屈斜路湖再訪2~ハクチョウに会う~
「ハクチョウねえ~見れると思うよ?」
「遠くから見るときれいだけどねえ~、近いとねえ。うるさいし」
タクシーの運転手さんは、のんびりとした口調でそのように話す。
思えばその時の私は、運転手さんが言っていた意味が分かっていなかったのだと思う。
屈斜路湖砂場に着く。懐かしい駐車場が雪で覆われているのを横目に首を伸ばすと、確かに鳥の頭が見えた。
「いる!」
かすかに興奮を感じながら車を降り、砂場の方へ歩いていくと、そこに待っていたのは凍った湖と、雪景色した山々と、ハクチョウ――
予想外に大量のハクチョウ。それがキュアキュアと絶え間なく鳴き続け、辺りは騒然としていた。
信じられないような絶景を背に、彼ら彼女らは騒々しく鳴き続ける。一体何をそれほど主張することがあるのだろうか?許可が取られずにバレエとなっていることをヒトに抗議しているのかもしれない。
「これ見て白鳥の湖考えた人天才じゃん…」
ぼそりと放たれた同行者の言葉が、不覚にもツボに入ってしまった。よくよく観察すると足は短く嘴も平たい。カモの仲間だとどこかで見た記憶があるが、カモによく似ている。同じ白い鳥でも、タンチョウのようなツルとは似ても似つかない。というかほとんどア〇ラックである。
しかし、これで私ががっかりしたなどとは思わないでほしい。むしろ親しみの湧く面白い様子が可愛らしく、愛着が湧いてしまった。実は家の近くにある川でカモを眺めるのも趣味にしているので、こういった鳥は大好物である。(無論、鳥についてあれこれ議論するのは人間の人間たる勝手さであり、生物はただ生きているだけだというのが前提だ)
「ギャップ萌え」
その言葉が今目の前に具現化されているのだ。
短い足を前後に運動させてヨテヨテと歩く。すらりとしたバレリーナの四肢では、ハクチョウの再現など出来そうにない。
この数日前、阿寒国際ツルセンターを訪れタンチョウを眺めたのだが、「白鳥の湖」ではなく「丹頂鶴の湿原」の方がバレエには合っているような気がする。タンチョウはなぜかダンスをすることでも知られているのだから…
それはともかく、ここからは私が見た可愛らしいハクチョウの様子を、絶景写真(自画自賛)と共にご覧いただきたい。実際あれだけ騒々しい場所で撮ったとは思えないような美しい写真が、フォルダ内では飽和している。
前に貼った写真を見ていただいた通り、屈斜路湖はそのほとんどが冬に凍結し、雪が積もって歩くことが出来る状態になる。
しかし砂場から湯が沸く通り、一部は凍らず温かい。この温かい部分にハクチョウは越冬しに来るのだ。
そのため湯気が出ている。そして、時は夕刻。
湖と立ち上る湯気が夕日に照らされ、黄金の光の中で、純白の美しい鳥が餌をつついている――
1羽のハクチョウが飛んできた
雪の上で少し滑ってしまいながら、ツルリと着地した(マガモも滑っていた)。
滑ったことなどなかったかのように、その後は何食わぬ顔で明後日の方向を見ている。勿論滑って恥ずかしい動物はヒト位である。
タンチョウとの比較ばかりだが、比べると鈍臭い感じがする。
もう少し様子を眺めよう。
ハクチョウを眺めて喜んでいると、運転手さんがポップコーンを持って現れた。どうやら餌やりが出来るらしい。
ハクチョウの鳴き声が一段と大きくなり、こちらへとドヤドヤやってきた。
様々なアレルギーを持つ同行者は、渡されたポップコーンの箱を持って「来ないでえ」と言いながらニヤニヤしている。
餌をやってしばらくしてから、コタン温泉の方へ向かった。そちらにもハクチョウがいると言う。
日はさらに傾き、湖は赤々と燃え始めた。
湯けむりの中でハクチョウたちは思い思いに過ごしている。
しばらくすると、ハクチョウたちは野湯の方へ突然集まっていった。
何ごとかと思って見ると、赤いバケツを持ったおじさんが餌やりに来たようだ。
その後しばらくハクチョウたちは押し合いへし合い、首を水に突っ込んでは餌を取っていた。
時刻は17時過ぎ。道東は既に暗くなり始めていた。
「もう少ししたら行こうか」
運転手さんに促され、私たちは屈斜路湖を後にした。
目が洗われるような絶景の中で、やかましく鳴くハクチョウ。
崩されたイメージが、むしろ楽しいと感じられた。手の届かない存在ではない。私たちと同じで、ただ生きているだけで、
美しいも醜いも、全て、私たちの心の中にしか無い
p.s.
湖に映る姿も意識して撮影すればよかったなあと反省。
またいつか見に行ける日を楽しみにしたいと思います。
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