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ボンボヤージュ

ボン・ヴォヤージュボン・ボヤージュボン・ボヤージは、旅立つ者に対して言うフランス語の「よい旅を!」という意味の挨拶。
WIKIより

昔からよく言われることがある。「こいつの頭を割いて中をみてみたい」それはおそらくは真面目な文章を書くと物凄く感動できることも多い。自分で書くから残念な奴には変わりはないのだが、

そのくせ、次の回ではとんでもないものを提供することがある、つまりそれは「ぎょっ」とするからだ。

だが話の本筋にそこに関係はない。私には昔から言霊にも似た力があるのだが、それは一言で言えば「微妙」だった。単独でも読めるとは思うが、まだならこちらのショートショートも読んでくれたら世界観は掴みやすい。

私は今、取り調べの中にいる
「わざとやったんだろう?」
「いえ、つい職業病というか」
「嘘をつけ、このテロリストが!」

高圧的な人間は嫌いだ。実れば実るほど頭を垂れる稲穂かな。そんな言葉が好きだ。実際のところ、稼ぎの良い人ほど謙遜する事実を思えば、その通りだと思う。

話はこうだった。
私には人のお通じを改善させる言葉をその人に投げかける力がある。するとその人は反応して何かを叫び用を足す。

事件現場は満員電車の中だった。満員電車だから座ることができない。大きめの駅では椅子取りゲームが始まるが、その男性は負けた。座りたかったのだろうなと思いながら、何故椅子取りゲームに参加したのかを見ていたら、妙にもぞもぞしている。どうやらもよおしているらしい。

はっきり言えば職業病だ。私は思わずその男性に聞こえるように、満員電車の中で叫んでしまったのだ。

「フランス仕立てのぉ~~~~~~」
「ボンボヤージュ!!」
そういうと、男性は満員電車の中でお腹の中にいたものを、良い旅路へと送り出してしまった。満員電車で悲鳴があがる。臭いもきつかった。そばにいた老齢の女性がのけぞった拍子に頭を強打し昏睡してしまった。

そして、今、私は取り調べを受けている

「おいっテロリスト」

そう。私はテロ活動を幇助した罪に問われている。何故、そんな真似をしたんだ?と言われても、職業病だとしかいいようがない。場所をわきまえなかったのは確かに悪い。言葉に力があることも災いしたのかもしれない。だけど、最後にボヤージュをしたのは私ではない。

私は裁判にかけられた。

うちのレストランやまびこに来る常連客の坂上さんは実は弁護士だった。彼に弁護を依頼した。自分には一つ信念にも似た考えがあって、弁護士を頼んだり、最期を迎えるときの医者だったり、ここぞという場面で信頼する人は、たとえその人の弁護で助からなくても、あるいはその先生が薦める治療で少し命が短くなっても構わない。そう思えるような人に背中を預けるということだ。

検察側は私を尋問する
「何故、あなたは老婦人まで巻き込んだのですか?」
巻き込んだわけではない、そんなつもりもない。そもそも私がみていたのはそのもよおした男性だけだ。
「意義あり!!」
坂上さんが異議を唱えてくれた。そのタイミングだけでも心強い。
「ばばあは勝手に倒れただけだろーがよ。なぁ裁判官」

口悪いな!おいっ!!

そうなんだけど口が悪い。
裁判官の心証を悪くするのはやめてくれ。それで不利益を被るのは私になるのだから
「弁護人は口を慎んでください」
本当に口を慎め~~~~~~~~!!
店に来てくれる時はとても紳士な方なのに、こんな一面もあるのだな。人は皆、一皮剥けばどこかでサイコなのかもしれない。

それからはなるべく自分で答えるようにした。
「その時、近くに倒れてしまいそうな人がいるか確認できなかったのですか?」
「申し訳ございません。私はもよおした方のお通じを改善させるような仕事をしており、本当に職業病としかいえません。苦しそうだったからつい。そこに私は全く悪意はありませんでした。ただ場所をわきまえなかったことは反省しております。」

これは私の心から出た本音ではある。我ながら軽率で恥ずかしい。

「そうですよね。わかります。私も困っている人がいたら助けたくなってしまいます。」

お奉行~~~~~!!
そう応えてくえたのは裁判官だった。裁判官が私の心情を理解してくれている?これは案外悪い方向にいかないのではないか?そういう少しよこしまな考えが浮かんだが、そもそもテロ認定される方がおかしくもある。

「もし、おばあさんがいると知っていたらあなたは犯行には及びませんでしたか?」

検察側の犯行と言われようは気には障るのだが、裁判官はこちらの心情を理解してくれいるようだ。声を張り。真摯に語れば大丈夫に違いない。

「同じことになりますが、私は困っていると思いとっさに助けようと思っただけです。その思いが強く、周りに全く配慮できていませんでした。今回のことでおばあさんが昏睡されている今を思えば後悔しかありません。ただもよおされた方も私も、おばあさんが元気に回復されることを願うだけです。そこに悪意を持った人間など1人もいないと思います。」

「わかりました。あなたの想いをは伝わりました。」
お奉行!!!

「ばばあなんて死んでもいいだろう」
だまれ坂上!!!!何しに来たんだお前は!

声質がよかったのか、言霊なのか、大したことは言っていないし同じことを繰り返して主張しだけだが、心なしか裁判官は目頭を熱くしていた。心の根のわかるこの裁判官から出された判決ならば、甘んじて受けようと思う。それは不利益であったとしても。心がわかる人の言葉には素直に従いたい。もしかしたらそんな私のピュアな部分が言霊に繋がるのかな?なんてね。そんなのは思い上がりかな。

「それでは判決を言い渡します。」

「はい」

「死刑!」

お奉行~~~~~~!!!!!
聞いてなかったのかよ~~~
惨憺たる結果だ。
サイコだな。わかったぞ!
さてはお前サイコだなっ!!

坂上が力なく近づいてくる。そりゃそうだろう。弁護士ではなくただ暴言を吐いただけのおじさんだ。即効上訴を提案してくれるのだろう。

「ボンボヤージュ!」

黄泉の国の旅路を楽しめってか!
ボンボヤージュじゃねー!!坂上~~~!!

後書き的な感じで喋っています。
お時間あればお聴き頂けたら幸いです。

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