見出し画像

【不登校同盟】#1



「トモミ、起きなさいよ。」
    朝、目が覚めるとお母さんは、洗濯カゴを持ったまんま部屋を出ていく。アラームよりもお母さんの声の方が気持ちよく起きれる。
    朝、スープを温めて食べ、そのあとラブラドールのポチのさんぽにいく。家に帰るとパジャマを洗濯して、ポチに餌をあげる。毎日のルーティンで、トモミは今日もヘトヘトになってしまった。
   「プルルルルルル」
   固定電話が鳴ると、ソファからおりてすぐに電話に出る。
「もしもし、」「おはよう!トモミちゃん」
「おはよう!今日もお手伝い終わった?」「終わったよ。今日はお庭にブルーベリーの種をまいたんだ。ブルーベリーが出来たら一緒に食べようよ。」「うんっ!」「今日はどこに行きたい??」「今日は、ヨウコちゃんの家のお庭でゆっくり外を眺めてたいな。いつものお手伝いなのに、なんか今日は疲れちゃって。」「じゃあ、アップルパイを作って待ってるね、ピクニックをしよう!」「うん!」
   お母さんがいつの間にかお化粧も全部バッチリになっていた。もう、時間だ。 
   「お母さん、いってらっしゃい。」
   「行ってきます。」
   お母さんを送ってもトモミは学校には行かない。小学二年生の時に、学校に行けなくなった。いじめられてた訳じゃないから、お母さんには怒られたけど、今はそこまで怒られない。昔は家で、鳥の図鑑をよんだり、外の写真を撮ったりしたけど、今はもっと遠い所に行くのが好き。それにいつも着いて来てくれるのがヨウコちゃんだった。この前は、少し遠いところにある、荒れた公園に秘密基地を作ったり、本屋さんで漫画を買って読んでみたり、いろんなことをした。ヨウコちゃんもまた学校には行ってなかった。
    1度自分の部屋に戻ってまた少し寝る。不登校なのにやることが沢山で朝はとても忙しい。30分ほど寝たあと、下手だけど自分でお弁当とパンケーキを作って焼いて、ヨウコちゃんの家に持っていく。
   「待ってたよ!」「うん!今日はパンケーキを持ってきたよ!」「まぁ、美味しそう!これ、自分で作ったの?ねぇ今度作り方を教えてよ!私たち、不登校同盟だもの!」「アップルパイよりも簡単だと思うよ!でも、今度教えるね!クマの形のパンケーキを作ろうよ!」
   ヨウコちゃんと会話をしている時がいちばん楽しい。ヨウコちゃんもそう思っているのかな。ヨウコちゃんといると、話の話題がどんどん増えてヨウコちゃんとのおしゃべりは永遠に終わらないと思う。お庭の見える縁側みたいなところに、ヨウコちゃんと座ると蝶々が飛んだり、お花が揺れたりしているのが見えた。
 二人でお昼を食べ終わると、ヨウコちゃんが言った。
 「ねぇ、トモミちゃん。今日は少し特別なところにいかない?」「いいよ、楽しみ」
 そういうと、ヨウコちゃんは嬉しそうな顔をして走り出した。着いた場所は公民館みたいなところだった。お母さんと一度だけこの前を通ったことがあったけど、詳しくはよくわからない。
 「お母さんにねぇ、土曜日にここに連れてきてもらったの。この中の図書館には、たくさんの本があって学校の教科書もあるし、ドリルもあるし、教室にあるみたいな勉強机があるのぉ!」
 中に入ると本当に勉強机があった。懐かしいな、とトモミは思う。小学四年生用と書かれた教科書はとても分厚くて読めない漢字が沢山あった。それを何冊かとって席につく。ヨウコちゃんの隣に座ると、ヨウコちゃんはもう勉強を始めていた。
 「よし、トモミちゃん、そろそろ帰ろう。あと少しで四時半だよ。」「うん、そうだね」
 勉強ってすごく楽しい。もっと勉強してみたい、とトモミは思った。掛け算も割り算ももっとやりたいし、漢字をもっときれいに書いてみたい。
 「今日すっごく楽しかった!ヨウコちゃん、こんなところを紹介してくれてありがとう!!すごく嬉しい、本当に」「私も!トモミちゃんと勉強できてすごく楽しいよ!これからはずっとここで勉強しよう!チュウガクとかコウコウとか行かなくたって大丈夫だよ、私たちは大人になるまでここで頭良くなろう!」
 いつもなら、すぐ返事をしているのに、何にも返せなくなってしまった。大丈夫、と私をみるヨウコちゃんがいるのに、この気持ちは。この気持ちは何なんだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?