私の初恋
私の初恋は売れないロックミュージシャンでした。
「私、あなたが好きなの」
「でも俺は売れない。君のことを幸せにはできないから。」
彼は優しいひとで、私のことをわざと振ってくれました。
私は彼を諦めることに必死でした。
「私、あなたを知ってるわ」
五年ぶりに彼にばったり会いました。
彼はエレキギターとスピーカーを持って、駅前にいたのです。
「君か?久しぶりだな。」
彼の優しい声、栗色の髪色、何も変わっていませんでした。
「うん、久しぶりだね。」
それに比べて私は変わっています。
真っ赤なドレスは、エプロンに変わり、
いつもコーチのバッグを持っていた手は今では二歳の娘を抱いています。
「娘さん、かわいいね」
「うん、ありがとう」
「俺、やれるとこまでやってみるって決めたから」
「うん。」
「俺も変わって見せる、君みたいに」
「いいじゃない。ビートルズ並みになりなさいよ」
彼はおかしそうにまたさみしそうに笑いました。
「わかった。君に会えてよかった」
私たちはまた逆方向に歩き始めました。
私の忘れられない初恋です。
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