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【エッセイ】46歳の社会復帰「書店員やってました」

 大学を卒業後、私は6年ほど会社員をしていましたが、結婚と同時に妊娠したことで専業主婦となりました。それから約18年…次女が中学生になったことを機に社会復帰を目指した話です。

長い間専業主婦だった一番の理由は長女がびっくりするくらい身体が弱かったからです。しょっちゅう熱を出すお腹を壊す4歳の時に一か月入院する…ような子で、例え採用されたとしても休んでばかりでクビになってしまうのでは…と考えてしまい、新しい一歩をなかなか踏み出せませんでした。

でもヒトは生きているだけでお金がかかります(ため息)。更に家計における教育費の割合がどんどん上がってきている。そして長女もここ何年かで丈夫になった…ということで、私は18年間の専業主婦生活にピリオドを打ち、職探しを開始しました。

【フリーズの連続】

グッドタイミングと言うべきか、その頃私の住んでいる町に大型商業施設が完成し、各店舗でスタッフを募集していました。
その中で私が書店勤務を希望したのは、本が大好きという何ともフツー過ぎる理由からですが、他にも「アニメ化している『あのガ〇コ〇書店員漫画』に影響されたから」「書店員ってなんか知的っぽくて恰好よくね?」「本売るだけだから多分楽だよね?」という面接では間違っても言えないものもあったんですよね(;’∀’)

電話で面接の予約を取り、次は履歴書…。しかしあの用紙を目の前にした途端、私は固まってしまいました。

久しぶりすぎて「あれ? 自分は何年に入学、卒業したんだっけ?」とか「前の会社の正式名称ってなんだっけ?」という「セルフ時差ボケ」から始まり、「…あ、資格って自動車普通免許しかないや」というポンコツぶりに苦笑いし、最後に自分の46歳(当時)の年齢に不安を覚えてしまいました。

英語やパソコンが出来れば違うのでしょうね。

18年間決して遊んでいた訳じゃないけど何か勉強しておけば、今ここで自己嫌悪することはなかったんだろうな~と、今さらどうにもならない後悔を繰り返す私でした。

そして面接日当日…
緊張でガチガチの私はボロボロの受け応えしか出来ず、「あ、自分終わったわ」と不採用を確信。
「あれは予行演習、さあ次行ってみよう」と自分を慰めながら家路についていました。
が、私…なんと採用されてしまったのですよ!
電話を受けてびっくり! これはこれでフリーズしてしまいました(笑)


【自分、本屋舐めてたわ~】

後で店長から聞いたのですが、この店は面接に来た人を全員採用したらしいです(笑)
「オープニングスタッフは3か月後には2割辞めると見越して多く採用した」とのこと。知らなきゃよかった(笑)
まあ、でも採用は採用! 大好きな本に囲まれて楽しい書店員ライフが始まるよ~
…って、そんな甘くなかった!!!
 
書店員の日常を描いた漫画で「この仕事はある程度ハード」だとは知っていましたが、私の場合それ以前の問題がありました。
レジが分からない!
バイトでレジを打っていたのは大学時代の酒屋のアルバイト時代のみ。しかもバーコードを読み取るものではなく金額を打ち込むタイプのもの。
勿論バーコードを読む位ならすぐに出来ましたが、会員カードやクレジットカード、図書カードにクオカード…。更にチャージと言われても複雑すぎて、もう何が何だか…。

勿論教えてはくれました。
だって「未経験の方は丁寧に教えます」って募集広告に書いてありましたからね。
でも教える人が「丁寧」って思っても、受ける側としては100パーセント理解できるとは限らないんですよー。
年齢&元々の理解力のせいか、なかなか覚えられなくて、社員さんをよくイライラさせていました。
暫くの間は、「会員カード無し、現金払い」のお客様に当たると、心の中で「ラッキー」って思っていました(笑)

また、「問い合わせ」も大変でした。
パソコンで店内や取次などの在庫を調べるのですが、
「忙しい時に限って問い合わせが集中」「画面上には在庫がある筈なのに現物は行方不明」
「入手困難なタイトルを、『何とかしてくれ!』と懇願(…無理だって)など…。
一時は「問い合わせ恐怖症」になっていまいました。
でも本好きのはしくれとしては、「今、どうしても読みたい」という気持ちは解るつもりです。問い合わせも少しずつ慣れ、欲しい本を無事に手渡した後は自分もいい気持ちになるようになりました。

【あのー、それやめてくれませんか?】

本が好きという理由で書店員になった私…。でも書店では本好きだからこそ耐えられない事態が頻繁に起こります。
 

それは、一部のお客様の本の扱いの酷さです。

土日祝の売り場は正にカオス!特に『絵本、児童書』コーナーの商品は数時間でめちゃくちゃにされていました。
全く違う場所に置かれるくらいであればまだ我慢は出来ます。でも破損がひどく、商品として売り出せなくなった本を見つけた時にはイライラを通り越して悲しくなってしまいました。

コミックス以外なら、手に取って内容を確認するのは普通でしょう。
が、読んだ後に表紙が上にずれたまま戻し、別の誰かがその本を取り出す時に上から持てば、背表紙の上の部分がつぶれますよね? そうゆう本が結構多いでのす。
 本当に欲しいお客様が、買う時に躊躇します。
お子さんが本を乱暴に扱っているにも関わらず、注意しない親御さんもいます
。これ、書店員のストレスベスト3に入るのではないでしょうか(怒)

しかし中にはこんな方もいました。

泣きじゃくる小さな男の子の腕を引き、レジへやってきた若いママさん。
どうやらちょっと目を離した隙にお子さんが未会計の絵本を破ってしまったようです。その子は他に欲しいものがあったみたいなのですが、
「この本を買うよ!」と問答無用。
当たり前と言われれば当たり前なのですが、思わず「お母さん、えらい!」と感心してしまいました。
多分、この子は常識をわきまえた子に育つのでしょうね。

【天使様達のご来店】

絵本や児童書が充実していた為、家族連れや小学生のグループなど、たくさんのお子様がご来店しました。
本当に今「子供の活字離れ」って起こっているの?って首を傾げたくなる位です。
小学生の子は大体児童文庫ですが、ちょっと背伸びをした高学年の子は、ライトノベルや恋愛小説などを購入していました。
中には東野圭吾の文庫を持ってきた小学生男子も…。
「カバー掛けて下さい!」
彼からは「真の本好きオーラ」が漂っていました。
この子の将来が楽しみです。

小さいお子さんにも癒されました。
ある女の子は絵本を手にしながら、「はらぺこあおむし」の歌を聴かせてくれました。
「ママが歌を教えてくれたの。あのね、ママのこと大好きなの」
富士山のような可愛い口で私に教えてくれた時、心臓にハート型の矢をズキューンと打ちこまれました。 (多分、横にいたお母さんは改めて幸せを噛みしめたことでしょう)
書店に天使降臨です。
書店勤務の一年の間、たくさんのお子さんと手を振りあったり、時にはハイタッチをしたりしました。いい思い出です。

【あ、でも一年で辞めてしまったんですけどね(笑)】

「なんだかんだ言って結構楽しんでない? じゃあなんで辞めたの?」
…って思う方もいるかもしれませんが、理由は2つ。
シフトを希望通り入れてくれなかった
そして
職場の人間関係です。

いくら好きなもの囲まれていても、稼げなければ生活できません。
更に私は一人の女性社員から目をつけられ、仕事がやり辛くなりました。
よく「オープニングスタッフで始まると、人間関係が楽」といいますが、
思うに「学生生活の新年度」と似たようなものですよね?
結局、ここでもグループが出来上がって、
① 「仲のいい人」
② 「気を使わなくてはいけない人」
③ 「何を言ってもいい人」
…に分けられるようになりました。
彼女にとって私は③、私にとって彼女は②です。
 
※勿論、全てのお店のオープニングスタッフの繋がりを否定している訳ではありません。
私にも仲のいいスタッフがいて、今でも連絡を取っています。

退職を決めた後、例の社員の対応は少し柔らかくなりましたが転校してしまうクラスメートに優しくなる心理に似ていると思いました。
もう「知らんがな」って感じです。

ネガティブな章で終わらせてごめんなさいっ!
他にも発注、抜き取り、返品など書ききれなかった作業もありますが、自分はほとんど関われなかったため割愛しました。

まとめとして「私が書店で働いて良かったと思う事」を3つ挙げてみました。

①本が全品20%オフの社割がある
(子供の参考書を購入するときは、かなりのお得感を感じます)
②本の事で意気投合したお客様との会話が楽しい
③売り場の整理や品出しの時に、面白そうな作品を発掘できる   

…です。

①に関しては、「お店によって」ですけどね。
あと「使い終わった販促品はスタッフが貰えるの?」と友人に聞かれたことがありますが、私のいた店は完全にNGでした。使用した後は速やかに破棄されます。
ポスターなど、本当は欲しかった物がいっぱいありましたが、ネットで売り買いが出来るこのご時世では仕方がないのでしょう。
改めて思い直してみると、書店、やっぱり良かったかも。
いや、書店員に戻る気はさらさらないですけどね(笑)

今はファストフード店で働いています。

働いている以上は嫌な事はたくさんあります。
正直、専業主婦時代を懐かしむこともあります。
でも働いてお金を得られるようになったことで、自信を持てることも増えました。

社会復帰を目指しているアラフィフ女性の皆さんへ。

自分、ポンコツですが、とりあえず頑張っています。