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阪神高速3号、神戸線にて


夏の夜風を追い越すように走る。

「車の中って、コウくんとたくさん話せるから好きなんよ。」

姫島インターを過ぎた瞬間、助手席に座る菜々子を思い出した。

からあげを食べながらクシャッと笑った菜々子も、カフェオレがこぼれて化石みたいに固まった菜々子も、フロントガラスに大きく映りそうなくらい、鮮明に思い出した。

敷き詰めるように建設された都会のビルは、高速道路から見るとなぜか開放的に見える。あの中を歩き回っているときは息苦しさで心が病むのに、どうしてここから見ると、背筋を伸ばして眺めたくなるのだろう。

左手で眉間をつまんで目を覚まし、俺は7ヶ月も避けていた阪神高速3号神戸線を駆け抜けていく。


***

前方のトラックが60キロほどしか出ていないのか、車間が縮まる。右に車線変更するためウィンカーを出そうとしたとき、スマホが鳴った。啓介からの電話だとナビに映る。

「もしもし」

Bluetoothで繋いでいた音楽が切れ、ハンズフリーで電話に出る。左車線に戻る。

『うっす、いまどこ?』
「まだ尼崎」
『あー、あと30分くらい?』
「かも。」
『え、てか今日車?高速乗ってる?』

先日、神戸に住んでいる啓介に、引越し作業を手伝ってくれないかとお願いされ、予定がなかった俺は承諾した。ついでに、せっかくなら啓介の家で前飲みがしたいと提案したが、残業のせいで最終電車に乗れなかった。

俺は久しぶりに車を出し、高速道路で向かうことにした。金曜日の深夜11時。車は数台しか走っておらず、視界が広い。

「せやで」
『珍しいな〜光樹が車とか』
「7ヶ月ぶりに高速乗った」
『いや避けすぎやろ』

赤い軽自動車が1台、目の前で合流する。西宮インターを過ぎ、静かに息を吐いた。

「だって菜々子とよく、阪神高速走ってたから」
『めっちゃ菜々子ちゃんのこと引きずるやん』
「神戸もよく行ってたし、お前んち行くの躊躇ったで」
『はあ?!俺にまで影響するんやめてくれへん?』

啓介の笑い声にホッとする。俺は分かりやすく菜々子の好きな音楽に影響されため、啓介から電話がかかってくる前の車内はあのときの音楽をかけていた。


***

2年前、啓介が大阪に帰省したとき、知り合いが開いている小さな居酒屋へ飲みに行った。そこのアルバイトとして働いていたのが菜々子だった。俺の家から居酒屋までの距離が近く、何度も飲みに行くうちに仲良くなった。

そのときはせいぜい、1、2個下の年齢だと思っていたが、鳥取から引越し、春から大阪の専門学校に通っている19歳だと知った。俺と5つも離れているとは思えないほどの艶やかな立ち振る舞いと、時に見せる方言のギャップにすぐに惚れた。

休日に、菜々子を須磨水族館に誘い初めて阪神高速に乗った。

しかし、早めに大阪を出発したにもかかわらず、西宮から芦屋にかけて事故渋滞していた。渋滞中どんなことを話そうか悩んでいたとき、菜々子が急にBluetoothを繋いで音楽を流してくれた。

「光樹くんこの曲知ってる?」
「いや、分からんなあ。」
「いつもどんな曲聴いてる?」
「えっと、俺ミーハーやから、いつも流行りの曲を適当に流してるだけやねん。」
「じゃあこれ、聴いて!」

黒髪マッシュルームカットのギータボーカル、少し襟足の伸びた暗い茶髪のベースコーラス、インナーに金髪の入ったドラマー。特徴があるのはせいぜい髪型くらいで、身長と顔の形は、1日眺めても覚えるのが難しいくらい似たような雰囲気の3人組バンドだった。

「なんとなくYouTubeのオススメに出てきて流れてきた曲だったんだけど、気づいたらもう何回も聴いてて、とりあえずインスタフォローして、いろいろ見てたらね、すごくハスキーな声と大人びた顔立ちなのに私と同い年だったの!すっごい親近感湧かない?」

俺より年下とは思えないハスキーな声が、車内に響く。

「あとね、この曲の歌詞がすごく好きで、最初はゆっくり、やさしく歌っていくんだけど、『こんな夜のそば あなたがいたなら そんなことをまた 思ってしまって』って歌う部分で、一気にリズムが速くなるの。」

息つぐ間もなくしゃべり続ける菜々子の声に、俺まで喉が乾いてくる。熱のこもった喋り方に変わったせいか、菜々子の頬はピンク色に染まっていた。

「この切ない感情、どこに飛んで行っちゃうの!?っていう疾走感がたまらなくて、大好きになっちゃって、もう何回も聴いてて!…あっ!」

菜々子が慌てて前を見る。前の車との車間が広がっていた。俺も慌ててアクセルを踏む。

気づけば話を聞くことに夢中になり、渋滞も和らぐ地点まで進んでいた。

「菜々子ちゃんは切ない曲が好きなん?」
「明るい曲よりは好きかも!」
「なんで?」
「胸がきゅうっとなる感じが、なんていうんだろう。なんとなく好き!上手く言葉にできないなあ。」

頭の中でぐるぐる言葉を探す菜々子の瞳を追いかける。頑張って言葉を伝えようとする姿勢が俺の手先まで熱くさせ、ハンドルがじんわりとあたたまった。

「あ、ごめん。ちょっと喋りすぎちゃったね。」
「いいよいいよ、楽しそうで。」
「この曲、夜の車の中で聴きたいなあ。帰りに流してもいい?」
「もちろん」

切ないメロディと哀愁の匂いを放ち、でもどこか寄り添ってくれるような優しい歌詞が並ぶ。菜々子の言うとおり、真昼より夜の景色の中で聴いていたい曲だと思った。

「車の中で好きな音楽聴くのっていいよねえ!」

小さく笑った目尻に、俺はいつのまにか吸い込まれそうなくらい見惚れていた。


***

魚崎インターを過ぎる。勢いよくバイクが追越車線を通る。顔にシワを寄せ、片手でガムを2個取り出す。大袈裟に放りこんだガムは、安っぽい甘い味が広がった。

『うわ。さっきめっちゃデカい音聞こえたで』
「イカついバイクがさっき通ってん。あれ絶対120キロ超えてる。」
『こっわ〜。光樹は警察に捕まったことないん?』
「警察関連のトラブルはないで」
『意外やな』
「いやどういう意味やねん」
『なんかやらかしてくれたらおもろいのに』
「でも1回だけやらかしたことあるで」

付き合ってからも、よく菜々子を助手席に乗せてドライブした。大阪の郊外、神戸、京都、福井、そして、菜々子の地元である鳥取。菜々子がここに行きたいとリクエストが上がるたびに、2人で車で行った。

電車移動で足りていた生活。だけれど、2人だけで自由に移動する楽しさと、2人だけの空間を過ごせる時間に夢中になり、気づけば車で移動する回数が増えていった。

『え、何?』
「京橋パーキングってあるやん?」
『あー、あそこな』
「デート中にあそこで1回、財布忘れてん。」
『マジ?高速降りて戻らなあかんやつやん』
「そうそう。むっちゃ焦ってんけど、菜々子は全然怒らんくて、むしろからあげ買ってくれてなぐさめてくれた」
『いや惚気かい!期待した俺が馬鹿やったわ!』


***

菜々子と付き合って4ヶ月経った頃だった。長い冬が終わり、窓からは街に溶け込んだ桜並木が見えていた。新しい春の服と、できれば夏に履く厚底サンダルが欲しいと言った菜々子のリクエストで、アウトレットモールに向かっていた。

「サンダルって買うの早ない?」
「早めに買わないと可愛いのなくなっちゃうじゃん」

足をパタパタさせながら無邪気に話す。スマホカバーに付いた鏡を何度も見ながら前髪を整える。車の中は盛れるし、映えるんだよ、と自慢げな顔で写真加工アプリのフィルターを探す。

菜々子の細かい仕草や吐息だけで、俺はいちいち体温が上がった。この日からヒートテックを脱いでよかったのかもしれない。途中でパーキングに寄り、顔を洗った。

パーキングを出発し、本線に戻る。菜々子はまた足をパタパタさせるが、なぜか俺の足先は凍ったように動かない。ズボンのポケットに違和感があった。知らないふりをして菜々子のおしゃべりを聞き、力を込めて両手でハンドルを握る。しかし、徐々に冷えがのぼっていく。

「...コウくん?」

俺の曇った表情に気付き、顔を覗きこんだ。背中まで冷えがのぼる。運転しながら右手で確認してみると、財布がなかった。

「うわ、まじかよ」
「どうしたん?」
「…さっきのパーキングで財布忘れたかも」
「うっそ!」
「ごめん、1回高速降りなあかんわ」

焦りを隠すようにスンと前を向き、怠けた姿勢を正す。いつもの悪い癖だった。ダサい失敗の後はいつもプライドだけが前に立ち、必死に隠そうとしてしまう。

「あ。じゃあ1回降りてコンビニ寄ろ?」
「え?なんで?さっきトイレ行ったんちゃうん」

菜々子は、俺に向かって陽気に話す。

「違うよ。からあげが買いたい。」

目を合わせた。思いのほかふわふわとした顔をしていて、ブレーカーが落ちたかのように一瞬で力が抜けた。時速が70キロまで落ちて、後ろから3台も追い抜かされた。しかめた顔でアクセルを踏む。

高速を降りる。駐車場の広いコンビニを見つけて、菜々子はからあげと水を買ってきてくれた。

「それにしても、からあげなんか食べてたら買い物する時間ないんちゃうん?もう出発する?」
「大丈夫、まだゆっくりしよ?」

菜々子が大きく口を開け、からあげを頬張る。俺にもひと口差し出す。財布の中身は大丈夫か、アウトレットをまわる時間は大丈夫か、俺はそんな目の前のことで頭がいっぱいになっていた。

けれど菜々子は冷静になって俺を落ち着かせ、車内をなごませてくれた。短気で、すぐにスピードを出してしまう俺に、優しくブレーキを踏んでくれた。菜々子がいなければ、俺はどこで事故を起こしていただろう。

「マイペースやなあ」
「違うよ。」

整った前髪からのぞく綺麗な弧を描いた眉毛、前日に明るくしたと言っていたミルクベージュの髪色、菜々子のすべてが艶やかで、美しく映えていた。

「車の中って、コウくんとたくさん話せるから好きなんよ。だけんもうちょっとゆっくり食べたい。」

あまずっぱい香りが弾けそうなくらい、菜々子はクシャっと笑った。

からあげを食べ終わったあとに水を飲み、スマホを取り出そうとしたその手を押さえてキスをした。窓から入る春の風が、ふたりの呼吸をやさしく撫でた。


***

神戸タワーが見えた。急に小雨が降りはじめた。

菜々子が20歳になり、バイトのシフトを減らしつつ本格的に就職活動を始め、連絡が2日に1回の頻度まで減った。それに比例するようにデートの回数も減った。

やっと趣味になりつつあったドライブが、1人の空間に耐えきれず、車に乗ることすら避けるようになった。

「いや、でも俺だけちゃうで。菜々子にも1回やられたで。」
『何が?』

肩を回し、ハンドルに肘を乗せる。ガムを紙に包んで捨て、仕事の昼休みに買った麦茶の残りをちびちび飲む。急いで車に乗ってたせいで、コンビニに寄らなかったことを後悔した。

「車の中にカフェオレこぼされたことある。」
『お前の運転が荒かったんちゃうん?』
「思いっきり止まってたわ!」
『ハッハッ!おっちょこちょいで可愛いやん』

助手席にこぼれたカフェオレの跡をちらっと見る。初めて俺の車に乗る人だと、絶対に気付かないくらい薄くなっている。視線を背けていた助手席を改めて見ると、どうしても虚しさだけが広がっていく。

「今もカフェオレの跡残ってて切ないけどな」
『そんなしょーもないことに怒ったん?』
「当時はまだ俺が子どもやってん」

あのときに飲んだカフェオレの味が、胃の奥から湧いてきた。左足の靴を脱いで、むくんだ足を強めにほぐす。淡々と降る雨を霞ませ、暗い空を静かに見上げた。


***

菜々子の地元である鳥取から帰る途中、小さなパーキングに寄った。この日は初めて、1ヶ月前に買ったばかりの新車でのドライブだった。

パーキングで俺はエナジードリンク、菜々子はカフェオレを買った。飲みながら駐車場を見つめる。トラックが3台。軽自動車が1台。そして、長く伸びたふたつの影。曇りがかった薄い空から、やわらかい夕日の光が差す。

「鳥取の海きれいだったでしょ?」
「うん。あんなきれいな海、俺も初めて見たかも」

鳥取市内を観光したあと、東浜海水浴場までドライブした。俺は今まで、海の透きとおった色や、エメラルドグリーンに輝く色が、本当にこの世に存在するのかイマイチ想像できなかった。誰かが適当に加工した偽物の色なんだと偏見を持っていた。

だけど東浜の海は、俺の常識を大きく覆した。

こんがり焼けた腕の隙間にやさしい海風がとおる。数分間じっと見つめ、地平線まで景色を吸い込んだ。

海の底が見えるほど透明で、濁った青さじゃないこのエメラルドグリーンという色は、本当に存在するんだと、一つひとつなぞるように確認した。灼熱の太陽を浴びているのに、この海を見るだけで心が涼しくなっていった。

不思議なことに、海の色が美しいと、波の音や、熱い砂浜にまで興奮してしまう。そして、あのときに買った厚底のサンダルを履き、じっと海を見つめる菜々子の横顔にまで、しっかりと心を奪われたのだ。

「菜々子、そのカフェオレちょっとちょうだい」
「いいよ〜はい!」

菜々子は炭酸とブラックコーヒーが苦手だ。眠気を覚ましたいときにはいつもカフェオレを飲んでいる。俺がカフェオレをひとくち貰い、菜々子に返す。ふたりで車に戻り、座席で続きを飲んだ。

明るい空を静かに見上げた。ガラス越しに、今日見た景色がくっきり蘇る。美しい色に染まっていく。東浜の海をもう一度見たい。できれば、あの美しい色を教えてくれた、菜々子ともう一度行きたい。

「東浜、よく小さい頃行ってたんだあ。」
「ええなあ。めっちゃええやん。」
「好きな人と行くのが夢だったけん。叶って嬉しかった!」

菜々子は微笑みながら、カフェオレを飲んだその時だった。

「わあっっあ!」

突然低い声が耳に響いた。冷たい風が頬を刺し、少し嫌な予感がした。俺は、エナジードリンクを押し込むように飲み干した。

「どうしたん?」

沈黙が走る。

「ごめん。カフェオレが座席にこぼれちゃった」

目を見開いた。「大丈夫?」という声より先に、新車の心配が頭の中で埋め尽くされた。息が詰まる。菜々子が焦って何かを言いかけ、化石のように固まった。チグハグな車内の空気に酔いそうになる。1秒ずつ、1秒ずつ、シミが広がる。

「コウくんごめん、あの」
「これいつ買ったやつか分かる?」

違う。頭の中では分かっていた。俺の発する言葉が間違っていること。菜々子は普段から助手席でも丁寧に食事をすること。だからこれは偶然の出来事だということ。心がむしゃくしゃしたこの感情は、木材のささくれが指に刺さり、なかなか取れないあのイライラそのものだった。

「ごめん。うん。1ヶ月前。」

菜々子の弱い声が落ち、朽ちるように背中が丸くなる。

「ほんとごめんコウくん」
「うん。別にええよ。」

菜々子は外に出た。走ってお手洗いに向かって行った。夕日が沈み、1番星が、フロントガラスの中心に輝く。今日見た東浜の海がさらさらと砂つぶのように消える。そして大きな波にのみこまれていく。

菜々子がいないあいだ必死に考えた。なぜ俺は、車内で何もできないのだろう。沈黙が続いたら、好きな音楽をかけること。何か失敗しても場を和ませるような空気を作ること。

俺はなぜ素直に行動できないのだろう。運転のスキルなんかより、よっぽど大事なことに目を背けるばかりだった。

「ごめん、ハンカチ濡らしてきた」

菜々子が戻り、ハンカチで力強く座席を拭いた。車内の空気は重いままだった。


***

外の雨が激しく車を打ちつけ、ガラスには濁るように水滴が広がる。ワイパーの速度を上げた。

「雨強なってるわ」
『あー、ほんまやなぁ。さっきまで弱かったのに』

正面の景色は、ビル街から住宅街に変わった。深夜12時に近づく。高速道路沿いのマンションの光は雨でぼやけている。

『そもそもなんで光樹フラれたん?』
「その話題はお前んち着いてからのお楽しみでええやろ」
『なんでやねん。今言えよ〜!』

見下すように笑う啓介の声に、呆れた声でしょうがねえなあと呟く。

「まあ、その、あれや。他に好きな男できたんやって。」
『うわおもんな。お前が浮気したんかと思ってたのに逆かよ。』
「俺意外と一途やで?」

意外と一途やで、という言葉がこだまする。全く価値も説得力もないと気が付いたのは、放った数秒後だった。

菜々子にフラれたときも、帰り際に強い雨が降っていた。気まずいからと帰りは電車で帰ると言った菜々子に、コンビニで傘を買って渡したのが最後の会話だった。

あのときは、しばらく外を走る車の音も聞きたくないほど部屋にこもっていたし、何を食べても飲んでも、長時間車内に放置したぬるいジュースみたいなマズさを感じた。

なかなか過ぎない時間に腹が立ち、車の速度は自由に操作できるのに、なぜ人生の速度は操作できないのか、なんてつまらないことを考えていた。

『ハッハッハ!ほんまかいな!』
「いや…けっこう、俺が悪いとこあった。」
『ちゃんと反省してんねんな』

助手席のむなしい余白を吸い込むたびに、たしかに俺は、菜々子と乗る阪神高速が好きだったと実感した。どれだけ道路沿いの景観が変わろうが、車を避けて電車生活に戻ろうが、この車内に残した思い出は塗り替えられていなかった。

けれど、思い出のまわりにあった車の走る音や、窓から入る風、そしてアクセルを踏んでまっすぐ進むこの爽快感が、俺のなかでは愛おしい存在になっていた。たった1人の狭い空間にいる安心感が、家とは違った居心地の良さを感じていた。

「まあ、彼女はしばらくいいけど、やっぱ阪神高速乗るんはイイかも」

あと2キロメートル先の、湊川インターで降りてください、とナビの案内が映る。自分の悪かった部分を、こうやって直してください。と案内してくれる人生のナビがあれば、少しは自分の悪いところも見えたのだろうか、なんてまたつまらないことを考えた。

アクセルをゆっくり離し、速度を落としていく。

『そろそろ俺も助手席乗せてな』
「啓介、その前に免許取れよ!」

軽快に笑い合い、あと10分で着くと伝えて電話を切った。若宮インターのETCゲートを通過した。1320円。止めていた音楽をかけ直す。俺より年下とは思えないハスキーな声が、車内に響く。


『こんな夜のそば あなたがいたなら、そんなことを また思ってしまって』


雨が弱まってきた。溜まっていた切ない感情が飛んでいくかのように、リズムが速くなる。

サビに入る前に、曲を消した。目頭が刺すような痛みを感じる。できれば夜の雨に溶けてほしいと思った。神戸の街に置いていけないかと思った。

それでも時折、夢の中でこの曲を流しながら阪神高速を走り、助手席に座る菜々子の姿を思い出してしまう。







***

#冒頭3行選手権 の完全版です!やっと書けました。

最初は2000字ドラマに応募する予定で3人登場させ、2000字以内に納める予定でした。はい。無理でしたね。7500字です。最後まで読んでいただきありがとうございます!(笑)

そして、地元が都会・関西弁・20代男性という自分と真反対な目線の物語はとても過酷で難しかったです。最後の最後まで悩んで冒頭変えました。

なので創作に1ヶ月もかかっちゃいました。ぴえんぱおんぺろん。もう途中でめちゃくちゃ挫けました。でも、この物語はどうしても8月中に出したかった。すごい!出せた!やればできるじゃ〜〜ん!褒め褒めタイム。


なぜ阪神高速?って疑問に思う方、多いと思うんです。なぜかというと私が好きだからです。笑

正式に言えば、私がめちゃくちゃ高速道路を走ることが大好きなんです。これ話したら長くなりそうなので、なぜ高速道路が好きかっていうnoteをまたいつか書こうと思います。


ほんでですね。

マジで挫けたので、どうしたもんかと悩んだんです。でも野やぎさんがですね、素敵な帯を書いて下さったんです。これをいつも読み返していて、読み返すたびに絶対に完成させたい!って言い聞かせてました。

もうたとえ駄作だとしても、野やぎさんだけにでも読まれたらOKかな!!って思っちゃったくらい、自信になった帯でした。

野やぎさん、選手権を開催していただきありがとうございました!すごく新鮮な気持ちで創作できて楽しかったです!!


てことで最後にテーマソング置いておきます。車の中で好きな音楽聴くのっていいよねえ!!





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