雷雪を待つ

雪が降るとどうして少しわくわくするのだろうという話。

高校2年生の冬だったと思う。

母が死んで、ちょっとあの時の記憶を思い返すことができないが。多分それから1年ほど経って、私は人生で初めてアルバイトを始めた。

人生で初めての労働。

とりあえず生きていかないと、などそんな大層なものではなかったけどとりあえず戸籍の上では一人になったことをまざまざと市役所から突きつけられたのでなんとかしないと。
だって一人で生きなきゃいけないんだもの!
とかなんとか拗らせて、馬鹿な話ではあるが思春期だったからしかたない。
当時の家のすぐ近くのチェーンファミレスに面接へ行った。

ここの地域にはまだその頃、ちょっとしたヤンキー被れみたいな人たちがまだいた。
あとはヤンキーになりきれてない人たち。
夜一人で歩いちゃいけなかったし、彼ら御用達のコンビニでは縦横無尽に酒が買えた。

そのファミレスはその御用達の隣にあった。
やはりそこで働いてた人たちはヤンキーになれきれないヤンキーだったり、なんかちょっと癖あるフリーターだったり、学校に行ってないクズな大学生や、不登校。
そんな人たちがたくさんいたと思う。

いろんな人がいたけど高校生だった私は当時そんなことも知らずに大学生とか年上って大人だな〜などと思っていた。

トントンと働き、バイトが終われば制服のまま皆で車に乗り込みドライブへ行き。

やんちゃでかわいい先輩たちは自分たちが楽しめる遊びをたくさん知っているから、こんなに楽しいことがあるんだ、と高校生は思った。
遊び方は非常に健全だったこともあり、父も何も言わなかった。

ただずっとどこかで「私は一人になってしまって、母が嫌って離婚した父が家にいるんだ」
と思っていた私は、思春期爆裂感情にスパイスを掛けた可愛いグレかたをした。
今思えば本当にどうしようもないが、当時は精一杯だったんだろう。

そしてその頃に、
関東地方に記録的な雪が降った。

雪はわくわくする。
ヤンキーもヤンキーに憧れてる可愛い人もみんなきっとわくわくする。

「雪すごいよー!」

と、父と会話したのを覚えている。
夜中に犬を連れ出して雪の中を散歩して、
しんしんと積もる雪をずっと眺めていた。

雪がわくわくするのは、きっとこういう思い出があるからなのかもしれない。

次の日の朝、いつまで経っても鳴り止まない携帯電話で起こされた。平日だったか休日だったから覚えていないが、学校には行っていなかった。

バイトの先輩からだった。はい、と出ると「あ、もしもしー?」とかじゃなくて

「ねえ雪だよ!雪!!雪積もったよ!!」

長い髪をドレッドにして、タバコ吸い散らかしてる先輩が、「雪だよ!」っていう。
バイト先の駐車場で雪合戦しよ!早く来て!
と言う。多分その時22.3才のヤンキーみたいな人が言う。

飛び起きて、着替えて、化粧して
そしてリビングで新聞読んでる父に
「雪合戦してくる!!!」と大きな声で言った。
父は「はーい」とかなんとか言ったと思う。

まるで子供だったろう。
バイト先まで走って行ったと思う。
雪に足を取られながら、朝の8時ぐらいに。

バイト先にはもう10人ぐらいも集まっていて、モサモサ積もった雪でかまくらを作っていた。
「来たな!おそいぞ!雪がなくなるから早く雪合戦しよう!」と、タバコを咥えながらはしゃぐヤンキーみたいな人。

ひとしきり雪合戦をして、指先が真っ赤になって
バイトしてるファミレスで朝ごはんをみんなで食べていると、ファミレスの入り口に父の姿が見えて、ちょっと恥ずかしがっていると「このあと雨になるから、迎えに来たよ」と言った。

それがあまりに嬉しくて、小学生のような気分だった。
その後どうしたかなんて全く覚えていないが、
朝の電話からその日食べたモーニングセットまで。

雪が降るとみんな子供になれるから、雪が降るとわくわくする。

多分この先何回雪が関東で降っても、
この日のことだけはきっと覚えているんだろう。

日付も年も何にも覚えてないけれど
雪が降るとあの日を思い出してわくわくする。

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