掌編小説 私を描く

 あたかも長い付き合いでもあるかのような態度で「こうだよね」と決めつけられると、心に深い霧がかかる。私の悪い癖だ。良くも悪くも、繊細で脆い。
 自分のことは、自分がよく知っている。そう信じていた。

 デッサンを習ったことがある。デッサンというと見たものをそのまま描くだけだと思いがちだが、そうではない。そこには、個々の感性が色濃く反映される。大胆に力強く描く人、細い線で緻密に描く人など、さまざまである。
 馴れ合いが嫌いな私は、雑談しながら描いている人たちを冷めた目で見つつ、大きな部屋の隅に陣取り、静かに鉛筆を手に取った。
 これは自分との時間。他の誰かなんて、いらない。
 私が一心不乱に描き上げたそれは想像以上に繊細で、他人のデッサンと比べるとそれがより際立った。自分はそのような感性の持ち主なのだと、改めて思い知らされる。
 自分の描いたデッサンを見たとき、ぎょっとした。思いがけず私の本性を晒してしまったかのような戸惑いを覚え、誰にも見せてはいけない気がして目を伏せる。

 弱い私は、弱さを隠す。そこまで分かっているのに、隠すことしかできないでいる。