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歯ブラシと夫

 いつもと違う場所に行くとちょっとしたハプニングが結構起こるものである。この夏、私たち家族は一週間程、私の実家で過ごしたが、その初日のことである。

 夫は私の実家に洗面道具を置いている。無印良品の四角いポーチにおそらく髭剃りや毛抜きセットやらを入れているのだと思われる。

 旅行の際、私は子ども二人と自分の持ち物を用意し、夫は自分が必要な物を用意する。着る服、下着、その他諸々の持ち物である。

 そして楽しい旅行の始まり、初日の夕方である。
 実家に着いて早々に、夫は歯を磨いていた。洗面所から歯をリズミカルにシャカシャカシャカシャカ…仕事づくめの毎日から解放された夫のゴキゲンな様子が歯磨きからも分かるくらい、とてもいい音がしていた。

 その後、すぐにではないが、数十分して夫が聞いてきた。
「俺さ、グレーの○○(←歯ブラシのブランド名)の歯ブラシ、お義母さん家に置いていってたよね?」  

「え、知らない。どれ?」と言って私も洗面所の洗面台の所へ行ってみた。

 鏡の内側に収納された歯ブラシ立てのグレーの歯ブラシ。それは母の歯ブラシだ。

「コレ?お母さんのでしょ。使ったの?」この時にはもう既に、だいたい想像がついて笑いが止まらない。

 急いで夫が言う。
「いや…使ってない!!」

 あまり嘘をつかず正直に言う性質の夫だが、この時は一生懸命否定した。でも、あれだけ顔に『嘘、嘘、嘘、嘘』と嘘としか書いてないのも珍しく、ありゃもう嘘つきではない。大の正直者である。

 一応、言った。親切。
「さっき、歯、磨いてたでしょ?その時は何で磨いたの?」
 もう内心、大爆笑である。

 案の定の夫の答え。
「コレ…。コレで磨いちゃった。」

 ギャーーーハハハハ!!!久しぶりの大笑い!

 先日、『ピアノと夫』でも書かせてもらったが、常に“お茶目”とともにある男性はとてもかわいい。


そして、言わせてもらうが、

アホである。

 一年も実家に来られなかったのに、母が歯ブラシ立てにとっておく訳がない。他人の歯ブラシを使うのも嫌だが、一年前に洗った歯ブラシを使うのもソコソコ嫌である。

 夫を見る。

 苦笑いしている。そして夫は少し真面目な顔をして、「まずいなぁ。」と言った。顎に手をあてて。

 面白過ぎる。

 笑うだけ笑って、
「白状しよう。私も一緒に行ってあげるから。さぁ!」落とした肩に手をのせて、夫をトントン叩いた。

「やだよぉ〜。黙って新しいのに変えてよぉ。」罪を犯した時、夫はこういう風になるのか。ほんの少し残念な気持ちもあるが、最終的に夫も母に伝える気になったようだ。

 私から夫が間違って歯ブラシを使ってしまった事を母に伝えると、母も笑って、何故か申し訳なさそう「あらっ、そうなの…?それはそれは、ゴメンなすって〜!!」と言っていた。こちらはこちらで陽気で面白い。

 夫は私の後ろで「スイマセン!血つけちゃったんすよ。」と言った。ふぇ?血??初耳だし、言わなくてもいい事をマゴマゴしながら言った夫が、、、やっぱり面白かった。

 

 

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