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【KY39】上場ゴールについて考えてみる

最近は、X(旧ツイッター)で上場ゴールについて、幾人かの創業社長を批判している投資インフルエンサーさんがいますね。

IPO市場も活況みたいなので、私も小さいとはいスタートアップ企業を経営しているので、その投資インフルエンサーさんとは違った視点で深掘りしてみようと思います。


上場ゴールが多くなる理由

イグジット(EXIT)がゴール

イグジットとは簡単にいうと、創業者やエンジェル投資家、VCなど出資した人たちが株式を売却して、利益を得ることです。
そしてイグジットで、もっとも利益を受ける人が創業者です。

当たり前ですが、創業者は事業で成功してお金を稼ぎたいです。

夢を実現したいとか、社会を変えたいとか、他人に認められたいとか、いろんな気持ちがありますが、その中にお金儲けがしたいという気持ちも当然に含まれます。

となると、なぜ上場ゴールになるかについて、「上場直後がイグジットの利益がもっとも多いからだ」という点について、検証が必要になります。

イグジットの手段が少ない

イグジットにはIPO(株式公開)以外に、M&Aという手段があります。
創業者は上場を目指すのではなく、その途中で会社を売却することです。

IPOは手続きが煩雑でコストが掛かりますし、何より労力とリスクが伴います。
お金儲けをするなら、それよりも私的に企業を売却した方が合理的です。
いつ上場できるか分かりませんし、お金があればいろんなことができますし、創業者によっては貧乏生活を抜け出せるかもしれないからです。

ただし、これは相応の金額で売却できればの話です。

M&Aにメリットはあるの?

実はここが日本の課題でして、企業を高く売れないのです。

有名な話だと、米paypal(ペイパル)がpaidy(ペイディ)を当時のレートで3,000億円で買収したことが記憶に新しいです。
ネット検索で調べると、当時の売上高は200億円もなく、赤字だったみたいですね。

paidyの知的財産価値(特許権)を含め、paypalとのシナジーと成長性を加味したディールで、現時点で考えると先見性の明ありでしょうが、当時の日本人の感覚からしたら理解できないほど破格だと思います。

日本では、海とも山とも分からないベンチャー企業の買収金額としては、あり得ないですね。

ちなみにベンチャー界隈で聞く範囲だと、ベンチャー企業のM&Aの平均額は10億円未満です。

10億円で売れればいいじゃん!と思うかもしれませんが、違いますよ。
10億円を投資家全員で分配しますし、投資家の間でも優先権がありますし、買収金額が少なければ創業者には、ほとんど残りません。

となるとM&Aは旨みが少ないので、ダウンラウンド(企業評価が低下している)での資金調達が難しかったり、VCの回収期間が迫ったりなど、仕方なしでの売却が多いのではと思います。

もっともこれも恵まれた場合のようで、下手したら創業者は廃業で借金だけ残る、なんていうこともあります。

これは何かの統計で見たのですが、イグジットについて米国はM&Aが7~8割で、IPOの比率が低かったように思います。
日本はそれに対し、逆にIPOが7~8割らしく、ベンチャー企業のM&A市場は小さいことからも、まあ創業者にとって不利であることが分かります。

PE(プライベート・エクイティ)市場が小さい

ベンチャー企業の株式の流通性が低いのも、一因あります。

どういうことか?
ベンチャー企業はM&Aすると、創業者だけが利益を受け取り、他の社員はあまり利益を受け取れないという実態があります。

社員は必ずしもベンチャー企業とともに命運を共にするわけではなく、いい条件があれば途中に離脱します。
そのような人たちにインセンティブを与えるために、株式(もしくはストックオプション)を与えた方がいいです。

ところが、大抵はそのインセンティブは上場しないと意味を持ちません。
なぜなら上場前に離脱した場合に、他人に譲れないと1円にもならないからです。
そして日本の市場では、ベンチャー企業の株式に流通性はほぼないです。

したがって社員はベンチャー企業の株式を持つことが少なく、M&Aすると創業者が利益を丸取りすることになりやすいです。

つまりM&Aすると、創業者と社員との関係が悪くなりやすいです。

したがって、社内の雰囲気としても、IPOすることが目標になります。

イグジットのためのIPO

以上をまとめると、創業者はイグジットするために、IPOをすることがほぼ前提となるということです。

そして経営というのは、運不運もあり、浮き沈みもあるので、どうしてもIPOがモチベーションになります。
創業者はお金儲けしたいから、目先のIPOがゴールになるわけです。

上場時の株価を高くする

お化粧する

IPOのために、企業は自社をよく見せることで、投資家需要を集め公募価格を引き上げます。

何をよく見せるのか?
過去に起こったことは変えられないので、未来に起こることなら脚色しやすいです。

これは創業時にも同じで、実際に商いを始めると底が見えるのですが、何もない状態だと事業計画の期待値だけで説明できます。
何もないから、前向きに見せることができるわけです。

要は、成長性をお化粧します。
将来の市場規模とか、将来の事業展開とか、証明しようがないわけですから、どうとでも言えるわけです。

されに問題は、ベンチャー企業というのは、常に資金調達ラウンドで大きく見せる癖があるということです。
そして残念なことに、VCの担当者も結構それに騙されます。
なので騙された人たちも、IPO時にはババを引きたくたないから、騙す側に回るのです。

ベンチャーなので多少は話を盛るのは仕方ないですが、限度があります。

流通性を抑える

これはIPO時の吸収金額(資金調達額)を少なくし、株式の希少性を高めることです。
市場というのは需要と供給で成り立っていますから、発行する株式数・金額を抑えられれば、株価は上がりやすくなります。

また株価が高ければ、創業者はIPO時に自己の持分を同時に売却して(一部利確する)、より多く利益を得ることができます。

ただ、私はこのやり方には疑問があって、吸収金額が少なければ、その後の事業展開の拡大も望みにくいですし、将来的な増資による希薄化もあり得ます。
成長していれば増資すれば良いのですが、成長していない状況で増資されれば、株主には大損となります。

簡単に言うと、吸収金額が少ない場合は、成長性が見込めず業績的にピークで、株価もIPO時から越えられないということも起こりやすく、いわゆる上場ゴールになりやすいということです。

事業の成長速度

他の要因としては上場するまでに、息切れしているケースが多いというのもあります。

事業ってスピードとタイミングが大事だったりします。

ところで、私は色んなピッチイベント等に出席するので、他人のビジネスプランを聞くことが多いです。
ピッチの中身はピンキリですね。

その中にはキラリと光るものも、少ないとはいえ、あります。
ただ事業を軌道に乗せるには、プロダクトをローンチするまで時間を要するんですよね。
誰もやっていないことにチャレンジするわけですから、そんなもんです。

そして事業化初期の資金調達が、メチャクチャ大事です。
時間が経つにつれニーズが顕在化し、競合も増え、技術的にも進歩するので優位性が少なくなるからです。
したがって、早い段階で事業を確立することが大事だし、早ければ早いほど事業のポテンシャルも見極められます。
つまり初期投資が、もっとも投資効率が高いといえます。

ところが、この段階でスタートアップが十分に資金を確保できることは、少ないです。
異様にハードルが高く、VC等はPoC(Proof of Concept:概念実証)を要求したり、顧客がすでに付いていることを条件としたりすることが多いです。
何もないところから形にすることが大変なのですが、ものづくり(ITシステム含め)には時間と資金が掛かります。
無理難題で、この時点で創業者のやる気を削ぎますし、スケールのタイミングを逃します。

ちなみに私の知っている範囲だと、具体的な企業は言えませんが、このサービス・商品がコロナの時にあれば大ヒットしていたよなって、思われるものがそれなりにありました。
それらは、コロナ前に構想から3~5年経っていて、資金の獲得が遅れていたため、その時点で事業化できておらず、もったいないと思いました。

簡単に言うと、ベンチャー企業が事業化するまでの時間が掛かりすぎるため、IPO時には事業の新規性や目新しさがなくなっており、そこがピークでその後の成長が鈍化してしまうことが多いということです。

上場ゴールはダメなのか

M&Aによるイグジットの手段が少なく、IPOのようにハードルの高い手段を選ばないといけない現状を考えると、私は悪いこととは思いません。

仕方がないよねって感じです。

投資家自身が判断して、買えばいいだけです。


以上、今回はここまで。
次回はこの話を前提に、もし子供が起業するなら、親として何ができるのか、ちょっと考察してみようと思います。

どうぞよろしくお願いします。

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