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【読書感想文】アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎著作『アヒルと鴨のコインロッカー』は、伊坂さんの作品に火がついた『重力ピエロ』の発表と同年に発売された作品です。本作はいろんな賞を総ナメしており、伊坂ファンからするとお気に入りリストから外せないはず。最後のどんでん返しがすごすぎて、2日で読み終えてしまいました。(さすが伊坂幸太郎...)

※壮大なネタバレに注意

ざっくりあらすじ

大学入学のために新居に引っ越してきた「僕(=椎名)」は、アパートの隣人河崎に突然「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。それも、たった一冊の広辞苑を盗むためだけに。訝しみながらも手を貸す「僕」であったが、のちにその背景には2年前の重大な事件が絡んでいることを知る。日本語が片言のブータン人「ドルジ」、その彼女である「琴美」、そして本屋襲撃を持ちかけてきた「河崎」。この3人に一体どんな繋がりがあり、何が起こったのか。苛酷なサスペンスと、愉快で痛烈なドラマが絡み合った、まさに伊坂幸太郎を代表する一作。

辛い、悲しい、やるせない

この作品の素直な感想です。辛い、悲しい、やるせない。とことん結末が悲しいし、それを理解するのも後半部分からなので、前半の楽観的な雰囲気との差がすごくて余計に辛い。

この物語の中心となっているのは、「琴美」「ドルジ」「河崎」の3人なのですが、次々と不幸な事件に巻き込まれてしまいます。そのうちの1つは街中で起こっているある若者3人による「ペット殺し」。次々とペット屋を襲い、猫や犬を捕まえ、残虐な殺し方をするというタチの悪い奴らです。琴美、ドルジ、河崎の「正義の3人」が、ペット殺しを行う「悪の3人」と対決する構成になっているのですが、なんとここで「正義の3人」は負けてしまうのです。というか、全員死んでしまいます。琴美は「悪の3人」であるペット殺しを捕まえようとし彼らの車に轢かれ、河崎は自分の病で死に、ドルジは物語の結末で琴美を追うように車に轢かれてしまいます。ちょっと、いくらなんでも「死」が多すぎんか?と感じてしまうほどです。対して「悪の3人」はどうなのかというと、2人は逃亡中に死ぬのですが、1人薬漬けの男だけのうのうと生き残るのです。(ええなんで・・・)

なぜ善良な人が残酷にも死に、そして悪人が生き残る結末なのか。

「世界は皮肉に満ちているということくらいは、わたしも分かっているので、半日も探して見つからなかった犬が、その帰り道に、引かれた姿で自分たちの前に現れることもありえなくはないと覚悟した」ー琴美

登場人物のひとりである琴美はこのように、やけに物事に対して悲観的に考えます。一難去って、また一難。ようやく1つの事件が片付いたと思ったら、次は違う事件が浮き上がってくる。「なぜわたしはこんなにも不幸な目に逢うのか」と感じる瞬間、人間誰しもあると思います。その時感じるやるせなさ、きだるさ、そしてその不合理性をぎゅっと詰め込んだ展開になっていて、読んでいてなんだか胸が締め付けられます。神様〜どうか琴美らを助けてあげて〜って思いながら読み進めても、結末さえも助からない3人を見てもう胸が張り裂けました。そのような世の中の不公平さ、不合理性を伊坂さんは描きたかったのかな〜。にしても辛い結末です。

琴美の不器用さ、人間臭さ

どんな強い人間でも、ある弱さを抱えている。そんな人間の弱さが顕著に現れているのが「琴美」だと思います。彼女は気が強い女性として描写されていますが、前述した「ペット殺し」の3人に襲われた時はさすがに怯みます。

あれおかしいな、助かったのになんで怯えているんだろう。自分を叱咤しようとするが、気づけば、ドアの前でしゃがんでいた。小刻みに体が震えている。止まらない。そうか、わたしは自覚している以上に脆いのだ。ー琴美

「ペット殺し」の人たちに襲われるまで自分の弱さを自覚できなかったほど、琴美は芯の強い女性であったのかもしれません。ただ、物語中にそんな琴美の弱さが露呈する場面がほとんどないので、読者はこの場面で意外性を感じるはずです。

また、「ペット殺し」と並ぶもう1つの惨事は、元彼である「河崎」が不治の病に侵されてしまうことです。元彼であり、また超遊び人であった河崎に対して琴美はいつも嫌気を感じていたのですが、さすがにその病で怯んでいる河崎を目の前にすると、いつもの強気な姿勢も見えなくなります。

「どうして」と河崎は言った。その声がとても無防備で、しかも、語尾のあたりがかすかに震えている様子もあったので、わたしは悲しくなる。ー琴美

「悲しくなる」なんで感情、今まで琴美は河崎に対して感じたことないのに...ウウ...となります。いつも元気でチャラい河崎が元気そうでない、という描写そのものも、人間の弱さが現れていますね。

琴美のキャラクターはこのようにとても人間クサくて、読んでいて共感する場面がいくつかでできます。このようなキャラクターの設定も、本作のヒューマンドラマをよりリアルに、鮮明にさせる、伊坂さんのテクニックなのかもしれません。

最後に

「楽しく生きるには2つのことだけを守ればいいんだから。車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと」

とは、登場人物であるブータン人ドルジの発言です。世界一幸福な国と言われている仏教の国・ブータンですが、彼のそんな性格と日本文化に馴染めない箇所がいくつも出てきます。「楽しく生きる」とは真反対の結末をたどった琴美、ドルジ、河崎の3人ですが、そもそも「生きる」コツとは何なのか。人間、窮地に陥った場合にでも、「生きる」方法はあるのか。ドラマ『半沢直樹』の花さんの言葉「生きてればなんとかなる」を少し思い出しました。生きるってなんだ・・・(変な締めくくりですみません)。

秋になるとあったかい布団でぬくぬくしながら本を読む時間がとても好きです。本格的に仕事が始まるまで、たくさん本を読んで感想文を書けたらなぁ、と思います。

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