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評⑱コクーン歌舞伎再演『天日坊』一等席12500円(割引)、素直に面白かった

 渋谷・コクーン歌舞伎第18弾・10年ぶりの再演『天日坊』@シアターコクーン、一等席12500円(定価13500円だがカンフェティ割引)、一階席でそこそこ正面から観た。ほか2等席8000円、3等席4000円。作:河竹黙阿弥、演出・美術:串田和美(かずよし)、脚本:宮藤官九郎。出演:中村勘九郎、中村七之助、中村獅童、中村扇雀他。
 
17:45~18:50(間に休憩20分)19:10~20:40 計2時間35分
 
※一部ネタバレあり

期待せずに観たら面白かった、一年に一本ならこれ?

 再演だが初見。何となく流していたが、カンフェティのメールで1000円引きのお知らせが来たので何となく、せっかくだし一等席を買う。割引が出るくらいだし、人気がないのかなと期待せずに観たら、自分的にはとても面白かった、当たり、一年に一回芝居を観るならこれがいいかもしれない。ただ、初演時よりコロナ禍で長さを30分ほど削っているそうなので初演を観た人には物足りないかも、また歌舞伎に詳しい人がどう思うか全く不明だが、ちょっぴり歌舞伎を知ってて苦手意識がある自分が観たくらいがちょうどツボかも。

 
自分の歌舞伎歴は、10年以上前に『助六』を観たきりで、イヤホンガイドは借りたけど「よくわからん」、で歌舞伎になんとなく苦手意識。2019年に『スーパー歌舞伎II 新版オグリ』は観ている。歌舞伎の血筋のない・ある役者の苦悩を描いた吉田修一『国宝』は読んだ。血筋のない役者の出世を描いた講談『中村仲蔵』は神田伯山の松之丞時代に聞いた。程度。

「クドカンのギャグと歌舞伎が両方楽しめる」

 では、何を面白いと感じたのか。ざっくりは「クドカンのギャグと歌舞伎が両方楽しめる」だが、それだけではない。2014年初演作品の再演(30分短縮)なので初演時にさんざん言いつくされ今更のことばかりだろうが、初見の自分は自分の言葉で書く。

1.串田和美~コクーン空間をきちんと使った美術

  歌舞伎だが、花道は、ない。
 最近、そのハコはその作品に合ってるかチェックする癖がついた。。
 評⑦唐十郎『泥人魚』S11000円・コクーン舞台に首傾げ(2021年12月23日)で、『泥人魚』の演出ではコクーンの舞台を生かし切れていないと書いた。
 今回の演出・美術の串田和美は、シアターコクーンの劇場設計に初期段階から携わり、1985~96にコクーンの芸術監督を務め、コクーンを知り尽くす人であろう。
 コクーンは上にも横にも奥にもそこそこ大きい。可動舞台を複数出し、頻繁に動かし、またあえて真っ黒の舞台に役者を浮き立たせるなど緩急をつけ、横と奥はうまく使った。上も二階建て・三階建て舞台ではなかったが、可動舞台の屋根を巨大な三角形にしたり巨大な可動松が何本も登場して、結構空間が埋まり、ぽっかり不自然に空く「もったいない」感はなかった。上が空いたとしても、可動舞台でしょっちゅう動いているからか、ちゃんと空間が活かされている感があったのだ。。
 泥人魚は固定舞台かつ上部の空間がぽっかり空いていた(ように見えた、バルコニー席から)。
 大道具さん、それを動かす人たち、頑張ってる。

2.串田和美~アングラを経て歌舞伎をとらえる視線

 串田は、1965年俳優座養成所を卒業し劇団文学座入団、と新劇出身ながら自由劇場を立ち上げ、アングラに行った人だ。アングラの人たちは新劇に反発し、その前の伝統芸能(能・狂言、歌舞伎、文楽)に目をつけた。
 で端折るが、そこから長らくやってきたわけだ。歌舞伎はもともと、昔の現代演劇だから、今の現代演劇とも相性がいいはず。で、歌舞伎を勉強し尽くしたであろう串田が、クドカンを使ってミックスしたのだから、面白くならないはずもない。

3.ギャグ、ちゃんとお客さんが着いてこられる工夫

 歌舞伎初心者(自分だ)に優しいつくりの劇だった。
 もろ歌舞伎だと「わからない」「ついていけない」「お勉強しないといけない」「日本の伝統芸能を楽しめない無知な自分」みたいな変な緊張でお芝居が楽しめない人も出かねない(自分だ)。
 「ちゃんとお客さんが着いてこられるような工夫」が随所にあった。筋はいかにも歌舞伎らしい明瞭な説明台詞で説くのだが、その合間にバカバカしい現代ギャグやコントを多用し、客席をクスクス笑わせ、温めた。例えば「バーカバカバカ」みたいな台詞のミスマッチ感が笑える。また、可動舞台の「壁」にあらすじと場所とその場面でのメーン役者の名前が大きく書いてあった。二幕目の最初は、平蔵役の小松和重が出てきて客席に語りかけ「僕、ここフリーなんです。台本には『平蔵、これまでのいきさつを語る』だけなんですよ。歌舞伎初めてなんですけど、こんなもんなんですか~」と笑いをとりながら、一幕目までをさらりと説明する。

4.歌舞伎は歌舞伎で楽しめる

 中村勘九郎、中村七之助、中村獅童のメーン3人中心に、やはり声は通るし所作・立ち居振る舞いは綺麗だし(止まると動かず絵のよう)、衣装をどんどん着替えて華やかだし、見得は見ものだし、舞えば目を奪うし。歌舞伎は歌舞伎で楽しめる(詳しい人が見たらどうかは知らないが)。
 比べると、笹野高史や小松和重はやはり声の通りが違う。また脇の若衆に台詞を言う度身体が揺れている人が2人ばかりいたが、ベテラン歌舞伎役者はほんとピタッと止まるのだ。うわー、やはり小さい時から訓練してきた人は違うなと。

5.音楽生演奏のお得、楽しい感

 オーケストラピットまでいかないが、前方の左右に分かれて音楽のバンド席とでもいえばいいのか、ある。パンフ(1800円)見たら、トランペット、キーボード、エレキギター、ベース、パーカッション。これらの音が効果音も含め(拍子木は別に登場)生演奏。
 歌舞伎だと、下手奥の黒御簾の奥から楽器の音が出るみたいだが、生演奏で少し得した気分。

6.脚本演出、全体を貫く「俺は誰だあっ!」

 で、やはり構成がいい。
 法策(のちの天日坊)がお三婆を殺す場面は、あえて変な振りや台詞を入れずとも無言の表情に照明と音楽の効果だけで、殺す方向に心が動いていくことを客が想像する幅を持たせた。
 ギャグ台詞「マジか」を客席がだんだん笑わなくなっていくその恐ろしさ。
 全体を貫く「俺は誰だあっ!」の台詞は、客の心も貫く。

 などなど、取り急ぎでまとまっていないが、12500円(定価1000円割引)は高いが観て損はなかった。観てよかったと「自分は」素直に思う作品だった。別に松竹は特に好きなわけでもない。単に自分の好みだったのだろう。

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