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フリーランスの猫を探して

ルルちゃんがうちにやって来たのは今から9年前、東北の大震災の少し前のことだった。猫と暮らしたいね、って夫婦でずっと言っていたけれどペットショップで買うのではなく、困っているフリーランスの猫を助けたいよね、という思いがあって。あまりにも猫を探していて、ビニール袋を野良猫と見間違えて急ブレーキをかけたことも。ときどきよその猫を預かったりはしていたけれど、正式な保護猫の引取となると収入の条件があるとか地上階に住んでると(猫が逃げ出すかもしれないので)断られるとか、いろいろ敷居が高そうで尻込みしたまま十年くらい経ってしまっていた。

そんなある日、ぼくたちが猫を探していることを知っている友人から、里親募集のメールが転送されてきたのでさっそく会いに行った。
陽射しが入らないとても寒い部屋でいきさつを聞く。

あるフランス人カップルが長毛種の猫を飼っていたが別れてしまい、男の方が引き取った。男は、
「出張の間、二週間ほど猫を預かってくれないか」
と日本人留学生に猫を預ける。しかしその後飼い主の男と連絡が取れなくなってしまった。つまり、ルルちゃんは捨てられたのだった。
帰国が迫っており困った留学生は知り合いの元獣医さんに相談。その元獣医さんからの里親募集メールが複数の友人からうちにも転送されてきたというわけだ。

ところが童顔なので写真ではそう見えないのだけれど、実物のルルちゃんの大きさに里親候補者たちはビックリして、断られまくったらしい。
ぼくたち夫婦は知り合いのホームレスのロラン爺さんの賢い愛猫マムーの影響で大型の長毛種に憧れていたので、大きければ大きいほどいい。妻はひと目でルルちゃんに魅了された。
「素晴らしいコ…」

こうして当時既に5歳だったルルちゃんを引き取ることを即決し、早速うちに連れて帰ってきたのだけど、ルルちゃんにしてみれば、突然見知らぬニンゲンどもに拉致されてきたようなものだ。借りてきた猫のようにおどおどして、困った顔になっていた。

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「ここはどこですか? あなたたちはだれ?」とでも言いたそう。

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人見知りなのか遠慮なのか、なかなか心を開いてくれなくてどうしたものかと思ったけれど、数日後にはこんな感じに。

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ヘソ天でリラックス。どうやらここは安全と認定して馴染んでくれたご様子。

彼にはいたずら小僧を意味する本名がついていたけれど、「んるる」と鳴くからという安易な理由で妻が「ルルちゃん」に改名した。男の子なんだけど…。いや、おじさんか?
そしてそんな本名とは裏腹に、全くイタズラをしない。もうオトナ猫だからっていうのもあるけれどおとなしい。ただ気難しいところもあって、爪を切らせてくれないし、何故かブラッシングを嫌がる。大抵のネコは喜ぶのに。お風呂なんて入れようものなら、こちらが八つ裂きにされそうだ。仔猫のうちから慣らさないと難しいことは無理強いせずに諦める。

「大きいっていうのはね、かわいいっていう意味なのよ。みんな褒めてるのよ」
とルルちゃんに言い聞かせる妻。
ぼくに対しては、
「こんな素晴らしいコがうちに来てくれるなんて幸せね」
「こんなかわいいコいないよね? 世界一かわいいよね?」
と魔法の鏡にするみたいにいまだに毎日確認してくる。
そんなとき、
(もちろんかわいいけど世界一っていうのはどうかな)
なんていう野暮な客観性は微塵も要らない。
「そうだね」「うちのコだもん」とか「いや宇宙一だよ」くらい親バカでいいんじゃないかな。

自分の意志とは関係なく、突然誘拐され、名前も変えられ、撫でられ、褒めそやされ、たっぷり食事を供給され、写真を撮られまくり、猫なで声で甘やかされ、元の家には二度と帰れないルルちゃん。だから、ぼくたち夫婦にはルルちゃんを幸せにする義務と責任がある。
こうして王様ルルちゃんは我が家に君臨するようになったのだった。

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日本大好きなのにふと気付けば人生の三分の一パリ暮らしのデザイナーです。 デザイン・ウェブ制作会社 ABC Japon 代表取締役。 車イスだけどバンドでドラム叩いたりもしてます。人生無理。 https://www.kyo.com

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