18歳の夏が手に入れた「乾杯」
22歳の、夏の片手はビールになった。
もしもあの18歳の夏フェスで、とびっきりの笑顔でビールを飲んでいた大人を見ていなかったら、私の片手には何があったのだろうか。
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18歳の、夏の片手はかき氷だった。
夏フェス会場にいる大人たちは皆、片手にアルコールがあった。とくに、シュワッシュワのビールを持っている大人は、なんだかカッコ良く見えていた。
フラットな白い泡と、少し眩しいくらいの黄金色とのコントラストが、昼下がりの気温にとても似合うと知った。
ビールに背を向けて、イチゴ色に濃く染まった氷をむしゃむしゃ食べる私。パステルカラーに溶ける夏は、心の奥底でひんやりと寂しそうにしていた。
「ビール、飲んでみたいなあ。」
この片手に、早くビールがほしい。
ライブハウスや、夏の野外フェスで、ビールを飲んでみたい。
そして誰かと、「乾杯」してみたい!
適度なアルコールは、心を豊かにするのかな。18歳の夏に刻んだ小さな知識が、大きな憧れでいっぱいになった。
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18歳。高校を卒業した、社会人1年目。握りしめた給料のほとんどを夏フェスに使っていた。好きなバンドが出ていたらとことんチケットを取り、気がつけば週一で夏フェスなんてことはざらだった。
18歳の夏に、「3年後、夏フェスに全く行けなくなるよ」と伝えたら信じるかな。「配信ライブが本格化しているよ」と伝えたら絶望するかな。
それだけあの頃の私は、目の前にあった夏フェスを、かき氷とともに思いっきり楽しんでいた。
世界が大きく変わり、これからは配信ライブの時代が本格化するのかもしれない。無観客で配信、VRを導入して、Bluetooth機能が付いたサイリウムを振ったり。なんて。
そこまでとは行かなくても、テレビと繋いだYouTubeをつけて、安いお酒と、ラクな服装、ふかふかのソファと涼しい部屋で参戦ができる。交通費も宿泊費もかからない。
生のライブより圧倒的にコスパが良い。ライブだけを楽しみたい人なら配信ライブでかなり満足するはずだ。
けれど。
夏フェスは、ライブだけを楽しむものではないのだ。
何千人、何万人の体温がひとつとなり、生の会場にはたくさんの「ステキな乾杯」が溢れている。
真夏の太陽や、遠くまで届く爆音が、じりじりと耳を熱くさせる。そこから体温をハイテンションに仕上がっていく過程が、いつもより誰かと「乾杯」をしたくなる。
慣れない土地までの長時間の移動や、いつもより多くかかるお金すら、すべてひっくるめて感動的な体験に変わっていくのだ。
そう。あの18歳の夏に、ビールを飲んでみたいと思った理由は、ビール自体が美味しそうだと思ったからではない。
会場に居た大人たちが、とびっきりの笑顔でビールを飲んでいたからだ。
ビールを片手にアーティストを眺める視線。誰かと楽しそうに声を張って笑う表情。
ついカップからこぼれてしまったビールも、汗とカップの水滴でネトネトした手のひらすら、まあいっか!音楽とアルコールがあればオールオッケーだし!と、前向きになれる時間。
それらが映った18歳の瞳には、「ビールの美味しさ」と「大人ってこんなに楽しいんだよ」と投げかけられたように、キラキラと反射していた。
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あれから4年。毎年あった当たり前の乾杯が、当たり前じゃなくなった2020年。
何か特別なことが起きたわけではない。誰かにビールを勧められたわけでもない。
けれどあの夏のおかげで、私はビールが好きになった。誰かと夏フェスに行って、一目散にアルコールコーナーに駆け込み、ビールを買って乾杯することが、とても好きになった。
これが夏フェスマジックなのだと思った。
生の会場と、生の音楽、そして生のアーティストと観客とスタッフがいるからこそ、成り立つものなのだ。
22歳の、夏の片手はビールになった。
また早く、あの夏フェス会場で、ビールを片手に音楽を楽しみたい。そのときは、18歳の夏に見た大人たちのような、ステキな笑顔で乾杯がしたい。
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