見出し画像

評㉟上・KERA『世界は笑う』@シアターコクーン、S席11000円

 企画・製作:Bunkamura+キューブ、作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)『世界は笑う』@シアターコクーン、S席11000円、A席9000円、コクーンシート5500円。東京公演8/7~8/28。(京都公演9/3~9/6)。3時間45分(二幕、休憩20分含む)。パンフ2000円(KERAの意図を知りたく買った)。
 いつも通り事前情報はほぼ見ず観劇。以下の情報も大半は観劇後に知る。
 「笑う」というコピーに惹かれ、チケットを買ったのだっけ。
 ※一部ネタバレあり

KERA、5年ぶりのコクーン書き下ろし「昭和の喜劇人」

 KERA、5年ぶりとなるシアターコクーンでの書き下ろし。モチーフは「昭和の喜劇人」(これも途中で知るレベル)。テレビが出始めた、昭和32年=1957=秋からの数年間。
 KERA3度目の瀬戸康史(座長)、初参加の千葉雄大、勝地涼、伊藤沙莉が若手。大倉孝二、犬山イヌコ、廣川三憲(以上、KERA主宰のナイロン100℃)、緒川たまき、山内圭哉、マギー、温水洋一、山西惇、伊勢志摩、神谷圭介、ラサール石井、銀粉蝶、松雪泰子。以上17人。
 豪華だな??
 後述するパンフインタビューで廣川は、山西、山内、ラサール、温水、マギー、大倉。このへんって一本の作品に誰か一人いれば十分なタイプの俳優と指摘、「それがオモシロおじさん大集合!みたいな状態に」と語る。……そうだ、そういう感じのおじさん俳優がわやわやいる、豪華さだ!

 自分的には大倉孝二、松雪泰子がいると嬉しい。瀬戸康史、千葉雄大は顔つきが似ているようで一瞬混乱したが、きょうだい役ということで納得(舞台で横から見たら千葉の頬が少しぷっくりし、瀬戸がすっとした顔立ちだったので、千葉が甘える弟、瀬戸が面倒見のいい兄ちゃんにはぴったりだったか。やはり現場で観るとテレビとは違う)。なお、山内圭哉がいることで何故か安心した、KERA作品7回目らしい。

2階のトイレは個室が少なく、大行列

 S席だが2階。1階、中2階があり、その上の2階。ただ、最前列であった。場内は携帯電話の電波停止(ただし、電源を切るようアナウンス)。

 トイレ(女性)は、1階に24、2階に4(中2階にはない)。このため、2階のトイレは休憩開始時にざっと30~40人が並び、「1階もご利用ください」「休憩時間以内にトイレ利用ができるか断言できない」とスタッフ(この時にトイレの数を言っていた)。ただ、階段の段数が多く上り下りが大変なので、避ける人も少なくない。ここのトイレと階段はいつも気になる。

コクーン空間、一応“3階”部分まで生かして使う

 コクーンは、天井が高く、舞台上に3階通路まで設定することが多い。奥行きもあるので移動舞台も多用される。

上演前、黒い幕が下りて舞台装置は見えなかった。「♪明るいナショナル」などの曲が流れていた

 大きく4つの舞台装置(一幕、二幕で2つずつ)が見られたと思う。
 一幕では、
 ①大きな三日月が出た夜のもと、様々な看板を掲げた商店・ビル街(高さがある)
 その後、ビルがグルっと回され裏側に隠れていた部分が出てきて、
 ②軽演劇劇団「三角座」の内部(舞台と舞台下客席部分)に。この同じ場所で、数か月後に時間経過し、その際、赤い座布団が青い座布団に変わっていた。なお、壁の時計はちゃんと動いていた(台詞の内容に関与)。

①様々な看板を掲げた商店・ビル街、のイメージ

 二幕は、
 ③劇団が地方公演に出かけた長野の旅館内部(1階部分はソファ、バーカウンターと温泉や玄関入口、2階部分は廊下及び池のある庭、3階部分は階段から客室に続く廊下)で、物語のクライマックスシーンを展開。
 ④最後に再び大きな三日月が出た夜となりつつ、一幕目とはやや異なる飲食店・ビル街。

③旅館内部(1階部分はソファ、バーカウンターと温泉や玄関入口、2階部分は廊下及び池のある庭、3階部分は階段から客室に続く廊下)、の動線のイメージ

 ①の舞台装置はビルの谷間っぽく高さを強調するが、役者は一階部分(路地)を動くのみ。ただ、芝居が始まった際の役者紹介などで、いろんな電飾看板が客席も含めて上下左右に色鮮やかにどんどん変化しながら提示され(プロジェクションマッピングだったのだろう)、空間を使い切る感あり。
 ②は舞台上と舞台下で、2階部分までしか使わず、やや空間を使い残している感。劇団の楽屋話でもあり、小劇場でもよさげな気がした。
 ③で、上下左右奥までまんべんなく使っていた
 ④は①にやや近いが、路面店のほか、2~3階建てビルの外階段の上にバー(クラブ)の入り口を置き人を出入りさせるなど、立体感を持たせた。

 つまり、「昭和の喜劇人」という話の内容からして、ザ・スズナリなり寄席なり小さめの劇場の方が似合いそうなところを、ちゃんとコクーンの空間を使い切る工夫をしていたように思う(②はややあれだが)。コクーン企画だし、商業演劇だし、キャスト17人だし、を上手くこなした、さすがプロ。

「笑い」とは何か、ひりひりする群像劇

 内容は、「笑い」とは何か、をずっと考え続ける、ひりひりする群像劇、と感じた。「笑い」「面白さ」に関する対話のところは、ほんとに心がひりひりするように感じた。

 パンフの中で、勝地涼が「あの頃のヒリヒリした気持ちを思い出します」と話しているが(ちなみに、後述で大倉も「ヒリヒリ」)、私の「ひりひり」と、勝地や大倉の「ヒリヒリ」の出逢いは、偶然
(ほんとだよ)。ちなみに、勝地は、こう言う。

 芸能界、表現の世界は、上を目指して横を見ても、どの位置に行こうが「これで大丈夫」が存在しない世界。大和(注:今回の役)を演じていると、自分が若手だった頃のヒリヒリ、ギラギラした気持ちを思い出します。

『世界は笑う』パンフ中「勝地涼」より

 へえ。もう35歳の彼で若手か!?(小6でオーディション、2000年にドラマデビューなので、芸歴20年以上だった。。。
 は、さておき、自分を冷静に見て言葉に変換できる人と感じる。
 公式サイトの「みどころ」。

 舞台は、昭和30年代初頭の東京・新宿。敗戦から10年強の月日が流れ、巷に「もはや戦後ではない」というフレーズが飛び交い、“太陽族”と呼ばれる若者の出現など解放感に活気づく人々の一方で、戦争の傷跡から立ち上がれぬ人間がそこかしこに蠢く…。そんな殺伐と喧騒を背景にKERAが描くのは、笑いに取り憑かれた人々の決して喜劇とは言い切れない人間ドラマ。
 戦前から舞台や映画で人気を博しながらも、時代の流れによる世相の変化と自身の衰え、そして若手の台頭に、内心不安を抱えるベテラン喜劇俳優たち。新しい笑いを求めながらもままならぬ若手コメディアンたちなど、混沌とした時代を生きる喜劇人と、彼らを取り巻く人々が、高度経済成長前夜の新宿という街で織りなす、哀しくて可笑しい群像劇。

『世界は笑う』公式サイトの「みどころ」より

 劇団「三角座」の雑用係となった米田彦三(瀬戸)と、「三角座」の役者・有谷是也(千葉)が兄弟。大和錦(勝地)と秋野撫子(伊藤)は兄妹。是也と撫子が恋人同士。是也がヒロポン中毒。これが若者群像。
 これに加え、三角座は山西、伊勢志摩、緒川、大倉、ラサール、山内、犬山、温水が「笑い」談義(②の場面)。なぜかラーメン屋のマギーも混じる。そして、座を手伝う松雪。。

正解のない「笑い」、それでも笑わせたい役者たち

 <1>笑い、面白いを巡る台詞がかなり多かった。うろ覚えだが、 
 「笑いだけが世界を救う」
 「世界を笑わせたい」
 「どうして面白くもない自分を見て(客は)笑っているのか」
 「そうして(笑う)客を見下す」
 「面白がる人もいれば面白がらない人もいる」
 「愛想爆笑」
 「台本面白いと思っているのか?」
 「あざとくない笑い」
 「
(自分が書いた)せっかく面白い台本を自分が(演じると)台無しにする」(役者でなく作家でいたい?)
 登場する軽演劇の役者たちは、「笑い」に正解がないことを重々承知のうえで、それでも笑わせたいと悩みながら舞台に立つ日々を送る。
 この会話は主に、②の「三角座」の場面で行われた。対話を聞いていたら、心がひりひりしてきた。舞台とは、笑いとは、客の反応とは、と、演劇のあり方に関するいろんな要素が闇鍋のように放り込まれている気がした。

 そこでこの場面が終わった後の休憩時にパンフ(2000円)を参考に買ったが、「昭和の喜劇人」の話がたくさん載っているようだ(まだしっかり目を通していない)。KERAがずっと温めてきた昭和の喜劇人の話を下敷きにしたので当然だが、「笑い」「面白い」を巡る問答や対話は、現代の舞台に通じ、演劇人の参考になる話と思う。KERAが絶対的な正解を押し付けず、役者たちに様々な思い、考えを語らせる形にしたことが、効果を生んだか。

 ※長すぎたため、上下に分割
評㉟下・KERA『世界は笑う』@シアターコクーン、S席11000円
 へ続く。

この記事が参加している募集

舞台感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?