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【読書感想文】永遠の仔

久々のnote投稿となります(いやいや一年も放置してたやないかい)。

この間、職場の上司からおすすめされた天童荒太著作『永遠の仔』にどハマりし、5巻まで完読しました。ここ最近はずっと村上春樹以上にハマれる作家がいなかったので、すてきな作品に出逢えて嬉しいです。

本書は「孤独とは何か」を永遠に追及した小説です。コロナ禍で孤独を感じやすくなったり、恋愛や友情でなんとなく孤独を感じている人にお勧めです。

ざっくりあらすじ

児童養護施設で育った優希、笙一郎、梁平の、3人の成長過程を綴った物語。彼らはそれぞれ複雑な家庭環境で育ってきた影響で、周りの人や、自分自身を愛せないまま子供時代を送る。

自分が幸せになることは罪だと自己犠牲を感じながら、介護士としての仕事に没頭する優希。育児放棄の母親が鬱病になり、息子としての自分を認知してもらえず愛を探し求める笙一郎。警官になったものの、子供時代の怒りのコントロールができず、誰も愛せなくなった梁平。それぞれ職を持った立派な大人になりつつも、子供時代に受けた傷は癒えていないことを自覚する。

そんな3人は、ある「犯罪」を子供時代の時に犯している。果たして、それは誰による、誰のための犯罪だったのか。3人の成長を追いかけながらも、過去の「犯罪」の真実を紐解いていくミステリー小説。

親からの絶対的な愛情

本書のテーマとして、「育った家庭環境は、大人になった今でも永遠と影響され続ける」点に焦点が当てられています。家庭環境といえば、両親からたくさんの愛情を受けながら健全に育った子供もいれば、親から虐待され、充分な愛情を注がれないまま育った子供もいます。本書に登場する3人の子供(優希、笙一郎、梁平)は、いずれも児童虐待を親から受け、愛情を充分に与えられないまま大人へと成長します。そんな悲しい過去を持った3人は、大人になってからも、どこかで「親からの絶対的な愛情」を探し求めて生きることになるのです。

例えば、介護士である優希は親から虐待を受けた過去から、自分を愛することができず、そもそも自分が幸せになることを許せなくなります。大切な人が愛を寄せてくれてもそれを心から信じられず、むしろ幸せになってはいけないという気持ちを抑えられずに苦しむのです。そんな優希の父は、彼女に虐待をする際に「おれは、ただ愛されたいだけなんだ。深く受け入れてもらいたいだけなんだよ」と嘆きます。彼自身も、実は親から充分な愛情をもらえないまま育ってきたことが明らかになるのです。

このように、人間はどこかでこの親の絶対的な愛、受け入れてくれる誰かを探し続けるのです。

みんなほめられたがっている

絶対的な愛は、必ずしも親のみからもらえるとは限りません。

例えば、物語にとある老人が登場します。彼女は幼い頃に受けた親からの傷により、年老いた今でも自己愛が足りず、精神的に打ちのめされ、病院に入院しています。親の影響なんてもう何十年の前の話なのに、人生の最期でさえまだ影響され続けるなんて、恐ろしいですよね。

彼女は入院しているものの、隣でいつも陽気な男性が話しかけてくれています。その彼のおかげで、なんとかここまで死なずに生きてこれたと言うのです。

「生きていたことが、間違ってなかったって......そう信じさせてくれた人と出会えたことで、充分なのよ。...みんなほめられたがっているのよ。褒めてくれる人と出会えたことで、充分なのよ」

本当は誰もが「いいんだよ」と言ってもらう必要があるのかもしれない。日常の暮らしのなかで、おりにふれ、「いいよ、おまえだけのせいじゃない」と、言ってもらい続ける必要があるのかもしれない

人間は、ひとりだけでは生きていけない。どこかでなにかしら、自分という存在を認め、受け入れてくれる人が必要であると話すのです。ソロ活や「一人でもいきていける」時代に変化しつつある今ですが、人間はだれしも、誰かからは心の底から受け入れてほしいと思っているのではないのでしょうか

自立とは

「誰からの影響も逃れた、真の自立なんてものが、あるのかどうか」

これは、梁平が自立をうながす児童養護施設に対して吐き捨てた言葉です。人間というものは、幼い頃に無心で両親の愛を求める時から変わらず、誰かの愛、だれかから認められたくて生きているものだと思います。

個人的には、人一倍「自立したい」願望を抱くことが多いのですが、なんとなく、完全に精神的に一人で生きることは不可能なのではないのか、と最近考えるようになりました。本書は「孤独」というテーマを、たくさんの参考文献を使いながら永遠に追及している本で、読んだ後のどんより感がすごいです。しばらくは、ちょっと軽い本も読もうかなと思います。

おわりに

ちなみに、人それぞれの好きな本というのは、その人の大切とする価値観や世界観が反映されていると考えています。私が村上春樹が好きなのも、直接的で断片的な表現よりも、抽象的で常に自由な選択を持っていたいと考えており、だからこそ彼の掴めない、抽象的な表現がものすごく好きなのです。

本書を勧めてくださった上司は、職場で一番尊敬している上司であり、そんな彼の好きな本を聞けてとても嬉しく思います。好きな本を片手に、永遠に語り合える友達が欲しいなあ(なかなかいない)。

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