「ひと」を追いかけることって、この仕事の醍醐味だいごみだなと、改めて感じた記事でした。

■ ②取材相手とともに記憶をたどる

2本目の記事は、今春まで大阪写真部に所属していた武隈周防たけくますおうカメラマン(現在は中国総局)が、ビールの原料となるホップの栽培に取り組む篠田直之しのだなおゆきさんに取材して書いたこちらの記事です。

武隈カメラマンが篠田さんと出会ったのは、記事の中にも出てくる大阪市西成区のクラフトビール醸造所の取材がきっかけでした。

47歳の時にアルコール依存症と診断された篠田さんですが、ホップ栽培と出会ってからはお酒を口にしなくなりました。記事では篠田さんの半生や依存症とどう向き合ってきたのかについて、丁寧に取り上げています。

詳細は記事を読んでいただきたいのですが、篠田さんの過去については、プライベートなことまでかなり細かく描かれています。

これ、実は依存症の影響で記憶があいまいな部分について、篠田さん自身が一つ一つ調べ直してくれたんだそうです。武隈カメラマンも、篠田さんが思い出すきっかけになればと、彼が語った話を時系列で整理し、年表にまとめてお渡ししたとのこと。

たしかに、自分の人生をいちから振り返ることなんてそうそうありませんから、人から尋ねられてもぱっと思い出せないことってありますよね。依存症や向き合うのがつらい記憶があるなら、なおさらのこと。そういう部分を取材する側とされる側が一緒になって、少しずつ埋めていく。人の人生を取材して書くというのは、そういうことなのかなと考えさせられました。

今回の note を書くに当たり、この記事を改めて読み返してみました。後段に篠田さんがキリスト教の教会で洗礼を受けた話が出てきます。旧統一教会の問題が取り沙汰されるようになって以降、「宗教」や「信仰」という言葉がネガティブな意味で捉えられることも増えましたが、篠田さんにとっては信仰がひとつの心の支えになったようです。

記事を読みながら、人の営みと宗教の関係についてもいろいろなことを考えさせられました。

■ ③「かかしソフトボール」に込められた地域の思い出

3本目の記事は、大阪写真部の坂野一郎ばんのいちろうカメラマンが、福岡県飯塚市のたんぼで「かかしソフトボール」を開催している久保井伸治くぼいしんじさんに取材して書いた記事です。

この「かかしソフトボール」、小学生チームのユニフォームを着た30体のかかしが、2チームに分かれて毎日少しずつ動き、約1カ月かけて1試合を戦うという…すごいイベントです。とにかく面白いので、一度記事を読んでみてください。

かかしソフトボールは毎年11月に開催されている地域の名物行事なんだそうです。坂野カメラマンが取材したのは昨年でした。今年はどうなってるんだろうか…と思って調べてみたら、絶賛開催中のようです!

しかも、かかしが増えてる?投打「二刀流」のあの人とかの名前も…。めちゃくちゃ気になります。

おそらく福岡では名の知れたイベントなんだろうと思いますが、関西にいる私はこの記事を読むまで全く知りませんでした。大阪写真部所属の坂野カメラマンも、別件で九州へ出張していた時にこのイベントを知り、ぜひ取材したいと久保井さんに連絡をとって飯塚市まで伺ったそうです。

取り上げ方は「人モノ」というより「地域の話題」という感じですが、記事を読み進めていくと、そこに住む人々の暮らしと歴史が見えてきます。

数十年前、このユニフォームを着て走り回っていた子どもたちや、一家総出で応援に駆け付けた家族の思い出。一着、一着に地元の人たちのノスタルジーが刻まれています。

そして、その頃の地域の記憶を今に伝えているのが「かかし」であり、久保井さんです。記事の中に出てくる35年前の写真を見て、私は少し胸がつまりました。

2本目にご紹介した記事もそうですが、カメラマンの人が書く記事というのは、よく情景を捉えているなと思います。瞬間、瞬間の相手の思いをどう切り取ろうか、ずっと観察しているからでしょうか。私は記事を書く方が専門のいわゆる「ペン記者」ですが、写真部の人の記事には学ぶところが多いです。

以上、独断と偏見で選んだ記事3本をご紹介してみました。

皆さんが「おもしろい」と思う記事はありましたでしょうか。

山本 大樹(やまもと・だいき) 1985年生まれ、大阪府出身。2008年入社。富山支局、盛岡支局、本社生活報道部などを経て大阪社会部で遊軍。いじめ、虐待、医療的ケア児の支援、インクルーシブ教育など、主に子ども関係の取材をしています。1日の始まりは毎朝の味噌汁づくりから。

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